めんどくさがりとテスト期間
テスト期間に入ってました。――昨日から。
弟があの時間に部屋にいたのはおかしいと思ったんだ。なんかやたら授業が早く終わるのがおかしいと思ったんだ。告白されるとかおかしいと思ったんだ。朝起きる時の時計の針の進み具合がおかしいと思ったんだ。
おそらく世界線跳んじゃったんだな。はい、リセットリセット。新しい世界での俺の愛称は、ダルいダルい言ってっから、俺の愛称はダルになることだろう。全く関係ないが、俺の体型は中肉中背です。
テスト期間中の教室は、不真面目時々真面目でしょう。
基本カリカリやってる奴は少ないよ。自習時は遊びいく予定立ててる奴とかいるし。テスト範囲教えてる時の教師の「ここ、テスト出るぞ」はカリカリ音増すね。そしてみんなの心の声の音も増す。『はよ言えや!!』……サトリなんだろうか俺。だとしたら、部屋に閉じこもって耳を塞いで過ごすしかないね。仕方ないね。
俺は基本いつもと同じ感じでボーっとしてる。マネキンを軽く下に見るくらいかな? 意識が戻ったら三限が終わっていた。らぁっき! 後一限で今日の苦行終了です。
しかし四限までの時って、なんで昼休みまであんだろね? さっさと帰してくれればいいのにね? 一年の時に目安箱にしっかり書いて入れたのに。……まあ、十中八九忍だな。この学校二つ名持ちが結構いるっぽいし。え? 一と二? 確率的には無視していいっしょ?
そうそう放課後になると思うなよ。
学食ですよ。
テスト期間中の学食は何故か空いてる。まあ、人がごみごみしてる中で食べたくないしね。テスト期間中はほぼ鉄板で学食ですよ。なんせ券売機に並ばなくていいからね。自分の手前で売り切れた時にうなだれなくていいからね!
券売機の前でロリ子がウロウロしてた。今日はツインテを団子にしてる。……おしおきかな? 長さが大分足りないねー。……ともかく並んでんなら後ろにつくか。……あれ? これって忍じゃね?
「あっ! ヤガミ君!」
ビクッと距離をとるロリ子。……ビビり過ぎですね。おかしいなー。俺ロリ子と接点ない(同じ図書委員)……少ないんだけどなー。
俺と券売機を交互に見るロリ子。
? あー。もしかして、買ったことないのか?
先に券を買って説明を始める俺。
「ここで券を買って、あっちで商品と交換。間違えて押しても、おばちゃんに言えば金戻ってくるから。商品がどんなのかわかんなかったら、ここにメニュー表がある」
首を縦にブンブン振るロリ子。……もげちゃうぞ?テスト期間で良かった。平日ならだだごみだから、後ろから心無い奴が舌打ちとかすんだよ。イラッ☆
商品受け取りカウンターで順番が逆になる俺とロリ子。無事、券を買えたようだ。
俺の選んだのは海老天うどん。海老最強。
ゆっくり上がる湯気に俺の口角もゆっくり上がる。
なんで昼飯ってこんなに心躍るんだろう? 朝はあんなにめんどいのにね。不思議。え? 昼飯しか楽しみがないからだって? ……………………………………不思議。
窓際の四人掛けのテーブルに座る。わざわざ奥まで行ったりしないよ。めんどいからね。ここは返却カウンター前だからすぐ出ていけるしね。
一味を振りかけて割り箸をとる。いただきまーす。
――何故か同じテーブルの斜め前に、ロリ子が座る。
えへへ。と言わんばかりの表情だ。実際言ってるし。そこで気付いた。あれ? この前友達は?
「お前、友達いいのか?」
「う? ……ああ! 今日お弁当で……。あたし忘れちゃって」
学食にお弁当持ってきてもいいんだが。ああそっか。今まで利用したことないなら知らんわなー。俺なら一人の方がいいけどな。ま、知り合いと一緒の方がいい奴もいるか。
そのまま黙々と食べ始める俺とロリ子。因みにロリ子は海老とアサリのパスタだ。わかってるなロリ子。
「あっあのね!ヤガミ君」
「ん?」
パスタを巻き巻きしながら話し掛けてくるロリ子。……この前も話し掛けてきたな。沈黙がつらいのかな?
「……テスト、勉強してる……よね」
……話題なかったんだね。質問じゃないもんね。自己完結しちゃった。仕方ない、ここは一肌脱ぎますか! コミュ障じゃないってとこ、みせてやんよ! 俺やってやんよ! 特殊なメガネ掛けたら極限集中できるとか。高校生にとったらマジ神。受験必須。
「数学の二十三ページの例題二と問題集の十一ページは丸々出るぞ」
「……え?」
ビックリして目を見開くロリ子。……そろそろ手、止めたらどうだろう? 手を動かさず口を動かせ!
「あと問題集の十二、三、四ページの最後の問題も、数字が変わるだけで丸々でるぞ。解き方丸暗記しとけ」
「な、なんでわかるの?」
……なんでって。意外にテンプレだからな、あのパンクメガネ。問題の三割はお手製だけど、難易度低めの雑魚問だし、あとは難易度チョイ高めを数字いじって出す。よく「基本が大事ですよ〜」とかのたまってっからな。パンク止めりゃ教師の見本みたいな奴だからな。そりゃわかる。それより手を止めよう。もう巻くとこないから。巨人の一口だから。
「……それ、いいのか?」
「え? ……うわっ」
巨人の一口をカリカリ食べ出すロリ子。……巻きなおしたりしないんだね。めんどいもんね。
「……ヤガミ君って、頭いいんだね」
食事の合間に会話を続けようとするロリ子。俺は食べ終わっていたが、席に残っていた。多分返却カウンターも知らんだろうしな。セルフの定食屋とか行ったことないんだろうな。教室戻ってもやる事ないからじゃないよ? 今日も俺の涙腺は鉄壁すぐる。
「テストの点はそんなでもないぞ?」
途中でダレちゃうからな。目立つのも嫌だ。学年三十位以内とか貼り出されちゃう。俺の弟の名前も一年のとこ乗ってた。テニス部で彼女持ち。……うん。ごめんね? 弟。お兄ちゃん愛が溢れてきたから、今度また溜飲を下げるね?
そんな事考えてたらロリ子の食事が終わる。水を一口含み、ナプキンで口元を拭い、「ごちそうさまでした」と言うロリ子。なんか上品。目線で、食べ終わったぞコラぁ! ときたので席を立つ。……うん。食器だけじゃなく、トレーごと持ってこようか。置くだけでいいんだよ。おばちゃん達が洗ってくれるから。
そのまま学食を出て教室に戻る。当然ロリ子がついてくる。同じクラスだしね。会話? なかったよ。
ホームルームだよ。
昼休みの終わりのチャイムがなると、みんなダラダラ掃除を始めた。『もう十分早くて良かったんじゃね?』みんなの心の声はバッチリ聞こえた。テレパシーの感度は徐々に上がってきているようだ。ひと儲けできないかしらん?
チャチャっと掃除を終わらした後のホームルームで担任が言いました。
「テスト期間中は先生達が巡回してるからなー。悪さして迷惑かけんなよー」
そう。テスト期間は教師が巡回とかするんだよ。暇なのかな? まあ、コンビニでたむろったり、ファーストフード店でくっちゃべるぐらいは何も言わないんだけど。そして、時間も体力も有り余ってる奴らだから、かなりの確率で街に繰り出してく。ぶっちゃけ気持ちはわかる。たまにはゲーセン行ったりカラオケ行ったりしたいよね〜。え? そりゃ、もちろん一人で! いつもより早く終わる授業にテンション上がるしね。
家に! 帰って! きったよー!!
俺に於いての最優先がここにあるんだから、俺はブレない。
いつもよりテンション高めで、自室の扉を開けると、そこにゾン…姉がいました。どこの雪国だよ。ホラーパークじゃん。
「おかえり〜」
「……ただいま」
俺ん部屋いんのはいいよ。でもそこはなくね?マイ・フェイバリットポジション(ベッドの上)じゃん?! ……早くどいてくんねーかな?
あからさまに貧乏ゆすりしていたら、マンガから顔を上げて姉は言った。
「ポテチ買ってこい。ジュースも」
「は? バカじゃん?」
思いの丈をぶつけた俺に姉の表情は消えた(最初から無表情)。
姉の手が俺の顔を掴む。メキメキっ。
「ポテチ買ってこい。ジュースも」
「仰せの通りに」
いつの間にか姉はベッドの上に立っており、俺の足はぶらぶら。俺の体が重力を取り戻すと、「チッ。労力つかわせんなよな」と言われた。あ、俺の心の代弁ですね? ありがとうございます。
「……お金は?」と言った俺に姉の手が伸びてきたので、俺は部屋を出た。だっておかしいよね? 伸びてきた姉の手の中にお金はなかったんだもん。不思議。
コンビニの入り口脇に若者がタムロってた。
……入りづれー。
若者は男四人女二人。男共は車座になって全員うんこ座り。女二人はその脇で立って喋っている。女一人以外全員私服。その一人が俺と同じ高校の制服だった。
ま、入るけどね。他のコンビニ遠いしー。さっさと用事済まそう。あんまり遅くなっても、俺の頭は潰れてしまうのだ。
コンビニのドア(自動じゃない)に手を掛けた所で声を掛けられた。制服の女だ。
「あ! ねー! 学校もう終わったの? 早くね?」
「……テスト期間だから」
制服の女は長い髪を茶色に染めてシャギーを入れていた。薄くメイクもしていたが、正直必要とは思えないほど可愛いかった。
隣のケバい女が、「……誰? 知り合い?」と声を掛け、茶髪が、「しらな〜い」と返していた。
「あ、もういいよ。ありがと。バイバイ」
ニッコリ笑いながら軽く手を振る茶髪。さっさと店内に入る俺。
うん。俺もしらねーよ? ……俺の扱いが雑だよ。家でも外でも。『鉄の涙腺』の二つ名を持つ俺はそんなことじゃ泣かないがな! なんか男共も注目しだしてたし。あれ以上長かったらからまれるとこだよ。マジめんどい……。最近ゆっくりできねーなー……。明日休みだからゆっっっくりしよー。
フラストレーションまぁあっくす! な俺は家に帰るなり姉の顔に買ってきたものを叩きつけた(ジュースin)。俺の顔は潰れてしまったが後悔はなかった。
ゴリラは戦利品と漫画本(俺の)を手に引き上げていった。
満身創痍な俺がベッドの上に横たわるのは、極自然なことだっただろう。平和を手に入れるためには、時には犠牲が必要だと、俺は学んだ。