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乙女それぞれ 僕編

 幼い頃から人と違っていた。それに気付いたのはいつだったか……。


 僕には人の『違和感』が見える。


 違和感を感じるわけではなく、見える、つまり可視できる。


 周りの人がコレを見えてないと気付いたのはいつだったか覚えてないが、物心ついた頃には僕にはハッキリとコレが見えていた。


 その効果は様々で。

 嘘が見抜ける。会話に違和感を見つけられる。

 隠してる物が分かる。隠してる場所に違和感を見てとれる。

 人間関係を読み取れる。人と人との違和感を掬える。


 この感覚の説明は難しい。色分けされると考えるのが一番近いかもしれない。


 この能力のおかげで、僕はトラブルに巻き込まれる事がない。

 嘘をつこうにもすぐに見破れる。隠し事も意味をなさない。


 子供頃に、同年代の子達と遊ぶのにはすぐに飽きた。だから同年代の子達で遊ぶ事にした。


 『違和感』をつつく。


 それだけで、関係は壊れ争いが生まれ『本物』の感情を感じた。


 楽しい!


 仲良しこよしの二人の間の違和感をつついた。二人とも同じ男の子が好きというものだ。違和感だらけだった友情に亀裂が走り、二人が二人とも相手の見てないところで陰口を叩きあった。

 近所の子供で集まって遊んでいる集団の違和感をつついた。誰それの持ち物が互いになくなったというものだ。違和感だらけのグループに亀裂が走り、その集団は集まって遊ぶ事がなくなった。


 たのしいなぁー、たのしいなぁー。


 陰口には違和感がなかった。本音はどんな猥雑な言葉でも綺麗だった。

 疑心暗鬼になった集団には違和感がなかった。どんな些細な行動でも他人を気にしないものはギクシャクしていなかった。



 それも飽きた。



 小学校の高学年になる頃には、同い年の子の違和感をつついても面白くなくなってきていた。反応が一々同じだ。つまらない。


 僕は相手を変える事にした。大人に。


 やり方も変えてみた。人間関係をつつくのではなく人の繋がりをつついた。すると金になった。親は喜んだ。僕はあまり面白くなかった。


 中学生。


 僕はこの能力のおかげで勉強ができた。簡単過ぎてつまらない。受験を受けて有名中学に進学。この頃から、感情が表情に出なくなってきていた。なんでかな?


 喋るのも最低限の事だけ。どうやら僕の一人称は変らしい。自分の違和感はわからない。なんでかな?


 この頃、初めて告白というものをされた。僕の容姿は優れているらしい。今まで近づいてきた人は誰であろうと違和感をつついていたので、同い年で僕に告白する子はいなかった。僕は興奮した。


 『違和感』をつついた。


 性的な目的なのに、僕の雰囲気が好きだそうだ。しどろもどろになった。あまり面白くないな。初めてのパターンが見られるかと思った。残念だ。


 この年頃の年代の子は反応が変わってきたことに気付いた。告白もそうだが、隠す事にたけた人物も出てきた。反応が見られないのでは意味がないので、隠している事も暴ける技術を磨いた。隠し事を暴いた時の感情や表情は、違和感をつつくのとは別の楽しさがあった。逆に大人の違和感をつつくのには飽きてきた。隠し事を暴いても反応が薄かったり、悪い事だと諭してくるから面白くなかった。そういう人は親を表に立たせると反応が変わるのだが、ひどく面倒だった。僕は中学生で遊ぶ事にした。


 道徳観念や倫理観が出てきている割に、考え方は幼く羞恥心だけは強い中学生で遊ぶのは楽しかった。やっちゃいけないと分かっているのに手を出す。むしろ悪い事だからやってみる。そんな連中の、なんと脆い事か。恐怖や羞恥で歪む顔の、なんと面白い事か。


 時に物理的な手段で僕を屈伏させようとする輩がいるが、行動に違和感を感じたら対処している。僕の運動神経は悪くないので、体の違和感をつついたり武器で攻撃したりする。物理的に肉体を痛めつけるのは楽しくないなぁー。僕に向けられる畏怖が表面的なせいかな?


 中学生で遊んでいた僕だったが、教師が何人か気付いたのか絡んできた。違和感をつついてもいいのだが、反応が薄い大人は手順が面倒だったので、弱みを握る程度に収めた。何人かジワジワと疲弊させていってみよう。反応が違うかもしれない。


 違和感の無い人間というのは、存在しない。限りなく少ない人間はいるが、ずっと観察を続けたら違和感は顔を出す。教師の中にも一人いた。生徒に人気のある女教師。名前…………忘れた。あと中学生時代で記憶に残っているのは違和感だらけの男教師。こちらの名前も思い出せない。


 この二人は、僕が遊んだ玩具の修理をしようと頑張っていた。それぞれ反対の目的で。


 違和感というのは、その人の本質や目的に沿わない行動や言葉の事だ。話の中の嘘や隠してる行動に色がつく。男教師は原色でギトギトだった。


 授業の内容は違和感だらけ。おそらく『教える』という行為がこいつの中では授業に沿わないのだろう。教師に向いてないのだ。


 唯一違和感が消えるのは生徒とふざけている時だけ。正確には女子に触れる一瞬だけ、違和感が消える。逆に『違和感』だろう。大体の目的がわかった。


 罠を仕掛けた場所に男教師がやってきた。なるべく綺麗と評判の玩具を餌にしたら、呆気なく釣れた。違和感だらけの人間は隙が凄い。今までどうやって生きてきたのだろう?


 不特定多数の人間が見てるとも知らず男教師は女生徒に襲いかかった。飢えた野犬のようだ。僕はこの後に見られるであろう表情にドキドキしていたが、行為の寸前で男教師は取り押さえられた。女生徒はひん剥かれ泣いてる。なんだ、つまんない。やはり今後は一人で楽しむべきだな。この両人が多くの人間にバレるのを忌避していたから配信したのに。邪魔するなんて無粋。


 僕はもう一方の玩具で遊ぶことにした。


 女教師は今まで出会った人の中で一番違和感がなかった。男教師はノリの良さで人気があったが、女教師はハッと目が覚めるような一言を普通に分け隔てなく生徒や教師に投げかけることで人気があった。真実をつく一言は人を惹きつけてやまない。毅然とした態度や平等な価値観も人気の一因だったのだろう。


 僕は観察した。


 違和感の見られないこの女教師が、唯一言動に『色』を出すのが異性関係の話題だった。


 しかし男教師のそれとは違い、嫉妬や羞恥に近い物だということが分かった。男性関係の話題は露骨に避けていた。男教師の行動も、憤懣やるかたないという態度と発言をしていたが、男性云々ではなく教師として失格と言っていた。


 僕は女教師を調べた。


 女教師は特筆して後ろ暗い事はしていなかったが、彼氏がいた。


 おそらく女教師の違和感の一助だ。僕は女教師と彼氏に接触してみた。


 女教師は明らかにうろたえていたが、彼氏は普通に話せた。彼氏の違和感がなければ。


 どうやら女教師は彼氏が異性と話すのを喜んでいないらしい。例え自分の生徒でも。嫉妬心が強いようだ。態度や表情に出ている。違和感はない。


 しかし彼氏は違う。


 抑圧されていることに『違和感』が見えた。会話に行動に『違和感』が見えた。僕に対して『違和感』が。最近見た色だ。ああ、いいな。おもしろそう。


 その日はそれで帰った。大体の事は分かった。さぁ遊ぼう。


 ある時、女教師の彼氏と接触した。偶然を装って。


 彼氏はすぐに誘いに乗ってきた。聞かれてもいないことを喋り僕をどこかに連れていこうとした。僕は大人しく付いて行った。歩きながら僕に放つ美辞麗句はノイズに聞こえた。もっと綺麗な音が聞きたいな。たぶん、もうすぐ聞ける。


 いわゆる、そういう事を目的とした場所に入った。彼氏の行動に違和感が少なくなった。僕のような子は好みだそうだ。それは良かった。


 女教師が来た。


 まだシャワーを浴びただけだったので、随分早い。行為の最中に来てくれたら最上の結果だったろうに。残念。


 しかし、結果は最上のものとなった。


 女教師は彼氏を激しく非難した。彼氏は酷く狼狽し言い訳を募った。結婚の予定もあったそうだ。そして、結婚までお預けだったそうだ。


 楽しい催しだった。女教師はそれから嫉妬心のままに僕も非難した。並べたてられる罵詈雑言には違和感がなかった。綺麗な本音は僕を高揚させた。僕は会話の隙間で彼氏と女教師の違和感をついた。言い争いは激しくなり女教師が包丁で彼氏を刺した。違和感はなかった。僕は喜びを覚えた。


 もう少し見ていたかったが、女教師が僕にも襲いかかってきたので仕方なく眠ってもらった。これが女教師を見た最後だ。


 この刃傷沙汰以来、僕は少し有名になった。髪の色や瞳の色も関係しているらしいが、周りの人の違和感の色ほどじゃないと思う。


 高校に入る前に、両親の違和感をつついた。理由はない。暇つぶしだ。


 お互いがお互いとも浮気をしていた。呆気なく離婚になった。ついでに後ろ暗い所もバラしてやった。二人とも捕まった。刑期は……覚えてない。たぶん生きてる内には出られないとか。


 この頃の僕は、喋る事を止め、表情が動かなくなっていた。酷く億劫だった。


 親戚筋の弱みを握って一人暮らしを始めた。高校受験の頃だ。


 進学校に行く意味は特に見いだせなかったが、教師の言われるままに進学した。もう中学には飽きた。高校になったらまた変化が望めるだろうか?


 受験は受かったが主席ではなかった。さして興味もなかった。僕は高校で物色を開始した。


 『十傑』という特殊な人達がおもしろそうだった。僕も一人に数えられている。なんでかな?


 出来れば三年生から始めたかった。一年生はまだ三年期間があるから、今年ぐらいしかチャンスがない三年生からが良かった。


 しかし、なかなかチャンスは訪れなかった。圧力がかかったり奇妙にかわされたり、接触がとれなかった。もしかしたら僕のような人がいるのかも? 僕は行動を続けた。


 三年生との接触や情報の収集をしながら、クラスメートの違和感をつついてみた。まぁ繋ぎだ。


 一人、女子の中心人物に強い色の違和感持ちがいたので粉を掛けたら、あっさり乗ってきた。なんだかんだで高校生の違和感をつつくのは初めてだったので、少しワクワクした。


 いい表情だった。笑い声や陰口が耳に心地よかった。


 写真を撮ったり声を録音したりもしたが、やはり再生させても何も感じなかった。実際に目にするのが大事だ。


 反応が薄くなってきた。


 最初の方は、対策を打ったり愚かにも武力で直接止めようとしたりと、楽しかったが、適度に痛めつけたり脅したりしたら学校にこなくなってしまった。さて、どうしようかな。


 取っておいた女子の中心人物の違和感をつつこうとしたら、『十傑』の一人に話を持っていった。同じクラスの…………なんだっけ?


 この男子は違和感が少ない方だが、見たことないレベルじゃない。程々だ。


 だけど能力は凄まじい物を持っていた。たぶん今まで出会った中でダントツ。ほんとに人間かなぁ。


 これと一年生の総代が『十傑』らしい。僕は予定に反して一年生から遊ぶことにした。


 分かりやすい形でイジメをこの男子にバラした。あの女子との会話は知っている。男子は僕に話があると言ってきた。誘導されているとも気付かず。僕は男子の家についていった。


「先に部屋にいってて。お茶淹れてくるよ」


 気遣わしげな表情で二階に上がる階段を指されたので、大人しく二階の部屋にいった。部屋のベッドに腰掛ける。彼女がいるらしいので何か違和感が拾えるかもしれない。


 おかしな部屋だった。


 天井の隅に違和感があった。あとは……違和感が湧いては消えるを繰り返されてる。まるで部屋の主の意思には沿うが部屋の本質ではないような…………この能力を初めて不思議に思った。綺麗に片付けられた部屋だが? いつもは意に反して散らかってる? 俄然天井に興味が湧いた。

 天井を注視していたら、誰かが来た。その誰かは違和感だらけだ。


 すぐに気付かなかったのは、違和感の色のせいだ。


 無色透明。


 よくよく観察しなければ気付かなかった。うねりのような物を身に纏っている。違和感のうねり。なんだろう、この珍獣は。


 僕が向こうを見ていたら向こうも僕を見つめ返してきた。ポケットからパックのコーヒーを取り出してストローを挿して飲み出す。その行動に『違和感』は見られず。しかし身に纏ううねりは消えず。


 その後、男子が部屋に入ってきて珍獣が男子を持っていってしまった。話の断片から、あの珍獣は男子の兄であること。この部屋は珍獣の部屋であることが推察された。僕は珍獣をもっと眺めていたかった。


 叩きつけるように閉められた扉は、反動で少し隙間が空いていて、話し声が聞こえてきた。僕は扉に近づいた。


「簡単だろ」


 男子が僕のイジメについて説明を終えたあと、珍獣がそう言った。


 僕は『遊んで』いるだけなのでイジメてるつもりはない。珍獣の説明は、まるで見てきたかのように的を射ていた。僕は軽く興奮した。もっと近くへ。足音を消し、しゃがみ込んでいる二人の背後に腰を降ろした。


 珍獣は僕の目的にも言及していた。その通りだが、僕の目的はハッキリ変わった。




 男子がこちらに気付く。珍獣と目が合う。


 喜びが溢れ出してきた。僕は、遊び相手を見つけた!

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