めんどくさがりの日常
例え兄が瀕死でも弟は無視。機械なんだね? 油とか流れてる?
何故か隣で姉ちゃんが寝てたよ。いや帰れよ。自分の星に。
ゆっくり覚醒しようとする俺の首を姉が掴む。
「……とってこい」
犬じゃないよ?
起動シークエンスを強制カット。オールレッド! 逝けます!!
俺はヨロヨロとベッドを降りると、投げ捨てられた布団を掴んだ。
布団を隅に投げ捨てたのは弟なのに……。
理不尽の塊(姉)に布団を被せ封印する。俺が降りた隙に姉は体を伸ばしベッドを占領してしまった。ここ誰の部屋か知ってる?
とりあえずボロボロの制服を着替えるか。
俺は着替えと新しい制服を持って風呂場に行くことにした。茶髪がクリーニングしたやつ。
脱衣所には母さんがいた。洗濯機に洗濯物を突っ込んでいる。
「あら、おはよう。今日は随分早いのね?」
「ま、ね。風呂入っていい?」
「洗濯終わるまで待って。先にご飯にすれば?」
「……そうだな。そうするか」
俺は着替えを脱衣所に置いて台所に向かった。
服のボロボロ具合とか傷の具合とか家族は全員スルーだね。だってみんなもっと酷い事俺にするもんね。四回転とか肉塊とか消滅とか。家庭って殺伐。結婚は墓場らしいので仕方ないね。
台所に行くと、誰もいなかった。俺に父親っていたっけ?
小麦粉を練り上げた物体を焼いた。トランス脂肪酸を塗りたくって咀嚼する。牛の分泌物をガブガブ飲み干し、小魚を丸ごと火炙りにした物を噛み切る。人って残酷。
体を命で満たし、ご満悦の俺。左腕? くっついたよ。カルシウムが大事。
「お風呂いいわよー」
母さんが台所に洗濯物を抱えて入ってきた。俺は風呂はカラスの行水なので早い。余裕で学校に間に合う。
脱衣所に戻ると、とりあえず着てる物は全部ゴミ箱にぶち込んだ。所詮使い捨てよ。
まるでゴミのようだ。と、ゴミ箱を見ながら気取ってみた。おかしいな。俺の右手には何も宿っていないのに。
髪と体をサッサと洗い湯船に浸かる俺。昔の偉い人は言いました。命の洗濯と。賢者だな。奇跡も起こせるよ。
朝風呂って何かテンション上がる。良かった。今日も頑張れそう。
ガラガラッ
終焉と死の女神(姉?!)が入ってきたよ。当然裸。
「…………」
「…………」
風呂場のガラス戸がゆっくり閉まる。テンションは一気に下がる。もうダメ。挫けそう。
「……上がったら話す事があるわ」
姉の声。
被害者は俺なんだよ。鍵を掛け忘れたのも俺だけど。
よーく耳を澄ますとシュルシュルと衣擦れの音がする。また服着てんだね。
「……姉ちゃん」
「何」
「綺麗でした」
ガタガタンとコケながら姉は脱衣所を出て行った。
得点稼ごうとしたんだけどね。オウンゴールかね? Hって変態の頭文字らしいよ。頭文字H。俺の名前。
俺は風呂から上がると体を拭いて着替えた。上がったばかりなのに何故か体は冷えていた。
制服を持ってきて置いて良かった。後は自転車まで駆け抜けるだけ。ポイントは、脱衣所前、玄関、車庫か。一秒も無駄にできない。俺に終焉が訪れる前に行かなければ。
俺は脱衣所の扉を開けた。
昼休みだよ。
今日も今日とて授業があった。偶に授業でゲームとかやればゲームユーザーも減るんじゃないかと。ゲーム脳とか言われなくなり、社会の新しい基盤にゲームが入り、若者の将来の夢がゲーマーに! 勝つる!! そこでチャイムが鳴りました。ゲームセットですね。わかります。
今日は屋上。窓持ち上げなくてよくなったから楽なんだよね。
前まで庇の下で食べてたけど、黒縁の遭遇に備えて給水塔の横で食べてる。梯子ないんだけどね。ジャンプで。
俺は飛び上がった。
よっこら、
「待っていたわ」
しょ。
俺は降りた。
着地して後ろを振り仰ぐと黒縁も丁度飛び降りてくる所だった。直撃コース?! 避けてみせる!!
ヒョイとね。
黒縁は何てことない様に着地。意外と運動できそうだな。黒だった。いかんよ。遺憾。
黒縁は着地した体勢のまま下から俺を見上げてくる。わかってる。男ならこうだ!
「ありがとうございました!」
「……いえ、御礼を言ってほしいわけじゃないのだけれど……。受け止めるとか、こっちを見ないとか」
ズボンの折り目に指を添え四十五度に頭を下げる俺に、黒縁は残念そうな視線を向けてくる。
本望。
さて、昼飯食べるかね。
いつも通り庇の下に座る。隣に黒縁も座る。逃げないし媚びないし省みないよ。不毛ゆえ。
黒縁は手にマックの紙袋を持っていた。俺が知らないだけで校内にマックの出張所があるに違いない。
俺はポケットからいつものを取り出す。黒縁の紙袋からは魚バーガーが一つでてきた。それだけ?
「飲み物もあるわ」
若干嬉しそうなドヤ顔でポケットからペットボトルのお茶を取り出す黒縁。男子的には増えてないよ。
二人でパクパク。会話はないよ。いい天気だな〜。
「そうね」
…………。
女性だもの。全て解決。
「そっちはこの前食べてない方ね?」
黒縁が早々にバーガーを食べ終わり俺のイカカツに目を付けていた。嫌ですよ?
「ところで先程の事なのだけれど、私の下着」
「先輩。お一つどうですか?」
俺は小さい人間だ。俺はそんな人間だ。
結局イカカツは一つずつ食べた。下級生からカツアゲとか止めて欲しい。
コーヒーをグビグビやっていると黒縁が話し掛けてきた。
「じゃあ、判子を貰えるかしら?」
「嫌ですよ?」
見つめ合ってお互いに首を傾げる。悪徳高利貸しはポケットから入部届ではなく、何か小さな機械を取り出した。スイッチを入れる。爆弾?
『遺書を書け。疾く』
聞いたことある声だなー。それにしても声の低さといい内容といい物騒だわ〜。
「この声の男は、私を地面に放り捨てて遺書を書くよう強制したわ。本当に恐かったわ」
アナタが?
「……まず『どのように』から聞いても? 『誰』はハッキリしてるんで…………」
「5W1H? 難しいことじゃないわ。あの時は死ぬと思ったから、地面に落ちるまでに遺言を残そうとしただけよ」
意外と冷静だったんすね。
「まさか助かるとは思わないもの」
黒縁が『ビックリしたわ〜』と言いたげに片手を頬に当てフーと息を吐き出す。
焦るな俺。まだ弱い。突っぱねるんだ!
「幽霊部員でいいですか?」
俺の肩書きに『文芸部員』が追加された。
放課後さ!
さっさと帰ろうとする俺につり目が待ったをかけた。何故?
「八神君、今日ゴミ当番。掃除の時に行ってなかったでしょー」
さいで。
ゴミ箱持ってゴミの集積所に向かう。早く終わらせましょう、そうしましょう。
ゴミ箱をポンポンやってると弟がジャージで走ってきた。
「あ、兄ちゃん。ゴミ当番?」
「誰かがやらなきゃならない事だから、俺は躊躇わない」
「……皆毎日交代でやってるよ」
「ま、まっ、って。は、はやいよ。やが、みく」
汗諾々で他の一年が息も絶え絶えに追いついてくる。死ぬんじゃね?
「なぁ。部活って楽しいか?」
「あんまり」
おい。
弟は困った様に笑いながら続ける。
「筋トレとランニングと雑用が好きな奴って稀だと思うよ。それでも続けて部活に残る奴は、本当にテニスが好きなんじゃないかな」
そんなもんかね。じゃあ、俺は長く続かないね。黒縁には悪いが。
手を降ってその場を後にする。弟は問題なくまた走りだしたが、後の奴らは子供にも抜かれそうなペースだった。
部活って食えない。
家に!! 帰って!! きたよぉぉおおお!!!
さて一日の始まりだね。心がウキウキしちゃうぜよ。しかし、学習能力の高い俺は軽々とドアを開けたりしない。どこぞのバカ女は希望だけ残したらしいが、俺ならそもそも開けない。コンクリ詰めにして海ポチャだよ。物語は始まりもしないんだよ。
まずチェック。車が両方ない。両親はいない。弟は部活。あとは……。やはり最後に残ったのは絶望だったか。
不可能な任務なのに達成できるとかイミフ。とりあえずドアに耳をつけてみた。こちら蛇。状況はどうだ?
音は聞こえなかった。ゆっくり鍵を差し込み回す。……チャ。おっけ慎重に。ゆっくりドアを開く。…………誰もいない。ふぅー。時限爆弾のニブイチのコードも、これに比べりゃ児戯に過ぎない。
「そのままゆっくり家に入りなさい」
耳元で囁かれるソプラノは天上の調べだった。一瞬意識が飛ぶ。神は俺に何を望んでいるのか。
横目で姿を捉えようとするも、何故か俺の瞳には何も映らず。汗だけは滝の様に出た。
「ゆっくり入るのよ? 今してた様に。簡単でしょ? 私が手伝ってあげましょうか?」
変わらず耳元で囁かれる声。あれれ? おかしいな? 僕おクスリやってないよ?
終末からの呼び声(姉)は軽く俺の背中を押した。
「待って待って待って待って待って待って!!」
「嫌よ」
今日の折檻はキツいな〜。
こうして日々肉体の限界に挑んでいる俺は、常に体力ランプがエンプティだ。なんとか保たれた命は、次の日の朝、コーヒー飲むためだけの物程度だ。
何がめんどいって? また目が覚める事が一番だろ。みんなどうやって耐えてんの。
コツを教えろくれさい。
めんどくさがりの日常はこうして過ぎていく。
おまけ。
気絶から目覚め、部屋で部屋着に着替えてたら、ポケットからカードが出てきた。
メッセージカード。
『本当のほんっっっっっとうにありがとう! メチャメチャ感謝してるし、優しくしてくれて嬉しかったよ!!』
茶髪から返して貰った制服。今日着るのが返ってきて初。
俺は息を吐き出すとお手製ライフカードの上にそれを置いた。
『生きていたい! ありがとうを言うために!』
どうも。
サッサと風呂に入って飯を食うか。例え俺が死んでようが弟は起こしにくる。
とりあえず、ここで一区切り。
主人公がラブらないので学園物に。学園が好きじゃないようなので闘いに。闘いは強制です。もうホントこいつやだ。女の子で弾幕張ってやろうか。隙間なくしてやろうか。
次回は澁澤さん。オカッパは人気次第で出ます。




