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めんどくさがりの気まぐれ



 久しぶりに学校に来た気がする。毎日真面目に来てるのに。


 水曜日だよ。


 睡眠が大切な事を知った俺は、寝て本読んで寝て本読んで寝て本読んでを繰り返した。その結果、なんと不幸な事に月曜と火曜をお休みしてしまった。教養を高めるために教育を放棄せねばならないとは。世の絡繰りの不思議なとこよ。仕方ない事を主張。


 今日も疲れた頭を理由に休む事を声高に発言した所、姉が台所に入って来たので大人しく家を出た。今日俺が無傷なのは、俺の学習能力の高さに起因するとこだろう。


 日々勉強とか、やはり俺は模範生すぐる。









 移動教室がタルいので、偶にはみんなと逆の方向に進んでみた。個性って大事。言い訳に凄く便利。


 進行方向からロリ子がノートの山を抱えながらフラフラ歩いてきた。隣にはつり目が重そうな教材を持っている。


 俺は一つ頷くと、邪魔にならないように端っこに寄って通り過ぎた。


「待ちなさいよ!」


 グエッ。


 つり目が俺の襟を掴んだ。俺の首が締まる。


「クラスメートのか弱い女子が重い荷物持ってんのよ? 八神君同じクラスの男子なんだから『俺も持つよ』ぐらい言いなさいよ!」


「やっ、やが」


 ロリ子が廊下にノートをぶちまけた。つり目が俺を睨む。え? これ俺のせいなの?


 ロリ子は慌ててノートを拾い集めだした。つり目が顎を振って、『おら。てめ、わかってんよな?』と言わんばかりの目で俺を見る。


 俺は一つ頷くと、踵を返して歩き去ろうとした。


「なんでよ?!」


 グエッ。


 再び締まる俺の頸動脈。

 振り返るとつり目が怒っていた。やめておけ。それ以上目は吊り上がるまい。


「だ・か・ら!」


 スポーツ飲料!


「困ってんのは見て分かるでしょ!」


 !


「なんで驚いてんのよ!」


 リアクションで分かり易くしようと両手を挙げて驚いた。なのにつり目は怒ってばかり。ふぅ全く。何が気にいらないの?


 俺の、何が不満なの? という視線と、つり目の、貴様の全て! という視線がぶつかる。


「……」


「……」


 暫く見つめ合う。


「…………」


「…………」


 恋が生まれそう。


「…………八神君。私の名前」


「持つよ」


 電光石火。


 人生最速の動きでつり目から教材を奪い、ロリ子が集め終わったノートを持ち上げる。


「あ、あり、ありがとっ!」


 ロリ子がお礼を言ってきた。いい子だね? 惚れそう。


 俺は期待を向けてつり目を見た。彼女の視線からはうっすら霊気が洩れていた。邪眼なの?


「……八神君。なま」


「さあ二人とも! 授業が始まっちゃうぜ! 急ごう!」


 つり目が何か言いかけたけど、俺は気にしなかった。


 二人を置いて走り出す。


 模範生の俺が授業に遅れるわけにはいかないからね? 他意はないとですホント。


 ロリ子とつり目がついてくる。俺はそれを横目で確認。


 つり目の視線は俺から外れなかった。恐い。









 視聴覚室での授業は退屈極まりない。


 自習と違って、ずっと監視の教師がいるので席を離れるわけにはいかず、かといって流れる映像には興味もわかず。


 隣の席の奴とコソコソ話すか、机の下でスマホ弄るくらいしか有用に過ごせない。担任は適当なのでプリント配って寝てるし。


 俺とロリ子とつり目は一番後ろの方の席に陣取った。少し遅れたから其処しか空いていなかった。


 俺の両隣にロリ子とつり目が座る。挟み撃ちだ! どうしてこうなった? 三人掛けの席の真ん中に俺が座ったからですね。……もう一つ空いてるのに。


 俺はビクビクしながらつり目を見た。


 つり目は前を向いて映像を見てたが、俺が視線を向けたのに気付くと俺に目を合わせた。


「八神君。な」


「次の図書当番いつだっけ?」


 俺はグリンとロリ子の方を向いた。ロリ子は急に話しかけられたせいでビクっとした。


「え、えっと。まま待って」


 ロリ子がスケジュールを確認しようとスマホを取り出す。俺もスケジュールに入れようと携帯を取り出す。普通の流れだ。


 後頭部にチリチリ視線を感じるぜ! 穴でも開けたいのかなぁ?


 受信メールからロリ子のメールを選択。よしオッケー。うふふ。

 ロリ子から図書当番の日を聞き出しスケジュールに記載。携帯をポッケへ。振り返ると黒い炎を出しそうなつり目が未だ俺を見ていた。


「名前」


 八神君がなくなってしまったが、俺は心の中でほくそ笑んでいた。バカめ。いつまでも昔の俺だと思うなよ?


 俺はドヤ顔で言った。


「何だよ? 真田」



 ゴッ。



 世界が狙える右だった。


 強制的にロリ子の方に顔がハネる。


 ロリ子はアワアワしながらも自分を何度も指さした。ロリ子、ほんに良い子やわ〜。今のでロリ子の名前も覚えてない事はわかってるだろうに。友達は選びな?


 気を取り直して再びつり目と対峙する。つり目は頬杖をついて変わらずこっちを見ていた。


「名前」


 冷や汗が吹き出る。大丈夫だ。あと一個しかないもんね。あれ、これ外れたらもしかしてずっと殴られんだろうか?


「うっす、鳴神さん。自分に何か御用でしょうか?」


 それにつり目は頷くと、笑いかけてきた。


「いーや? 何にもないよ。荷物持ってくれてサンキュー」


 反対側でロリ子が首をブンブン振ってる。


「あ、ありがとう! 凄い助かったよ」


「ああ。真田も悪かったな。名前忘れてて」


 また逆鱗に触れる前に謝っとこうと思い、ロリ子に軽く頭を下げる。


 ロリ子は口をパクパクさせると赤くなって俯いてしまった。オコなの?


「……八神君と話すの初めてだねー。なんで私、さん付けなの?」


 ロリ子の反応を待ってたら、つり目から話しかけられた。君ら授業はどうでもいいんだね? 前見てないもんね?


「鳴神さん恐いっスから」


「わーお。初めて言われたよそんなこと。……でもさー、原因は私にないと思うんだけど」


 主に目とか。男子は思ってても言えないんじゃね? 恐くて。


 俺は適当にフォローしておいた。


「間違った。女性、皆、コワイ」


「女性不信じゃん。だったら恵理は? 何で呼び捨て?」


「…………」


 ロリ子の方を向くと、会話が気になったのかこっちを見ていた。


 そう言われると、何でだろ? ああ、そうだ。


「俺を唯一殴らないから」


 おさげ? ナニソレ知らない。


「……そういえば、さっき殴ってから口調変わったね。そんなに怒られるような事――してるね。八神君優しさ皆無だし」


 つり目は何でも無さそうな感じで喋った。


 しかし俺はショックだった。


 え? 俺優しさ皆無なの? 頭痛薬飲めば改善される?

 動揺した俺は少し考えを巡らせる。

 いや、そんなバカな。だって俺結構善いことしてる。迷子を家まで送り届けてるし。暴漢から女の子助けてるし。家の手伝いもしてるし、彼女に振られそうな弟にアドバイスもしてる。……でも、一回はスルーしてんだよな。おかげで迷子はこけるし、茶髪は剥かれるし。家の手伝いを進んでやったこたぁないし、アドバイスは紅葉……。


 アレ? 俺、全然善い奴じゃないな。


「俺は悪人だ」


「でしょー? 悔い改めなきゃモテないよ」


 興味なさげに返すつり目にロリ子が待ったをかけた。


「ち、違うよ? 大丈夫。ヤガミ君は善い人だよ!」


 ロリ子が拳を握って力説してくれた。


 ありがとうロリ子。でも図書室での事を言ってるなら違うんだ。仕事意識でやったんだ。ロリ子の身長がもう少し高ければ恐らく手は貸さなかった。


 その後もダラダラと会話した。基本つり目がズバズバ、ロリ子がフォローだ。切り裂かれた俺は珍しく反省した。


 プリントの感想欄に、


『第三者から見た事実と主観は著しく異なる場合がある。己の視点も俯瞰で考えた場合に主観と異なる場合がある。この事実と俯瞰視点との整合性が取れるなら、客観的思想に基づきこれが真実だと認めるに至るべきだ。幾つかの可能性は残るかも知れないが、常識の範疇に照らすのなら他人の意見も柔軟に取り入れる事にした方が良いだろう。』


 と書いたら、副担任から呼び出しをくらった。ごめん先生。俺は先生の名前も知らない。









 昼休みは購買で残り物のパンを買い教室で食べた。空き教室での茶髪遭遇率が高い為の対処だ。


 教室で黙々とパンを食べていたら、また隣の奴らが話しかけてきた。


「今日は亜丞先輩と蕪沢さん来ないね」


 黒縁と尻尾の事だな。諦めたんじゃね?


 俺は、ぼくしらなーいと首を傾げた。


 周りの奴らも興味のある話題だったのか食いついてきた。


「それな。亜丞先輩とか噂程変人に見えんかったわ。マジ目のホヨウになったわー」


「蕪沢さんには普通にビビったけど」


「俺、『お願い』見に行った事あるわ。マジすげーよ?」


「あ、僕、亜丞先輩の本持ってる」


「マジ? 俺にはシキイ高いわー」


「つか今日、亜丞先輩は知らんけど蕪沢休みじゃね?」


「あー、月曜からずっと休んでるわ。それこそ八神追っかけてんじゃね? とか思ったもん。先に八神が出てきたけど」


 そこで視線をこちらに振られる。あっ、この会話、俺も参加してたんですね。


「で? ぶっちゃけ何かあった?」


「知らん。月曜と火曜はラノベ読むため休んでた」


「らのべ? 何? 何て?」


「小説だよ小説。俺持ってる」


「僕も少し読むよ」


「……小説、少しぐらい読めるようなっとくべきか?」


「俺、字だけとか無理げ。つーか八神、おもくそズル休みじゃん」


「なになに、何読んでんの?」


 一人食いつきのいい奴を相手しながら、俺は考えてる事があった。


『私、八神が来るまで、ここで待ってる』


『八神君優しさ皆無だし』


『大丈夫。ヤガミ君は善い人だよ!』


 瞬間閃き心響き合う。




 偶には自分の考えと逆を行ってみるか。ホントめんどくせー。

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