めんどくさがりとメール
ガンガンいこうぜ! と、命をだいじに! はわかるよ?
ガンガンいこうぜは全力攻撃、命をだいじには引きこもる。分かり易い作戦だよね?
でもさ? 魔法をつかうなは分からないよね?
いや! 意味は分かるんだ。魔力を残してここぞに備えるんだよね?
でもさ、考えてみてくれる?
君は魔法使いです。三十歳じゃねーよ。異世界転生チートって考えて。
作戦は、魔法をつかうな!
モンスターの群れと遭遇。無双は止めて。
コマンドを選択。みんな行くぞ!
しかし、一人が集中攻撃を受けてしまい瀕死。
隣には虫の息の君の仲間が致命傷を受けてすぐにも死んでしまいそうだ。
顔は血だらけで腕も折れてる、体はどこもボロボロで息も荒い、必死な目で君を見てる。
君は稀代の癒者で最高の魔力持ち。さぁ君の出番だ!
俺が行く!
君は杖でモンスターを叩く。隣が逝くぞ?
状況判断ってあるでしょ。柔軟な思考してや……。ご丁寧に冒険の書が消えたこと知らせるシステムとかいらんでしょ?
俺は父さんの部屋から発掘した古いハードの電源を切った。
……一昼夜やっちゃったよ。日曜って憂鬱。明日学校だもん。
朝日が眩しいから俺はカーテンを閉めた。
手をアヤナミ(枕)に伸ばして捕まえる。そして抱きしめた。……いいんだ。……もう。
深い眠りにつく俺に、メール音が待ったをかける。
無視だよ無視無視。狙撃の王者も言ってたよ。精神攻撃が大事。
「兄ちゃん。そろそろ起きたらー? ずっと携帯鳴ってるよ」
…………ずっと?
携帯の時刻を確認する。十三時? あれ? 一回瞬きしただけよ? ……おかしい、何かが……。ダイジェンメーターはどこだ?
目を覚ましたら世界が様変わりしてたよ。俺は首を触ってみる。首輪はなかった。乗らなくてもいいんだね?
メールは何通か来てた。俺は見なかった事にして眠りにつく事にした。
俺は再び目を覚ました。
「おはよ」
茶髪が漫画読んでたよ。
セキュリティーがおかしい。家の中にいるのに外敵に備えて部屋に鍵かけなきゃいけないなんて……前からそうじゃん、ハッ。
茶髪が漫画をパラパラする音だけが響く。
わかってんだよ? 前泊めた時に彼女じゃないって言ってなかったからね。勘違いしてんだよな。家族に言ってみるか? 勘違いしないでよね! 負けじゃん?
俺はゆっくり起き上がった。「おはよ」から三十分。意識はしっかりしてるよ。
「帰れ」
シンプルがいいんだよ。
なるべく迫力出して言ってみた。茶髪が鋭い視線を向けてくる。ごめんなさい。僕が全部悪いんです。
「君さー。メール。見てないよね?」
「……ああ、寝てたんだよ」
「そうだね」
俺はメールの一番古いやつを開く。
『遊びいこーー!!(よくわからん以下略)』
強制かよ。
時間も見る。十八時。すげーな。多分ルパンだと思うけど、時間も盗めるとか一四一二目じゃないね。
「ルパンだと思う」
「……君って偶に予想もつかない事言うよね?」
茶髪は漫画から顔を上げずに答える。
「……いつからここいんの?」
「ん〜? 一時間ぐらい前〜」
「今から遊び行くつもりかよ……」
「……いや〜? 午前中に返信なかった時点で諦めたー。……よしっ」
茶髪が本を閉じた。
「これ続き借りていい?」
茶髪が本を掲げる。……『モンスター』……だと? やめてやめて。二代目が生まれてしまう。街に被害を広げないため俺が家に封印してるのに。
否定の意味を込めて首を横にブンブン振る。茶髪は本棚から続きを引き抜きだした。あれ? 間違ったかな? 首を縦にブンブン振る。
「ありがとー」
なんだよ、この世界ってバグなの? 犬なの?
「よっ、とと……、なんか入れ物貸してくんない?」
俺はこの前茶髪が制服を返す時に使っていた紙袋を返した。
茶髪が紙袋に漫画を詰めてく。全部?
「よし。じゃあ行こう」
いってらっしゃい。
なんで紙袋を差し出してるのん? 不思議。
ふぅ。疲れたよ。
送って帰ってきたよ。
まだ明るいから大丈夫だって言ってんのに、悲しそうに笑いながら、「そうだね。例え……この前みたいな事になっても……君のせいじゃないから、気にしないで?」とか言われたら、そら送るわ。何故かコンビニも寄ったし。荷物持ちだし。
午前中は一人でブラブラ遊んだそうですよ。なんで俺ん家に寄ったの?
「近くに来たから」
体育会系OGか。
本日の運動は終わりだよ。自転車ぶち込んで部屋に戻ったよ。
もう何もする気は起きなかったけど、とりあえず来たメールだけ読んでおいた。
『茶髪』『茶髪』『茶髪』『ロリ子』『茶髪』『弟』『姉』『ロリ子』『茶髪』
へーイ、メェェン。みんな分かっているだろうぅ? 大人気のあの人からのめぇぇっせぇええじっ! 一本外れちゃった。精密機械なら致命傷だよ。
俺は部屋のドアを見つめる。大丈夫だ。今、こうして息をしてるんだから、許されたって事でいいよね? 茶髪が絡むとあの人の攻撃性が緩むから助かるよ。
俺はメールを開いた。
『フロム 姉
寝る
』
送ってくる必要なくね?
これで殺されたら溜まったもんじゃないね。お前を寝かしにいってやるだったら……うん、普通の意味でも恐いわ。
弟のメールを削除する。
イラッときたからやった。反省とかない。
茶髪メールを開く開く開く開く。開くだけ。読まないよ? 一文字も使ってないメールとかくるんだよ。種族が違うから仕方ないけど。時間がある時に甘い物食べながらじゃなきゃ解読は無理。
さて、クエスチョン。
……図書委員会の連絡か? 月曜に何かやるとか? 当番は、あと夏休み前に一回だった気がする。だから違う。
俺はロリ子からのメールを開いた。
『フロム ロリ子
初めてメールを送
らせて頂きます。
ご多忙とは存じあ
げますが、宜しけ
れば返信の方をお
願い致します。
かしこ 』
長い。堅い。違うよ?
うーむ……これが午前中のメールか……。ロリ子とアド交換した時、急いでたから確認のメール送ってないんだよな〜。空メでいいのに……、真面目。二件目。
『フロム ロリ子
すいません。忙し
い中、時間を割か
せてしまいました。
返信の方は何時で
も構いません。重
ね重ね申し訳なく
思います。
』
良心が削られるよ。無視ってたわけじゃないよ! 寝てたんだ! 「あ〜、ごめっ、寝てたわ」って言い訳よく聞くけども! 寝てたんだ! 大切な事だからね。
携帯から着信メロディーが流れる。
『消してー! リラ』ピッ
満足だろ?
ノー、ジャスラッ。ノー、マニィー。
着信はロリ子からだった。俺はメールを開いた。
『フロム ロリ子
死のう 』
電源フルチャージ。アドレス選択。ロリ子回線接続。電圧上昇。
ろりこぉぉぉおおお!!
死因、メール返信なしとか嫌すぐる!
『プルルルルルッ、――はっ、はい! さな、真田です! 違っ違うの! ごごごめんなさい!』
悪いのは全部俺なんです。女ん人は事の重大さをわかっちょらんとです。
「よくぞ生きて……」
『違うの、違うの。あ、あのね、マキちゃんがね、あっ――――八神君?』
声が変わったよ。メガネ坊主の蝶ネクタイですね。わかります。
『ねー、聞こえてる?』
「貴様が何処の誰なのかしらんが、聞かれた以上答えるのが世の情けゆえ。――いかにも八神だが?」
『……うわぁ、なんか色々想像と違うというか、更に下をいくというか』
失礼だね?
「で? きさん名は?」
『え? ……知らないとか地味にショック。あ、そっか! 声だけだと分かんないか。私はー、ほらっ。数学のテストの時にお礼いったじゃん? 背中叩いて!』
「つり目か」
『お前今何処だ。直ぐにそこに行ってやる。逃げ』
「すいませんごめんなさい礼を失した発言をお詫び申し上げると共に深く反省の意を表示あげたいと存じます」
『次はない』
電話は切れた。ロリ子の友達だったようだ。……だって印象的なのが目だったんだもん。いや、俺が迂闊だったんだ……。あいつも女(種族モンスター)だからな、ロリ子の携帯だったから油断した。
俺はロリ子にメールを送っておいた。『生きねば』と入れて。
返信は直ぐに来た。
『フロム ロリ子
ごめんなさい!
マキちゃんが勝手
に死ぬとか書いた
んです! 全然そ
んな事ないので気
にしないでくださ
い。あたしの名前
は真田恵理です。
一応。
私の名前は鳴神真
綺。
』
実は今まで言った事なかったけど、俺、人の名前覚えんの苦手なんだよね。……うん、分かったよ。なるべく努力はするね? つり目、ロリ子。
俺は反省した。不摂生な生活で乱れるのは自分の体調だけではないのだ。文明が進化し部屋にいても他人と繋がっていられる昨今、連絡の不備が誰かの心配を助長させるのだ。解決方法は至極明解。
携帯壊すしかないね? 原因は水没でいいかな?
俺は携帯をベッドに放ると、その身もベッドに放った。
グシャっといかないかな?
ベッドに横になると眠気が襲ってきた。あぁー、まだご飯食べてないのに。俺は瞳を閉じた。
よく考えたら、命とか脊髄反射で大事にするのに作戦とか笑う。
現代版クエストはやはり、携帯使うな! で。




