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めんどくがりと共闘



 左側からきた。


 隠れている木から押し出すように、こちらの体の中心を狙ってくる嘴。紙で出来ているくせに避けると他の木にスコンと小気味いい音を響かせながら刺さる。


 当然、一撃で終わる筈なく。


 一斉にではないがある程度順番に襲ってくるのは、当てるより避けさせる事に重点においているせいか。


 なんか順番待ちで一列に並んでるんですけどぉ?!


 どうしても体勢の都合で木の陰から出なきゃいけない時もある。


 横っ飛び一番。白ローブの口元がニヤリ。


「いらっしゃーい」


 本来なら手をついてハンドスプリングで脱出といきたいが、下が雪なのでそれも出来ない。


 ならこうだ。


 体重を操作して雪に深く潜る。犬かきの要領で更に深く。真上の雪が消し飛ばされるが、こちらに痛みはない。追撃に追ってきていた折り鶴が幾つか粉々になる。


「あ……」


「……む」


「い、いや、仕方ないし? ていうかほらー、やっぱり相性悪いじゃん」


「……そんなことない」


「いやあるよ」


 俺は約束を守ることもある男。


 白ローブの後方から飛び出して雪玉を投げた。


「おら、三つだ!」


「もが?!」


 たくさん食べな!


 素早く振り向いた公家とは違い、モロに食らう白ローブ。身体能力の高さの割には反射神経わりぃな。フードを被っているせいで視界を狭めているのを差し引いても……。


 ペッペッと雪を吐き出す白ローブ。隙だらけ。それを上手くフォローする公家。


 ……ははーん。


「お前、ケンカしたことないな?」


 ズビシと指を突きつけて探偵ポーズ。それに白ローブの表情は見えない。というか余程堪えたのかまだ雪を吐き出している。泥を混ぜたのがマズかったか……。いやマーブルっぽさを演出したみた小粋な冗談だったんだが。


 突きつけた指にズガンと背景に稲妻を落として反応したのは公家の方だ。……本当に雷が落ちたんですけど? その驚いた表情が小粋だ。女性の冗談は破壊力が凄いや。


 しつこくペッペッと雪というか既に唾を吐き出していた白ローブは、敵の目前だというのにゴシゴシと顔をふいて視界を完全に塞ぐ素人っぷりだ。やだ潔癖? 悪いことしたなぁ。


「ふっ……ふふふ」


 笑い出す白ローブ。壊れちゃった?


 距離をとる俺に公家。


「ふふふふ……ケンカ? 何を言い出すかと思えば……お前は! ここで! 死ぬんだよ!」


 ガバッと上げられる両手のフィンガーレス。


 周りを折り鶴に囲まれるという病人的状況だった為に安心していた。


「塵になれ!」


 決め台詞かな?


 咄嗟に飛び上がって被害を免れた。しかし折り鶴は全滅じゃない? もうもうとした雪煙が爆発的に広がった。


 好機。


 この隙に逃げるべ。やってられねえ。幸い、視界を自ら塞いでしまった白ローブが乱射して煙が増産されてるし。働き者だなあ。


 雪煙の中を茶髪が消えた方へと進む。風向きが良くない。こんなんじゃ直ぐに抜けて……あ。


「……らいらい」


 読まれたのか、こちらの位置を探れるのか、雪煙を抜けた先にいた公家が既に符を放っていた。


 くう! なんだよコンビネーションか? 騙したな!


 いや、これは、食らう、無理、ぐう!


「避雷!」


 突如響いた声に反応して、帯電しているように雷を放っていた符が眼前で弾けた。ちょっと当たった。ビリっときた。


 声の出所を探ると、枝ぶりが太い木の上に片テールが不適な笑みを浮かべて立っていた。公家少女と同じような服だ。


「……む。面倒」


「全然感知できなかったのに、急に現れるんだから慌てたよね、全く。御札も使う様子見せないし。でも見つけたからには、もう逃がさないわ!」


 あ、なんか知り合いみたいだし、僕ジュースでも買ってきますね?


 そろそろと木の上から降りてジリジリと後退っていたとかころで白ローブが来た。いたね、そういえば。


「そんなところで!」


 決め台詞は必須のようだ。罹患者って怖い。


 何かを放った白ローブだったが、片テールの持っていた符の一枚が勝手に反応。片テールの手から飛び出し空中で制止すると、バシンという激しく空気を叩く音が鳴った。


 しかしそれだけだ。


「な?! こ、この! この!」


 バシンバシンと今度は連続して音が鳴るが……片テールが傷つくどころか符が敗れる様子も見せない。


 チラリと白ローブを見すくめる片テール。その瞳は酷く冷たく、直ぐに興味が無くなったとばかりに公家に視線が戻される。


 場を覆っていく圧迫感。公家と片テールが互いに空中に符を広げる。


 げろげろ。これは姉クラス。日々頂いてるから分かる! やだ悲しくなんてないよ? でも心の汗が出ちゃう。


 残り数秒のタイムリミットに気付いていない白ローブが目につく。……えーい、仕方ない!


 こっそり素早く白ローブに近付いて後ろから抱きついて小脇に抱える。ふむ。ありがとうございます!


「う、うわ」


 またあれを食らうかもしれないが、そんなレベルじゃなく危険な所にいるから全力で離脱する。


「は、離せ! この!」


 掌を向けてきたので抱えていない方の手で掴んで方向転換。バシンと雪を叩く何か。こいつ指先からしかあれ出せないんじゃないの? それならと両手を拘束しようとした時に、きた。


 それどころじゃないと足を速める。そこでようやく白ローブも冷や汗をかいて後ろを振り向いていた。


「……雷帝降臨」


「炎神招来!」


 目を焼くほどの閃光と消し炭すら残さない業火が生まれた。エネルギーの衝突と瞬時に質量を変化させた雪が起こす爆発も相まって周囲は灰塵に消えていく。


 全開も全開で逃げた。普段との姉との追いかけっこが活きた。活かしたくなかった。


 ゴロゴロと爆風で転がりながら、元雪山の方を確認する。未だに大気を叩く音と連続で光る暴力的な光に戦いが続いていることを知る。


 なんだよあいつら。異世界にでもいって帰ってきたのかな? じゃあ一般人は退場しようね。ほら、主役の邪魔になるじゃない?


 幸いにも公家に余裕はなくなっているようだし……えーと、白ローブはどこいったかな?


 爆発の衝撃で放り出した少女を探す。俺は悪くない。文句はあそこでドンパチしてる人外にして貰おう。


 一頻り辺りを見渡して、雪に埋もれていた白ローブを発見。どうやら木にぶつかったところに上から雪が降ってきたらしい。あるある。


 衝撃でフードが外れた白ローブの素顔は、アッシュブロンドの髪の北欧系美少女だ。目を回しているせいか瞳の色はわからん。額の赤さを見るに患部はここだろう。惜しい人材をなくした。


「う、うー……」


「おらぁ!」


「ぴ」


 やや?! 額の赤さが増しているぞ! もしや発熱してるのかもしれない! 直ぐに冷やさねば!


 ポイっと再び雪溜まりに白ローブを放る。


 さて、茶髪を追わなきゃね。



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