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めんどくさがりサボる

 普通の事だよ。


 朝の弟の鬼の所業に耐えられる事が、稀にある。

 世界が俺に味方してくれるんだ。日頃頑張ってる俺に対するご褒美だね、きっと。


 簡単に言うと、気温高めだから二度寝に成功しちゃう。ケーブル断線で止まっちゃうパターンOK?


 腹具合で目が覚める。この時点で色々諦める。切り換えが大事。明日から頑張る。


 それはそれ、これはこれ。休みになったんだから全力で休むよ。どうせ今日はテスト返却パレードだろ? 返ってきた答案用紙を学校のゴミ箱に捨てる俺には、学校に行ってもしょうがない日。俺は台所に向かう。


 簡単に食える物を探すか。カロリーメイトと食パンでいいや。俺は買い置きを漁る。


 冷蔵庫も物色。


 クレープとプリンを発見した。


 俺がどこぞの勇者(笑)なら両方掻っ払っていくが、ここは戦場、地雷処理班並みの慎重さが要求される。


 プリンには『けん』と書いてあったので押収した。クレープはどうするか……。


 因みに買いに行く選択肢はない。俺の財政が賊に圧迫されだしているからだ。それを抜きにしても休日にわざわざ用事もないのに外とか行かんわ! 危険がいっぱい? メリットがなかったら危険しかないよ。


 俺はクレープを手にとって調べた。


 さて、どうしたものか。


 父さん母さんなら許してくれる。問題は破壊神の持ち物だった場合だ。

 家の近くのコンビニのスイーツじゃないな。ヤツの大学の近くのコンビニは三店舗二種類。その両方ともこのスイーツは扱っていない。可能性はグッと減った。更にヤツはコンビニ袋ごと冷蔵庫に物をしまう癖がある。これはそのまま入っている。最後にヤツはアイスは風呂後、スイーツは食後に食う。昨日買ったのなら夕食、朝食と飛ばしている。今、起きてないなら昼飯後はないだろう。大学に行ってるなら尚更だ。


 証明終了。俺はクレープもゲットした。


 戦利品を持って喜び勇んで二階に戻る。


 誰もいないのがいい。休日より休日らしいよ。今度から月、火曜を休みにしてくんねーかな?


 部屋に戻るとゲームのスイッチオン。残念ながら我が家にVRMMOはない。毎日がデスゲームなのに、ゲームの中まで死ななきゃならんのは勘弁願いたい。ゲームじゃない上に遊びでもない。気づいて。マスターは姉。


 コイツかてぇー。一人じゃ無理ぽ。


 その内飽きて携帯ゲームにスイッチ。ゲームやってると時間の進みヤヴェーよね? このタイムマシン誰が作ったの?


 昼を過ぎたけど腹はそんなに減ってなかった。しかし睡魔が襲ってきた。なに。抗うことはない。俗に言う寝落ちです。これいいよねー、直前まで幸せなんだから。久しぶりの幸福感に包まれながら、俺は瞼を閉じていった。







 目が覚めたよ。


 窓の外はまだ明るかったので、二、三時間くらい寝ていたのだろう。


 まだ寝れる。


「あれー? ないなー。ここが定番じゃん? あとは……机の引き出しの裏とか? 難しい本くり貫いてそん中とか?」


 天井の裏だよ。


 体を横に向けると、茶髪がベッドの下をゴソゴソやっていた。頭を掴む。


「おい」


 そのまま茶髪の視線を俺と同じ高さまで持ち上げた。


「あ。おはよー。ねー、エロ本持ってないの?」


 俺は脱力した。手を離すと反対側に寝返りをうつ。もっと良い夢にしてくれよ。


 茶髪は手ぐしで髪を整えている。


「もー。らんぼー」


 誰が帰還兵だ。山に籠もらせたいのか?


「君さー、昨日五限いなかったでしょ? 今日は休みだし……。電話も出ないし。……心配だからお見舞いというか……」


 テレテレと話す茶髪。


 茶髪良い子やねー。いや、そうはならない。

良い子は部屋を物色しない。俺の女性に対する不信感がヤバくなりつつあるよ。二次元に逃避しちゃいそう。ギャルゲーの神になるよ?


 俺は体を起こす。これ以上部屋を荒らされては堪らない。別に見つかるとは思ってないよ? でも念の為。


「……お前どうやって入ったんだ?」


「どうって……普通に。チャイム鳴らして、お姉さんが出てきて、多分寝てるから部屋に上がっていいって……」


 余計な事しかしねーな、あの邪悪。


「なんかお姉さんが『クレープはあたしのだった』って伝言頼まれた」


 茶髪が俺の食い散らかした残骸に目をやる。


「あ〜、食べちゃったんだねー」


 違うよ! お前は事の重要性がまるでわかっちゃいない! 何で食べたんだ俺! 低くても可能性があるなら突き詰めるのが探偵なのに!


 頭を抱える俺に茶髪が軽い感じで話しかける。


「どんまい。なんなら今からクレープ買いに行く? あたし、おいしーの売ってるとこ知ってるよ?」


 どんな供物を捧げても、悪魔って最終的には命をとっていくんだよね〜。最後に心洗われる様な景色がみたいな〜。やり残した事を紙に書いて提出したら、それまで存命を許してくれないかな〜。あ、破られるね。


「ほらー、いこー」


 茶髪に手を引かれるままに部屋を出た。頭の中は真っ白で上手く考えがまとまらなかった。ホラー? そんなもんじゃねぇ。


 茶髪と仲良く手を繋いで玄関に降りると、姉が台所にいた。俺の全細胞がヒヤッとしたが、「……行ってらっしゃーい」と手を振っただけだった。茶髪といると姉は大人しいらしい。茶髪、今日も泊まってく?






 流されるまま着いたのは、レンタルビデオ店の駐車場。クレープ販売の車が止まってた。移動屋台だね。


 部屋着のまま茶髪と手を繋いでここまで来た。茶髪は部屋を出てから何故か一言も喋らなかった。


 これが美味かったら、俺は助かるのだろうか? 取り敢えず食ってみよう。チョコバナナでいいかな? アップルソースとかもあるよ! うわぁ、テンション……上がらない。無理だよ。掛かってるのが命なんだよ?! まだC4とか買った方が助かる可能性があるよ! ……いやないな。例え家を爆破しても「いま、何かしたかしら?」とか言いそうだよ。


 メニューが決まらないので茶髪に何がいいか視線を振ってみる。茶髪は繋いだ手を見てた。恥ずかしいの? 悪かったよ。


 手を離して茶髪に聞く。


「なー、何がオススメ?」


 不死の酒とか置いてない? 出来損ない可。


「あっ……。え? 何?」


 自由か! 話聞けや!


「いや、オススメって何?」


「あ〜。あたしは基本が好き。ストロベリーチョコバナナ、ブルーベリーソース」


 それ基本?


 取り敢えず茶髪の好みを二人分頼んだ。


「わお、ありがとー」


 命が助かるなら安い買い物だよ。夏のバイトがここに決まった。


 ベンチで二人並んで座って食べた。テイクアウトできるらしいので、まずは味見。うまっ! 美味いじゃん! そんな機能ないけど口と目が光りそうだよ! これはイケる。二つの意味で。川柳じゃないよ?


「普通のチョコカスタードもおいしーよ?」


 ニコニコと笑いながら茶髪が話しかけてくる。茶髪もお気に召した様だ。


 他愛ない雑談をしながら食べた。明日はテストの順位が貼り出されるやら、新しいアクセが凄い可愛いやら言うので俺も、アイツめちゃくちゃ硬いからソロ無理だよやら、最近やってるゲームのキャラに萌えるんだけどヤバい? やら返した。


「うっわ、二次元とかひく〜」


 三次元ないからね。仕方ない。


「……どんなの?」


 興味あんのかよ! ツインテだよ。無口系クールの。火星には行かないけどね。


 ツインテだけ分かったのか、茶髪は己の髪を両手で押さえた。俺は鼻で笑った。


 グーだった。


 テイクアウトの注文をするとき茶髪は怒りながらも注意してくれた。


「アイス系はやめた方がいいよ。溶けるから」


 俺は頷いてお土産に三つ程テイクアウトした。「家族の分?」と茶髪が聞いてきたので、「家族(姉)の分」と答えた。アイスも一つ入れたよ! そんぐらいの意趣返しはいいだろう。シンジは逃げなかった。俺も逃げない。


 茶髪の家の近くだったので送っていった。明日はサボらないよう言われた。でも君も見た目常習ですよね?


 茶髪がマンションに入ったのを見届けた後、俺は覚悟を決めた。


 強い奴(最凶)に会いにいく。

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