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めんどくさがりの修学旅行・夜 2日目〈空中〉



 ひぃ、追ってきた!


 こちとら五段飛ばしで階段をかけ上がっているのに、差があんまり生まれない。チラリと確認したところ、一段ずつかけ上がっているのだが、ズダダダダダダと効果音がおかしい。


 なんだよそれ! 人間じゃねーよ! 女性(チート)かよ!


「待て待てー!」


 笑ってらっしゃる。もう耐えられない。


 階段を踏み切り三角跳びの要領で壁も蹴飛ばし、多角的に階段を上がっていく。幼少の頃に培った(おとうと)から逃げ切る技だ。


 スイスイと階段? をかけ上がる。これなら……?!


 最早どごぞの工事現場かという音が聞こえてくる。発生源は本物の(おんなのこ)。勝てない。


 俺の目尻からキラキラした心の欠片が散っていく。頑張って防波堤、ライフがなくなっても向こうは容赦とかしてくれない。多分。


 あまりの恐怖にか手が震える。ポケットから取りだそうとした(ブツ)が偶然にも階下に巻かれる。


 マキビシ。


 なんてことだ。そんなつもりなかったのに?! ニヤリ。


 常に狩られる側である俺がポケットにマキビシを突っ込んでいるのは仕方ないことだろう。まさかこんな不幸な出来事に繋がるなんて…………。誰が予想できる?


「危ない!(お前が)」


 後々の布石のために叫んでおいた。裁判でも勝てる。


 バキバキバキバキ


 なんの音かな? 某漫画の主人公?


「あんたなんてことしてくれんのよ! あたしに傷でもついたら世界の損失なのよ?! だいたいなんでそんなもんポケに入れてんのよ?! 中二か!」


「失礼だね。高ニだ!」


 既に二回の変身を終えている!


 くっ、さっきまで笑っていたくせに今はオコとかマジ情緒不安定だな。乙女か。


「うちの学校じゃ常識だぞ! ハンカチティッシュは持ってなくともマキビシは携帯って」


「どっっっこの忍びの里よ、あんたの高校! てか、あたしもおんなじ高校なんだけど?!」


 角を曲がりつつ叫ぶ。階段は不利だ。緊急コース変更。


「だいたい今の効果音なんだよ! まさか俺のマキビシ壊したんじゃあるまいな? ちょっと戻って確かめてこいよ!」


「バカ言わないでよね! あんたこそ、慰謝料を請求されたくなきゃ止まりなさいよ!」


 走りながら叫びあう俺達は、まるで砂浜で追いかけあう恋人同士のように、超迷惑。追い出されてもしかたないレベル。


 まずい。確か説教中だったような。


 いや待て? あれは凶悪な犯罪の発生を止めるための隔離措置というのが本当のところ。凶器を手にした暴徒(せいと)から教師が機転を効かして俺を救うといったものだったはず。


 つまり怒られる理由なんてない。


 チラリ後ろを振り向けばスリッパなのに高速移動中の片尻尾。人間かな? 女性だね。つまり捕獲は死と考えて間違いあるまい。


「少し誤解があるようだ! 話してる内容も微妙に食い違ってるし! 互いに足を止めて平和的に話し合いませんか?!」


「いい提案よね? 乗るわ! じゃあ、せーので止まりましょう!」


「わかった」


「おっけー、いくわよ! せえ、のおっ!」


 互いに走るスピードがアップした。


 いやいやいや、お前がスピード上げるのは違うだろ。衝突しちゃうじゃん。なに? バックアタック的な? ……はっ、先制攻撃か?! 油断ならない。


 後ろから嘘つきが叫んでくる。

 

「ちょっ、話がちがうじゃん!」


「誤解があると既に語ったが?」


「よし。話し合う前に殴ることにしたわ。納得いくまで」


 なんてことだ。こうならないように和平への道を模索したというのに……。


「俺がなにをしたっていうんだ!」


「嘘ついて逃げてマキビシまいて嘘ついた嘘つきよ」


 なんて言い掛かりだろうね。時に(おれ)を守る為に適度な嘘は必要だというだけだよ。


「マキビシなんて現代にあるわけないじゃないか…………頭大丈夫だろうか。心配だ」


「あーー! あーーー! も、もう怒った! マジ知らないから! むかつく! ま、マジ、捕まえて、ボコだ、だんだから!」


 カミカミですね。


 さて、ホテル爆走となれば目立つのは必至。しかも大声での言い合いをしてるからか、注目度が高い気がする。


 反省中のため、部屋に戻るわけにはいかない。しかし足を止めることは死を意味するのでNG。かといって、このまま注目度を上げるのもマズイ。もう一杯。他の生徒の部屋に逃げ込むか? ぶっちゃけ女子部屋側なので死しかない。


 ならこうだ!


 今ある差を利用して窓を開けて身を踊らせる。


「ちょっとぉ?!」


 うん。あとちょっとだったね。


 ビックリした目で手を伸ばしてくる片尻尾。しかし惜しいかな彼女は体がゴムになるというクソマズイ果実を食べていなかったのか、手は空を切る。


 ニヤリ、逃げ切った俺の視線が着地に備えて下に。


 高くない?


 いかん。色々麻痺してたせいか、着地の事は考えてなかった。


「なめんなあ!」


 余所見は一瞬、しかし死地において女性から一時たりとも目を離してはいけない。敵? なにそれ女性より怖いの?


 欠片もなめてなんかないですが? と再び首を半回転。一週。


 危険な角度まで眉をつり上げた黒ジャージが窓枠を踏み切って飛び出してきた。やーねー、こういう後先考えない人。


「頭大丈夫だろうか……。心配だ」


「聞こえてんのよ! う、わ、なにこれ、超怖い?! どうしよう?!」


「心配だ」


 主にお前の周りの男性が。


 しかし飛び出した時点で距離は離れているので、俺には何も出来ない。そう、不可抗力。俺には、助けることが出来ない……!


 仕方ないよね。


 そんなわけで一人でも生き残るために、当初の予定通り通過する窓枠を踏んで減速する。もちろんシナリオ通りだよ。老人たちも驚きさ。


「え」


「あん?」


 メキャリ。


 減速中の俺のお腹に膝を落としてくる。両膝を揃えてる所に悪意が見える。


「……おじゃまします」


 迫ってくる地面と少し申し訳なさそうな片尻尾の表情でオチが読めた。落っこちる。





 もう当分落下ネタはいいです。高所(じょせい)恐怖症になってしまう。



上げて落とすが奴ら(じょせい)の定石。

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