悪魔の子・番外編
「ぐうっ」
少年の足元で、あの、学校に乱入した男がうめいていた。
男は薬物中毒と診断され、厳重に監視されて、病院に収容されていた。
どうやって入り込んだのか、独房のような個室には、少年と、老婆の姿があった。カメラは何故か爆発したように、壊れている。
「あ~あ、あの子、ぴんぴんしてるじゃないか。なんだよ、いい見世物にするとか言っといてさ」
「……もう少しで、母親が、あの、私たちの邪魔者を始末してくれていた」
「やっぱり、母親を使うなんてまどろっこしい事しなくても良かったんだよ」
「分かってないね。力を使わないから、面白いんじゃないか」
「もういいよ。ボクが直接やる。憂さ晴らしもすんだし」
足元の男は、既に事切れていた。
「おはよう」
事件の後、未だその爪痕を残す学校で、少年はただひとり、笑顔で過ごしていた。どこか沈んだ同級生に、にこやかに挨拶をする。
まだ子供だから良く分かっていないんだろう。周囲は勝手にそう判断した。
その年、学校はセンセーションに沸きたっていた。
6歳にして、高等部からスタートする生徒が、二人もあらわれたのだ。
一人は、いつも無表情の美しい子供。そしてもう一人が、こちらもまた美しい少年だった。
あの事件の時無傷ですんだのは、この二人だった。教師が最優先で幼い二人を守ったのだ。
子供の心を守る為に報道はされなかったが、取材に応じた、二人の子供を守った教師は話した。
一人は惨劇を見て、体中を硬直させ、表情を凍らせてしまう程、恐怖していたと。
一人は惨劇を見て、体中を震わせ、表情を笑みに変えてしまう程、恐怖していたと。
教師は、人は、特に幼い子供は、恐怖が過ぎると何故か笑ってしまう事があるのを知っていた。
しかし教師は知らなかった。
少年は、単純に、可笑しくて、体を震わせていた。楽しくて、嗤っていたのだと――。
無表情の子供が、教室に入ってくる。
少年は、にい、と幼くも形良い唇を歪ませた。
悪魔は、だあれ?
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