私を束縛する貴方
キーワード。
歪んだ愛・心の束縛・ヤンデレ(?)
私。
あの人のことを忘れられない女性。
あの人(彼・男)
私が愛していた人。
分かってはいたんです。
所詮私は、あの人にとって代えのきく消耗品であり、取り巻きの一人でしかないことに。
けれど、それでも良かったんです。
あの人を愛してしまったから。
(―――これは、報われない恋)
(―――決して届かない想い)
けれど、私のこの一方的に寄せる想いは、あの人にとって結局押し付けでしかなく、迷惑なものだと知っていました。
それでも好きだったのです。
例えそれが、あの人にとって不要なものだったとしても。
ですが、私のこの想いを、あの人に気付かれてしまっては終わりです。
身体を重ねるだけの関係に戻ることも出来ず、都合の良い女になることも叶いません。
だから、あの人にこの想いを知られてはいけないのです。
知られる前に。捨てられる前に。
私は、あの人の元から去らなければいけません。
(―――届きそうで届かない貴方)
(―――触れることすら許されない貴方の心)
私は、全てにさよならを言いました。
きっと、長い年月があの人を忘れさせてくれると、そう自分に言い聞かせて。
* * *
「……ぁ、」
まさか、彼がこんなところにまで来るとは、夢にも思いませんでした。
どうして?
何故?
神様は一体、私に何を試そうとしているのですか?
あの人と別れて、彼とは全く縁のないこの土地に引っ越しまでしたというのに。
どうして今頃になって、彼が私の目の前に現れるのでしょう?
しかも、どうして横切ろうとした私の腕を掴むのでしょうか?
触れられた箇所が熱を持ち始めるのとは逆に、心の芯から冷え込んでいくようで。
(―――囚われる)
(―――あの時と同じように)
「……俺の前からいなくなったこと、後悔させてやる」
這うような声に、何も言えませんでした。
気付けば、ホテルの一室に連れ込まれ、私の上に覆い被さるあの人の姿。
「既成事実でも作ったら、お前を一生捕まえていられるよな?
一生俺の傍に縛り付けてやるから。俺の存在を嫌って程刻みこんでやるから。……安心しろ?」
昏い色を滲ませた瞳。歪んだ笑み。
翳を落としたあの人の姿は、昔の面影を感じさせない程別人に成り果ててしまったというのに、今も尚私の心を惹きつけてやまないのです。
(―――あぁ、もう逃れられない)
……いえ、違いますね。逃れるつもりはありません。
彼を歪ませたのは私。
怖いはずなのに、内心狂喜する私が、確かにそこにいるのです。
(―――これでやっと、私は貴方のモノになる)
『私を束縛する貴方』
揺り籠に揺られて
揺り籠に揺られて
貴方と私
俺と貴女
欲望の鎖で結んで
毒を注ぎ込み
縛り付けましょう
アナタの心を
堕ちてゆく
堕ちてゆく
貴方のもとへ
堕ちてこい
堕ちてこい
俺のもとへ
俺がお前を アイシテ やる
『私を束縛する貴方』 了
余談。
・これは、ある女性の独白。
・男と女の関係は、所謂セフレ。割り切った関係。
・男のほうから女に関係を持ちかけた。
それはただ単に、違った傾向の女を相手にしてみたかっただけだった。
・女が呼ばれる日は、決まって女が夕飯を作り、身体を重ね、朝食を共にする。
・女が去った要因。男からセフレの一人を切ったことを聞かされる。
理由は、セフレの一人に過ぎない女が自分を好きだと言った挙句、彼氏扱いしてきたこと。
それが、煩わしかったのだと。
・女が去った後。
繋がらない携帯。もぬけの殻となった部屋。それが、酷く男の心をかき乱した。
・男は、女と共に過ごす穏やかな時に安らぎを感じていた。
女は、必要以上のことを聞かないし、言わない。
だが、女の存在は男を不快にさせるような存在ではなかった。
・男が、女のことを愛していたと気付いたのは、女が男の元から去った後のことだった。
・男は、女を探すうちに、女に抱いていた愛情を徐々に歪ませていったのである。