手折られた花の行方は・6
未練がましい私を、貴方はどう思うのでしょう?
おかしな話ですよね。もう貴方からは、何も聞けないというのに。
『手折れた花の行方は・6』
貴方がこれを読んでいる頃には、私はもう、ここにはいないのでしょう。
もしかしたら、この手紙を残してから、それなりの月日が経っているのかもしれませんね。
あるいは、誰の目にも通されることなく、いつしか誰かの手によってこの手紙は捨てられているのかもしれません。
それでも、いいんです。
例え、貴方にこの手紙が読まれなくても、今私が感じていることを全て、ここに書き綴ろうと思います。
私がこの世界に来てから一年。色々なことがありました。
いつまで経ってもこの世界を受け入れようとしない私に対して、優しくしてくれた貴方。
その優しさに、いつしか私の心は、この世界を。人々を。そして貴方を。受け入れ始めていました。
ですが、元の世界の人々のことを思えば、自分だけが違う世界で幸せになろうだなんて……と、罪悪感を抱いた私は、貴方を避けました。
避けることしか出来なかった私を人は、心の弱い人間だと思うのでしょう。
誰かを言い訳にして、全てを拒絶することしか出来ない愚かな人間だと。
だからなのかもしれませんね。気付けば、私の周りには誰もいませんでした。
もしかしたら、最初から誰もいなかったのかもしれません。
貴方本人から言われたわけではありませんでしたが、貴方の本音を聞いたときにそう思いました。
受け入れる努力をしてこなかった自分がこう思うこと自体、愚かとしかいいようがありませんが、独りぼっちは寂しいのです。
心が痛くて仕方がないのです。
でも、今の私にはもう何も出来なくて。出来る機会を閉ざしたのは自分自身で。
いつか“いらない”と面と向かって言われる勇気もない弱い私だから、せめて最後くらいはと、貴方のために何が出来るのか考えました。
考えて。
考えて。
ようやく考え付いたのが、ここを出ることだけでした。
望まれない存在である私が、ここにいてもどうにもなりません。
それに、書類上で結婚したことによって、貴方は無事に王位を継承された今、私がここに残る意味は初めからなかったのですから。
とはいえ、ここにいる間に頂いた衣類。出して頂いた食事に関しては、私が働き口を見つけ次第、微々たるものかもしれませんが、税金に上乗せする形で必ずお返しします。
ですから、もう少しだけ待って頂けると幸いです。
最後に。
例え嘘でも。愛していると、そう言って下さってありがとうございました。
あのときは反応の一つも出来ませんでしたが、心の中では嬉しかったのです。
……ごめんなさい。
こんなことを書いても、貴方にとってはただただ不快に思うだけかもしれません。
それでも、私に夢を見させて下さって、本当にありがとうございました。
どうか、お幸せに。
『手折れた花の行方は・6』 了
追伸。
私との婚姻は、国民に知らされておりません。
ですから、書類を破棄した後、どうか貴方の愛する女性を正妃として正式にお迎え下さい。
私は、貴方が……いえ、陛下が幸せになることを、一人の国民として心から願っております。