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手折られた花の行方は・4

貴方は、私に沢山のモノを与えてくれました。

けれど私は、貴方に何一つ返すことが出来ませんでした。



『手折られた花の行方は・4』



“夫”と呼んでいた人の部屋を後にした私は、自室の小さなベッドに倒れ込みました。


―――いらない存在、ですか……。


心のどこかでは分かっていたつもりだったのですが、いざ言葉にされると傷つきますね。

とはいえ、中々心を開かなかった私に愛想を尽かしても、何らおかしいことじゃありません。

今更、悲劇のヒロインぶって落ち込む資格なんて、私にはないのですから。



――なら、今の私に出来ることといえば……。



「……いらないなら、いなくなればいいんですよね」


*  *  *


そう決意してから、早一週間ばかりの時が過ぎていました。

今後の生活のために必要なものを少しずつ揃えている間に、少しだけ心の整理が出来たような気がします。

ええと、とりあえず言葉は通じることは知っていますし、物書きもある程度は出来るようになっています。

召喚された当初は、会話は通じるのですが、読み書きが出来ない状態でしたので、あの人の“妻”になるならばと、教えて下さった方々のおかげです。

ただ、そのときに色々と学ぶことは出来ましたが、お金の稼ぎ方を詳しくは知らないのです。

知る必要もないからと、教わらなかったことが今になって後悔することになるだなんて。

とはいえ、今更後悔したところで、仕方ないといえば仕方ないのですが。

不安はありますが、……といいますか。不安しかないのですが。現在、私は無一文です。

ここを出て行ったところで宿泊出来る場所に泊まるお金も、食べ物を買うお金もないという恐ろしい現実が待っています。


手持ちの少ない衣服を売るべきなんでしょうか?

いいえ、そんなことは出来ません。衣類は、必要最低限のものしか持ち合わせていませんし、売ってしまったら着る服がなくなってしまいます。

それに、どのくらいの値段がつくかも分かりませんし、何よりこの服に使われている生地が高価なものだった場合、変に目を付けられたくありません。

かといって装飾品を売るにしても、今持っている物は、結婚指輪として頂いたものしかありません。。

私が、元いた世界では、薬指に指輪をはめて永遠の愛を誓うと言ったら、あの人が作らせて私の指にはめてくれたものです。

結婚式は挙げられないけれど、せめてこれくらいは、と。少し寂しそうな笑みを浮かべて私の指にそっとはめてくれたもの。

これが唯一あの人と私を結ぶ物だから、手放したくはなかったのですが……。



ですが、そういうことを想っていること自体、あの人にとっては不快なのかもしれません。

一度そういう考えを持ってしまえば、この指輪に縋ろうとしている自分が酷く滑稽で、惨めで仕方がありませんでした。



未練がましく付けていた指輪を外し、小さな巾着袋に入れ、


「……もし、就職先が見つからなかったときは、――売りましょう」

巾着袋に通した紐を首から下げ、そっと握り締めました。

一瞬、この指輪も高価なもので、それを売った私が変な目で見られたら、と考えなくもありませんでしたが、いずれはどこかで手放さなければいけないと、強く心の中で思いました。

この感情を断ち切るためにも。



『手折られた花の行方は・4』 了



――ここから居なくなる。

私が、貴方に出来る唯一のこと

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