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振られたぞいね

キーワード。

振られました・方言・スイーツを食べに行こう!・違和感・友情


彩音あやね

本日、恋人に振られました。それにしても、別れるときってこんなにも話が長くなるもんなんけ?


幸穂さちほ

実は、お嬢様という隠れ設定あり。普段は、眼鏡をかけ、三つ編み姿のいかにも真面目な生徒。


恵子けいこ

スポーツ大好き!髪を短く切っているのは、邪魔だから。

うちは今、目の前の男に振られている最中ねんけど、長い。長すぎねんけどコイツ。

なんで、うちらの想い出話から始まって、新たに好きになった子の話までしとれんてコイツ。

普通はさぁ、好きな子が出来たんだごめん。別れてくれないか?とかなんとか言ってさぁ、……そっか、分かったよ。今までありがとう。さよなら……って、涙の一つでも見せて男から立ち去るって、そういうもんねんろ?

それを、おまっ……!いつまでコイツの話に付き合わんといけんがん!?



『振られたぞいね』



校舎裏なんかに呼びだされて、どれくらいの時間が経ったのだろうか。

彩音は、ふと腕時計の文字盤を確認すれば、目の前の男――自分の恋人に呼びだされてから、20分もの時間が経っていた。

思わずため息が漏れる。彼が彩音を呼びだした理由は、薄々気付いていた。

近頃、一緒にいても別の女の子の話をしたり、その子を見ていたりと、あからさまだったから。

こんなことなら、こっちから別れ話を切り出した方がましだったのでは?と、そう思わざる負えない。

まさか、別れ話一つにこんなにも時間がかかるとは思わなかった。


「……えーな、いじっかしい。早く終わってくれんけ?」

ぽそりと零れた本音。その声は、苛々としたものだった。

「え?今何か言った?」

「ううん。気にしないで!あのさ、もう分かったから。ようするに君は、私と別れたいってことでいいんだよね?」

早く終わらせようと、畳み掛けるように彩音は言葉を紡ぐ。

「う、……うん」

しょんぼりと、眉を下げた男にいじっかしいな!と思いながらも、彩音は笑顔で続けた。

「しょうがないよ。君に好きな子が出来たっていうんなら。……じゃあ、ばいばい」

男の反応も見ずに、彩音は踵を返して校舎内へと戻った。

その彩音の後ろ姿を見つめていた男は、何か言いたげだったが、彩音は一度も振り返らなかった。


内履きに変えると、友達が待っている教室に向う。がらり、と音を立てて扉をスライドさせれば、教室の中で待っていたのは、2人の少女。幸穂と恵子だった。

眼鏡をかけ、黒髪を三つ編みにした、いかにも真面目そうな生徒が幸穂。

対照的に、邪魔だからと短く切り揃えられた髪に、日に焼けた肌の生徒が恵子。


「おーおかえり彩音!どったの?とうとう振られでもしたか?」

片手にポッキーを持った恵子は、その手をぶんぶんと横に振りながら、はちきれんばかりの笑顔で彩音を出迎えた。

「ちょっと、恵子さん。そんな言い方はないんじゃないかしら?」

恵子を諌めるように幸穂が反応する。


「おいね!振られたぞいね!!」

けれど彩音は、その発言を全く気にした様子もなく、そう続けた。

「なーんだ。やっぱりそうだったか。……んや?それにしては遅くないか?」

「確かに。言われてみれば、かれこれ30分は経っていますね」

二人は不思議そうに首を傾げ、恵子は何かに思い当ったらしく、夕日を背ににやりと笑った。

「なんだ、なんだ?もしかしたら修羅場ったの?あいつが好きだとかいう女の子とかも出てきちゃったわけ!?」

にやにやと笑う恵子に、苦虫を噛んだような表情を浮かべた彩音を見た幸穂は、そんなことになっていたのかしら……と、彩音を心配した。


「なーん。修羅場になるどころか、あいつの無駄話が長いげんて。あっちは、うちを振るだけで終わる筈なんに、なんでうちらの想い出話から始まって、新しく好きになった子がいかに可愛いかってのを延々と語り出すん!?あー……思いだしただけでも、まじでいじっかしい!一言すぱっと別れて欲しいって言えばいいだけの話じゃないがんけ!?あんのぉ、だらぶちがぁ!!」

こんなの聞いてないげんけど……と、自分の椅子に座ると、机に突っ伏した。

そんな彩音の姿に幸穂と恵子は、お互いの顔を見合わせ、

「あー……お疲れさん」

苦笑すると、恵子は彩音の柔らかな髪を撫でた。

「彩音さん。これから、先週オープンしたカフェに行きません?甘いものでも食べて、幸せな気持ちになりましょ?」

柔らかな笑みを浮かべ、恵子に続くように幸穂も彩音の頭を撫でた。


むくりと、顔を上げた彩音は、先程までの怒りが霧散したかのように、ぱああと満面の笑みを浮かべて、

「お、いーじー。これは、早く食べに行かんといけんがいね!」

スイーツ好きとはいえ、この切り替えの早さには、幸穂も恵子も苦笑が漏れた。

「なんだ、なんだ?怒っていたかと思えば……現金すぎじゃん彩音ってば」

「なーん。甘いものに勝るものはなし!って言うじゃん。それに、いつまでも苛々しとったら、だちゃかん!あんな男に好意なんてもんはないげんけどぉ、アレに振り回されるとか、ありえんし!てなわけで、早く行こっ!」

「ふふふ。本当に彩音さんは、甘い物には目がないですね?」

今の彩音にもしも尻尾が生えていたら、はちきれんばかりにそれを振って喜んでいるのが分かるくらいに、その瞳はきらきらと輝いていた。


思い思いに鞄を取ると、教室を出た。

「そーいえばさ。今から行くカフェってどんなもんがあるの?」

恵子が、ふと疑問を口にすれば、彩音も気になって仕方なかったのか、幸穂の方に視線を向けた。

「ああ、それは……」

そう口にしたところで、興味津々の彩音をちらりと見ると、内緒ですと笑った。

「ええー!?なんで教えてくれんがん!?」

幸穂の周りをぐるぐると回る姿を後ろから見ていた恵子は、嬉しそうに破顔した。




「……やっぱ、彩音はこうでなくっちゃ。彩音の言葉遣いを、付き合いだしてから否定するような相手なら、別れて正解だ」

彩音という個人を否定するような人間なんかと付き合う必要はない。

付き合いだしてから口調を変えてくれ、なんてありえないだろう!?と、恵子は思う。幸穂もそう思っていた。

それも個性と受け入れられるだけの存在が、彩音と付き合ってくれたら、私たちは心の中から祝福出来る。


だって、ずっと見てきたから。口調については、仕方がないと諦めた彩音の悲しそうな笑みも。

あいつの口から出るのは、最近気になり出した女の子の話ばかり。

付き合っているのは、彩音なのに。あの男の無神経さには、へどが出る。彩音が傷つかないわけないじゃないか。

あの男と、気になっているという女の子が、楽しそうに喋っている光景を目にした彩音の寂しそうな横顔を、何度も見てきたんだ。


本当は、悲しかったんだと思う。怒りを露わにして、気丈に振るまっていたけど。

私たちは、そのノリに乗った振りをしたけど。


彩音本人から今まで別れ話を切り出さなかったのは、そういうことなんだと思う。

それを察した幸穂は、彩音の大好きなスイーツで釣った。釣ったっていうのは、なんだかおかしな話なんだけど。

でも、それで彩音に笑顔が戻るなら。


私たちは、それだけでいい。



『振られたぞいね』 了

このお話しに出てきた方言の意味や使い分けについて書いておきますね。


・~ねんろ?→この場合、「そういうものなんでしょう?」になります。

・~がん?→この場合、「付き合わないといけないの?」になります。

・えーな→苛々したときに使います。

・いじっかしい→他人に何かをされて、苛っときたときに出ますね。

・おいね/おいや→そうだね・そうだよ。女の人が使う場合には、おいね。男の人が使う場合には、おいやとなります。

・~ぞいね/~ぞいや→女の人が使う場合には、ぞいね。男の人が使う場合には、ぞいやとなります。

・だらぶち→だらと同じですね。馬鹿、阿呆と同じ意味合いで使います。

・いーじー→いいね。羨むときに使いますね。

・なーん→いいえ。

・だちゃかん→駄目。


細かいところだと、~がいね、~け?~げん、~ねん、~てん、~れん、~や等々。


お話しを読むと、違和感があるかもしれません。

特に恵子視点が入ることによって。恵子から見た彩音は、なんとも可哀相な存在になってるんですけど、本人は何一つ気にしていないという設定です。


別れを切り出さなかったのは、このまま自然消滅になればいいと思っていたから。寧ろ、好きになった女と付き合って、こっちにはくんなって感じです。

全ては、いじっかしいからという思いが強すぎたので。

ついでに言うと、付き合いだしたのも男がしつこくて、いじっかしくなったからだったりもするんですが……。まぁ、この辺にしておきますかね。

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