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さよなら小夜曲・前編

キーワード。

異世界・ファンタジー・魔法・王道・自己犠牲愛・アンハッピーエンド



リア・ブリュネット。

ヒロイン/魔法(術)士。

ファギのことが好き。


ファギ・オズボルト。

勇者/長剣。

ローランに仄かな恋心?


ローラン・アベン。

高位治癒術師。

ファギに恋をしている?


ファミルダ・シュタイン。

弓使い。

ローランの親友。


ハッシュ・ノズルド。

精霊使い/短剣。

皆のお兄さん的存在。



場面。

魔王討伐前夜、宿屋にて。

――約束だよ、勇者様?

「ああ、約束だ」



『さよなら小夜曲(セレナーデ) ・前編』



青白い光を帯びた月明かりの下、肩を並べて歩く男女の姿。

「……俺さ、この戦いが終わったら、ローランに告白しようと思う」

月光が彼の輪郭を縁取り、きらきらと煌めく金糸の髪が風に煽られ、ゆらゆらと揺れる。

その光景はどこか神秘的で、触れられない美しさが、すぐ傍にあるような気がした。

「……告白?」

だからなのかもしれない。彼に見蕩れていた私は、一瞬反応が遅れてしまった。

「ああ」

私の前を歩く彼が、どんな表情をしているのか分からない。

けれど、表情が見えなくとも彼の声を聞けば分かってしまう。彼の決意の強さ。その揺ぎ無い想いを。

「あ、……そう、なんだ……」

喉が変に渇く。掠れた声で普段通りを装うのは、中々難しかった。

だから、彼がこっちに顔を向けていなくて本当に良かったと思う。

きっと今の私は、泣きそうな顔をしている。こんな顔、とてもじゃない。勇者様には、見せられない。


じわりと潤む瞳をどうにか誤魔化したくて。気付かれたくなくて。努めて明るい声で促す。

「……どうして、今じゃないの?」

「ん?」

「告白、どうして今夜しないの?」

「……最初はさ、今夜ローランに告白しようと思ってたんだ。けど、止めた」

口を閉ざし、どうして?と暗に問えば、

「戦いに決着がつかない限り、ローランに告白出来ないって自分なりに決めていれば、何が何でも生き残れるような、そんな気がするだろ?」

「………」

「……それにさ、本当は怖いんだ」

「怖い?」

「ああ、怖い。今告白してしまえば、少なくとも彼女の答えを聞くってことだ。俺はさ、臆病なんだ。

どんな答えになろうとも、一喜一憂している間に大切なモノをこの手から零してしまいそうで」

それが怖い。と、悲しみを覗かせた微笑を向けられた。

その微笑みを見た瞬間――。


彼にとっての大切なモノの中に、私は入らないの?と、不意にそう思ってしまった。

けれど、すぐにそうではないのだと思い直す。

彼にとって大事なのは、ローランであって私じゃない。私で、あるはずがない。

……そんなこと、分かっているのに。

私が、この人に抱く感情の正体を知る前からずっと――。



分かっていたのに。どうして私は今、こんなにも泣きそうになっているんだろう?

「だから、今はまだ言えない。言わないほうが、全てを護れるような気がするから」

彼の言葉を聞く度、自分の心がまるで鋭利な刃物で深く抉られているようで、……痛い。

声なき声が迸り、心が悲鳴を上げる。

「……そういうこと、どうして、私に言うの?」

心を繋ぎ留めるのに必死で、何を言えばいいのか分からない。

本当は、彼の背中を押すような言葉とか言えたら良いんだろうけど、それも出来そうになかった。

「ん、なんでだろうな?リアには、知っていて欲しかったから、かな?」

鼻先を指で掻き、照れたような笑みを浮かべる貴方は……、



――残酷な人だと、そう思った。



「……そっか。じゃあ、私は信頼されているってことなんだね?」

心を殺して、明るく。彼が知っている私で。

「ああ、信用しているからな」と、私が好きな笑顔でそう言ってくれた。

けれど、その笑顔はローランを相手にしているときとは、違うものだってことを知っている。

「……じゃあさ!今夜はもう寝ないと。じゃないと、寝不足で実力が発揮出来ませんでした!とかだったら、格好が悪いじゃない?ローランにいいとこ見せて告白しなくちゃ、ねっ?」

「ああ、確かにリアの言う通りだな。じゃあ、今日はもう寝るわ」

微かに笑った彼は、私の頭をぽんと撫ぜ、こちらを振り返ることなく宿屋へと向かって行った。



「……おやすみ、勇者様」

雲間から覗く月明かりが、彼の背中を照らし出し、何度となく見てきた後姿を目に焼き付けた。

……今なら間に合うかな?泣いて縋って、好きだと言ってしまいたい。そんな感情に苛まれる。

けれど、そんなことをしても勇者様を困らせるだけ。……そんなことは、したくない。

したくないけど、突き進もうとする恋情が私の心を蝕んでいく。それは、まるで甘美なる毒のように。

咄嗟に右腕に爪を突き立てた。

そうすれば、危うく感情のまま行動しそうになった本能を抑えることが出来るような気がして。


やがて、理性を取り戻した思考のもと、私はただ静かに涙を流した。

頬を伝った涙が地面へと落ち、乾いた大地を潤すが、あっという間に乾いてしまい、その場には何も残らなかった。



『さよなら小夜曲・前編』 了



「……どうして、私じゃなかったんだろう?」

――どうして、私だったんだろう?


「……どうして、私を選んでくれないんだろう?」

――どうして、私が選ばれたんだろう?


「……どうして……?」

――どう、して……?


――どうして?だなんて、そんなの自分自身が一番分かっている。

だって、私は――……。

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