番外編・男の思惑
『番外編・男の思惑』
あの女は、俺に恋愛感情なんてものを抱いていない。これは、はっきりと言える。
あいつは、俺という存在に自分の居場所を見出そうとしているからだ
あれは、今まで培ってきた全てを奪われた。
この世界においてあいつは、右も左も分からないような赤子同然。
そんな状態の人間が、不意に差し出された手を取って、縋らないわけがない。
実際、最近のあいつは俺を見るたびに縋るような目を向けてくる。その度、胸に甘い痺れにも似た感情がよぎる。
それは、十分過ぎる程の満足感。乾いた心が潤っていくような、そういった感情に駆られる。
だが、これは俺があの女に恋をして生まれた感情ではないことを知っている。
あいつが俺に抱くモノが恋ではないのと同じように、俺のこの感情は、ガキが欲しい玩具を手に入れた満足感にも似ている。
俺は、一目見た時からあれが欲しかった。
全てを失い、泣くだけしか出来ない、哀れで滑稽なあの女が欲しかった。
俺の目論見通り、あの女の瞳に映るのは、この空虚な世界ではなく、――ただ一人。俺の姿を、その黒い瞳に捉えている。
きっと、このままの関係を続ければ、あの女の俺への執着は強まるだろう。いや、きっとじゃない。確実に、な。
今後、あの女にも友と呼べる存在が出来るだろう。
少しずつその狭い視野を広めていくだろうが、心の拠り所が俺である以上、俺を求め続ける。
最後の最後であの女を突き放し、心が壊れる様を見てみたい気もするが、今はそうだな。
とりあえずは、俺だけしかその瞳に映し出さないあいつを、存分に可愛がってやるとするか。
それもまた、俺の望んだことでもあるしな。
『番外編・男の思惑』 了
自分の存在理由だとか、居場所だとか、あとは家族のような“自分”という一人の人間を手放しで受け入れてくれるような、そういった存在が元からなかった場合。
もしくは、なんらかのことがあって、一瞬にしてそれら全てを失った場合。
そういった人間にとって、何の見返りもなく受け入れてくれる存在って、かなり大きい存在になるんじゃないか?と思いまして。
それで、もしその相手が異性だったら恋しちゃうよね?けど、それって本当に“恋”と言っちゃってもいいのかな?
そんな考えが浮かんだので、書きました。
……けど、まぁ。ジークには、裏がありましたけどね(苦笑)そういう風に誘導したというか。