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化かし、化かされ、化かしあう・5

にこにこと笑う少女。

その光景に眩暈がする。


「そなた、もう一度望みを言ってくれぬか……?」

あぁ、やっぱり。陛下も混乱しているようだ。俺だけではなかったと、安堵した。

周りの人間も俺と同じのようだ。中には、未だついていけない人がちらほらと見える。


「実験が一体何の目的で行われたのかは知りませんが、一度はこの世界に呼び出したんです。責任を取って、私を貰い受けて頂けませんか?」

「いや、しかし。そなたは、そもそも帰りたいはずでは……」

何か大事なことに気付き、はっとする陛下。その変化を視界に捉えた少女は、その笑みを深くした。


「私が、いつ “帰りたい”と言いましたか?私、一言も帰りたいだなんて言っていませんよ?

あ、望みを聞くって言っておいて、私のこの願いを却下するのは、駄目ですよ?

きちんと言質は取りましたし、ここにいる全ての人間が証人なんですから!」

……何かの詐欺か、これは?悪徳商法よりも性質が悪い。

「だが、そなたにも、そなたの帰りを待つ家族や友人がいるのであろう?」

狼狽しながらも陛下が、少女の考えを押し留めようとしている。

しかし、次の少女の発言で、帰れとは言えなくなった。


「あぁ、確かに待っているといえば待っていますね。包丁を片手に、私の喉元を掻き切る瞬間を、ですけど」


「え……?」

日常会話並みにするりと零れた言葉の内容に、驚きの声が滲む。

そんな俺に、陛下から視線を外した少女が、こちらに視線を向けた。

「あ、驚きました?やっぱり、驚きますよね?

いやはや、お恥ずかしながら、この世界に召喚される前、父親だったモノに口を塞がれて、今まさに刺し殺されそうになってたんですよ。

だから、殺される寸前でこっちに来たときは、心底驚きましたね。心臓ばっくばくでしたよー。

でも、この世界でも死んでくださいって言われているようで、苛っとしましてね。

しかも、こっちにお願いしている筈の貴方たちが、どこか愉しんでいるように感じられて、正直胸糞悪かったので、私も茶番にお付き合いしちゃったということです。

いや、しかし。まさか、こうも上手くいくとは思わなくて。


っと、ネタバレはどうでも良くてですね。とりあえず、このまま帰されると私ってば殺されるんですよ。

ここは一つ、小さな命を救うつもりで置いて頂けませんか?」


一気に捲くし立てられては、思考が追いつかない。

とりあえず分かったのは、彼女をこのまま帰せば殺されてしまう、と。そういうことだった。

だから、彼女をこの世界で保護することにした。

今になって思えば、強烈なまでに存在感を示す少女に、圧倒されてしまっていたんだろう。

そうでなくては、このようなよく分からない存在を、国で手厚く保護することはありえない。


***回想、終了***


あの実験から半年が経った。例の少女に与えられた部屋のドアを開ければ、山積みとなっている書類。

散乱する書物。あまりの汚さに何度掃除しろと言ったことか。

だが、あの女は、いけしゃあしゃあと、どこに何が置かれてあるのか把握しているから勝手に触るなと言ってくる始末。

ったく、仮にも女なら、女らしく綺麗にしたらどうなんだ?


「あ、れっぐ!」

その張本人たる人物が、ひょっこりと、埋もれた紙束の中から顔を出す。

実年齢を聞けば、少女というのも憚れるのだが……。見た目は少女。限りなく少女だ。

しかも、名前を呼ぶときは、どうも舌足らずになるようで、一部の男共から受けがいい。

少女のような容貌。名前を呼ぶときだけ、舌足らずな甘い声。

しかし、少女ではない年齢のため、身体を重ねるときに毎度、背徳感を覚える始末。何せ、体型が育っているとは言い難いからな。

だが、感度はいいほうだろう。触り心地もいいしな。


「……ねぇ、れっぐ。今、物凄くいやらしいこと考えていたよね?」

ジト目で見られ、少しばかり動揺が走った。動揺を悟られないように、苦笑して誤魔化す。

「考えている前提か?ありえないな。流石の俺も朝からそこまで盛ってはいなんだが」

「……ふーん。まぁ、いいけど。というか、朝からそんな際どい発言しないでよ」

納得していない顔で、頬杖を付くリィ。


……まさか、あの実験からこういう関係になるとは、と笑みを浮かべながら、床に落ちている物を踏みつけないよう、リィのもとへと歩み寄る。

何の用?と、上目遣いで睨んでくるリィは、婚約者の贔屓目じゃなくても可愛いと、そう思う。

彼女の目尻に唇を落とし、そっと、柔らかな唇に触れる。

何度か啄ばむようなキスを繰り返し、顔を離した。視線の先には未だ慣れないのか、いつか見たときのように頬を紅潮させたリィの姿。

こういう姿を見るたびに絆されている自分がいる。だが、そんな自分もそう悪くないと思えるから、もう一度その唇に触れた。

ちゅっ、と音を鳴らし、柔らかな唇を食み、吸い付く。それだけで、リィは身体を熱くする。

行き場を失くしている手をそっと、俺の服に掴ませるようにして口付けを深めた。


*  *  *


「納得がいかない!」

俺が脱がしたから、責任を持って俺の手で服装を整えていく。

まぁ、気絶させるくらいやったわけだから、それぐらいしておかないといけないと思ったわけなんだが……。

どうしてまた、ご機嫌斜めなんだろうな?

「何が?」

きっ、と睨みつけてくるリィ。微かに潤む瞳は誘っているようにしか思えないから、怖いとは思わない。

全く、普段は鋭いくせに。これだって計算しているかのように見せて無自覚だしな。

「どうして私はこう、いつも、いつも流されるように、れっぐに抱かれちゃっているのかな?」

そう言われてもなぁ……。

「お前のことは、所詮お前にしか分からないし、俺が言えることでもない。

それより、流されるように抱かれているっていうのは、どういうことだ?」

リィ?と、笑みを浮かべれば、失言した!と顔を青くするリィ。

「なぁ、俺はそっちの発言のほうが気になるんだけどな?」

未だ身体の自由のきかないリィをいいことに、ソファに座る彼女を優しい動作で横たえる。

おろおろと挙動不審に動くリィ。

その光景を楽しみながら、ぷちぷちと、ブラウスのボタンをゆっくりと外していく。

時折、その熱く熟れた唇に触れながら――。


*  *  *


――あの後。あの後というのは、リィを保護することに決めた後のことだが、見事に彼女は、自分が計画した通りに、こちらの世界に留まることになった。

しかし、よくよく考えれば、彼女の発言には色々と矛盾がある。

それを問いただすため、宮廷魔導師としての権限を使い、彼女の身柄をこちら側に取り込むことに成功した。


あまり広くない自室の部屋に、彼女を招く。

テーブルを境界線とし、向かい合うように座った。

彼女の話を聞いて分かったことは、すでに日記に書いてあるが、改めて話そうか。

名前を梠崎梨衣香。

少女かと思っていたら、俺よりも2つ年下の22歳。これには驚いたものだ。


彼女は、あの実験のとき、家族と引き離されることへの憤りと悲しみを、俺たちに訴えた。

その声なき悲鳴は、俺たちの心を抉り、彼女の心の慟哭だと思った。

彼女がどれだけ家族を愛し、離れたくないと望んでいるのか。彼女から家族を一時とはいえ、自分たちの身勝手な思惑のもと、取り上げるべきではなかったと。

彼女は戻りたいとは口にしなかったものの、元の世界に帰りたい、帰して欲しい、そう望んでいると、俺を含む誰もが思った。

だが、彼女はその口で家族に殺されると言う。そんな所には、戻りたくないと。逆のことを俺たちに訴えてきた。


何が真実で。どこからが嘘なのか。疑問を口にした俺に彼女は、

「あぁ、どっちの話も嘘に決まっているじゃない。ようは、作り話」

と、なんともまぁ、悪戯を楽しむ子供のような、無邪気な笑顔を向けてきた。

22なら、もう大人だ。

まるで、子供を大人にしたような……いや、見た目も子供だから、中身が子供でも仕方ないのか?

思わず、溜息が漏れた。


「溜息を吐くと、幸せが逃げちゃうよ?」

……誰のせいだと思っているんだ。誰の!

「どちらも嘘か。お前、嘘を陛下に言った時点で処罰ものだぞ?」

「あ、やっぱり?そんな気がしたから、私の身柄を保護をしてもらったのは、正解だったかな?」

「したところで、嘘だとばれてみろ。処罰は免れん」

「いや、それはないと思うよ?だって、何が嘘で何が真実なのか、知りようがないじゃない。

嘘を真実にしたら、それはもう真実になる。でしょ?」


……強かな女だ。だが、悪くない。そう思った俺は、リィを傍に置き続ける。

邪魔だと感じたら他の助手にやればいいだけの話だったが、珍しいことに俺は、常にリィを傍に置き続けた。

そうしていつしか、恋人から婚約者という関係になっていた。


*  *  *


実験から1年。俺たちは、夫婦になっていた。

まさか、あの実験で召喚した人を自分の妻にするとは、あの当時の俺も予想はしていなかっただろう。

「ねぇ、れっぐ。私のお腹に赤ちゃんがいるの」


……。

「……は?」

「だから、れっぐと私の子供がここにいるの!」


「……そうか、それは嬉しいな」

驚きと、嬉しさが心の中をじわじわと占めていくような感覚。……リィの傍は、本当に退屈しないな。次々といろんなことが起こる。

「でしょ?」



彼女が笑う。

嬉しそうに。

あどけない少女のように。

花が綻ぶように。

そして、俺もまた、彼女に寄り添うように笑う。


いつまでも。 

いつまでも。


彼女の隣で。



『化かし、化かされ、化かしあう・5』 了

補足。

レッグフォードたちが住む世界には、約300年前に一人の異世界人が流れ着いた。

その者は、黒い瞳と黒い髪を持った少年と伝えられている。

少年は、時空の歪を利用して、あちら(日本)とこちらの世界を繋げてしまう。

少年は若すぎた。

この自分がした行いのせいで、此度のような実験が行われたことを知らない。



ここからが、あとがき。

異世界トリップネタ、特に聖女関連での世界を救って下さい!で、安全性を問いたいがために書いたお話。

正直言って、守ります!とか言われても、全然全くもって嬉しくないよな、と思って(爆)

確かなものが欲しいですよね(´▽`*)


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