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化かし、化かされ、化かしあう・4

「……貴方、娘さんはいる?」


少女が、口を開いた。俺が静止の言葉を発する前に。

「……あぁ、いる。14歳になったばかりの……」

いきなり質問された男が、口をまごつかせながら、そう答えた。

「そう。じゃあ、貴方のその娘さんがある日、突如として目の前から消え失せました。貴方は、その後でどういった行動をとられますか?」

「そ、そんなの、勿論どこに消えたのか行方を捜すに決まっている。魔導隊にも動いてもらって、魔力の痕跡を追……せ、き……」

そこまでいって、男は何かに気付いたように言葉を切った。


「便利ですね、魔法って。私の世界では、まず痕跡を追跡することなんて出来ませんよ?

だから、その世界にいるのか、いないのかさえも分からない。けれど、貴方たちは違う。

この世界にいるのか、いないのか、そのお得意の魔法で知ることが出来る。

でも、今の私みたいに知らない世界に飛ばされていたら?

魔力の痕跡を追うことも出来なかったら?


ねぇ、貴方はどう思うの?

そこで、私みたいに無理矢理聖女に仕立てあげられていたら?

貴方の知らない世界で、国の為、民の為にと先頭を切って戦ってくれと言われていたら?


ねぇ、それって名誉なこと?

貴方が住むこの世界でならいざしらず、貴方も知らない世界で、貴方の娘さんが、言外に“死んでください”と多くの者に言われていたら?


ねぇ、それって嬉しい?それって、幸せなこと?」


しん――、と静まりかえる広間。


誰も、

何も、

言えなかった。

言えるわけがなかった。


この場に居る者には、子を持つ者が多い。

少女の言葉を聞いて、少女の立ち位置を、自分たちの子供に置き換えたのだろう。青ざめた顔が多い。

実験だからと、そう思ったのがそもそもの間違いだった。

例え実験だろうと、暇つぶしに行うものではなかった。

相手は、自分と同じ人間なのだと。何故、俺はそのことに気付かなかった?

泣き叫んでいた少年や少女たちの表情を思い出し、後悔が俺を襲った。



「……すまなかった」


威厳のある声が聞こえた。反射的に俯かせていた顔を上げれば、陛下自らが少女に頭を垂れていた。

「私にも娘がおる。故に、一人の父として、そなたを家族の元から引き離してしまったこと、申し訳なく思う。

本当にすまなかった」

「……」

一国の王が謝罪したが、少女の憤りは納まらないのだろう。陛下に、何かを答えることはなかった。

ただ、その漆黒の瞳で陛下の姿を見つめるだけ。


「これより、そなたを元の世界に戻す。よいな、レッグフォード」

俺の名前が呼ばれ、了承の意として頭を下げる。

すぐさま送還の陣を引こうとしたとき、少女が口を開いた。

「……どうして、私を元の世界に戻してくれるのですか?必要だったんでしょ、“聖女”が」

「そなたには黙っておったが、そもそも国を救って欲しいということそのものが虚言だったのだ。

実験のため、そなたらの世界を利用させて貰っていた。すまない」

「……そう、だったんですか。でも、いきなり呼び出して、何の実験だったかは知りませんが、帰して“はい、終わり”というのも酷くありませんか?」

彼女の発言は、許される範囲内のものではない。

陛下に、何かを得ようとするような言動は固く禁じられている。

しかし、誰も彼もが、この少女を非難することは出来なかった。

俺たちは、この少女を、今まで召喚した子たちを追い詰めてしまっていたのだから。

「……そうだな。そなたは、一体何を望む?そなたが望むものを申してみよ。それが、我らがそなたに行ったことへの代償としよう」


その言葉を聞いた少女の顔が、にやりと、小さな笑みを浮かべた。

それは、近くにいないと分からない程度の変化。


――――あのとき。

この茶番劇に付き合ってあげると、そう言ったときに浮かべたものと全く同じ笑みを浮かべる少女。内心、嫌な予感がした。

「……言質、取った!」

嬉しそうな、小さな呟き。ひくりと、引き攣った笑みが浮かんだのは、仕方ないと思いたい。

そんな俺の表情に気付いた少女は、こちらに視線を向け、綻ぶような笑みを見せる。

―――どくんっ。

一気に血が巡ったかのように、身体中が熱くなった。


「ありがとうございます王様!では、私をこの世界に留まることを許可して頂けませんか?」

先程まで悲痛な笑みを浮かべたり、暗い瞳を灯していた筈の存在が。

頬を紅潮させ、それはそれは、嬉しそうに笑った。



さて、どちらが先に騙したのか。



『化かし、化かされ、化かしあう・4』 了


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