化かし、化かされ、化かしあう・2
「まず、あんたたちの……ええと、“国を救って欲しい”という要求だっけ?それは却下」
何故です?と口にすれば、
「だって、私がそこまでしてあげる義理なんてないじゃない。
それに、さ。私の国って実質戦争を放棄して半世紀……あぁ、一世紀は100年をさすわけだけど、ここが1年間で何日あるのかとか、そういったことは別に知りたいと思わないから、ここは割愛させてもらうことにして。
とにかく、私が暮らす国が戦争を放棄してから半世紀以上は経っているの。
だから、戦時中ならまだしも、平和な世界でのうのうと暮らして、それを当たり前と思っている私に、いきなり聖女として戦争を終結して、平定して欲しいだなんて無謀にも程がある。
それなら、まだ戦い方を知っている人間を聖女として仕立てあげたほうがましだと思う。
というか、女を争いの筆頭に据え置くな。やり方が一々汚いんだよ。
争い事に非力な女性を巻き込むな。
そんな戦いにおいて邪魔にしかならない存在、切り捨てろ。
男のほうがまだ使えるだろうが?どう考えたって。
でも、まぁ、広告塔的存在が欲しいなら他をあたった方が良い。
とりあえず、清楚で儚げ美人とか。
見た目はいいけど、馬鹿で利用しやすそうな女を起用することを推奨したいね。
……あ、そうだ。
さっきから国を救ってくれって簡単に言うけど、それって大丈夫なの?」
「……大丈夫、といいますと?」
淀みなく話す少女に、少なからず驚いた。……それにしても、いきなり言葉が汚くなったな。
「安全は保障されているのかってこと」
「勿論大丈夫で御座います。こちらとしても、優秀な人材を聖女様に付けさせて頂きますので」
「……は?何言ってんの、あんた?頭良さそうな雰囲気出しておいて、ただの馬鹿?」
……面と向かって馬鹿と言われたのは、初めてだ。しかも、こんな少女に。
「優秀な人を付けるから何?私は、そんな不確かな安全性を言われても困るの。確証が欲しいわけ」
「は、はぁ……」
「全く。……簡潔に言えば、私が聖女になった後での死亡確率が聞きたいの」
やれやれと肩を竦ませ、大袈裟に溜息一つ。
目の前の少女から漏れる。
……何なんだ、この少女は。
「で、実際のところはどうなの?」
「……」
正直、そういったことを聞かれるとは思わなかった。つい、目の前の少女を凝視してしまう。
「言っておくけど、きちんとした資料で提出してよ?私が反論出来ないような、完璧なものじゃないと駄目だから。
そうじゃないと、こちらとしても納得出来ないからね。
だから、やれ国一番の騎士をお傍に付けますだとか、やれ魔法使いで力のある者を付けますとか言われても困るの。
だって、私。あんた達が言うその実力がいかほどのものなのか、そういった基準自体知らないから、あぁ、そうなんですか。それは頼もしいですね!うふっvなんて、そんな阿呆なこと言えないから。
こっちだって命かかっているんだし」
そう言って、むっつりと口を閉ざした少女。
召喚場所として利用していた広間が、一瞬沈黙に陥る。
皆、驚いているのだろう。まぁ、俺も例外じゃないが。
そんな中、一人の貴族が声を荒げた。
「何をさっきから言っているんだ!貴方は“聖女様”なんだ!!神の子なら、我らの国を救うべきだ!!!」
その声を皮切りに、周りから“聖女なら!”という言葉が溢れ出す。
……これは、面白い展開になってきた。
実際、周りの目が少女の反応に関心を寄せている。
さぁ、この状況でこの少女は何と言うだろうか?久しぶりに研究以外で楽しいと、心の底から思った。
『化かし、化かされ、化かしあう・2』 了
……自分としては、男女差別するつもりはなかったのですが、それっぽい感じの文章があるような気がして、内心ビクビクしております。