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俺(委員長)と君(私)

今日は、彼女と日直の日。

俺と彼女は、誰もいないがらんとした教室の中で、彼女の机を挟み、お互い向かい合うように座って、目の前に置かれた日誌を書いている。

これは、初めて彼女と日直を行ったときからやっていることで、鈍い彼女にこれが“普通”なのだと思い込ませることは、至極簡単なことだった。

「……」

「……」


すぐ傍にいる君の存在。手を伸ばせば触れられる距離。

君の息遣いに耳を澄ませながら、日誌を埋めて行く。

だが、ゆっくりと。君に勘付かれない程度に、ゆっくりと書き込んで行く。

少しでも君との時間を共有するために。

こんなことを思っている俺だが、いざ君を前にするとどうも臆病になる。


(何を話せばいい?)

(何を言えば君は笑ってくれる?)


そんなことばかり考えては、最終的に何も話せないまま、いつも君との時間が終わってしまう。

それを歯がゆく思うが、結局何も出来ないままでいた。


ふと、日誌に落としていた視線を上げれば、窓の外へと向けられた君の横顔。

同じ色合いを宿した瞳が今、閉じられている。

こう、まじまじと見ていると、彼女はどこにでもいるような少女だ。

可もなく不可もなくといった、極々平凡な少女。

それなのにどうして、こうも心を掻き乱されるような思いになるのか。


――過去、自分のこの容姿のせいで沢山の女たちが寄って来た。

その中で、こんな想いを抱いたのは、この目の前にいる少女だけだった。

触れれば消えていくような。

手を伸ばせば、この手からすり抜けて行くような君の存在。

独特な雰囲気を纏う少女に興味を抱き、最終的に欲しい――と、そう思った。


「……」

日誌を書く手を止め、彼女の横顔を観察していると、君の横顔にある変化が。

何かに反応するように、瞳を閉じたまま口元を綻ばせる君の姿。

何が君の心を動かしたのか。

彼女と同じように窓の外へと視線を向けたものの、見事なまでに赤く染まった夕日が広がるだけ。

時折聞こえてくる運動部の声と、帰宅して行く生徒たちの声。それは、いつもと変わらない日常。

もう一度彼女に視線を向ければ、それらの声に反応するかのように頬を緩ませていた。


君を楽しませているモノの正体に気付いた瞬間。何故だか言いようのない怒りが込み上がってきた。

今は、俺と君だけだというのに、君は他のことに気を取られている。

それだけでも憤りを感じるというのに、俺以外の存在に楽しそうに笑っている。

まるで、君の中で俺という存在がいないかのように、君はただただ幸せそうに笑う。

その姿が憎らしくてしょうがなかった。身勝手な言い分だが。


「……おい」

不機嫌さを抑えることもしないで、ただただ君の意識を自分に向けさせたくて。君に声をかけた。

すると、目をぱちぱちとさせながら、ゆっくりとした動作で俺へと向けられる視線。

彼女の意識が向けられたことへの満足感が占める中、君は困ったような、それでいてどこか戸惑うような、そういった色をその瞳に宿していた。


(……声を、かけなければ良かったのか?)

浮上した気持ちも、君の様子で沈んでゆくみたいに。


(俺は、どうすれば君を笑わせてやることが出来る?)

分からなくなる。君を前にすると。



「……後は、君の分だ」

彼女の前へと押し出すように日誌を渡すと、君は空いたスペースを埋めて行く。

再び俺から外される視線。


日誌へと零れ落ちる艶やかな黒髪。

白く、小さな手。

仄かに赤く染まって見える頬。


それら全てが俺の心を掻き乱すというのに、君はそれに気付かないまま。

俺と彼女の時間は、もうすぐ終わる。



君と歩く、彼女の家までの道のり。

長いようで、短い時間。



今日もまた、臆病な俺は何も出来ないまま。

今度こそはと、君の笑う姿が見たいと思う自分自身に見て見ぬ振りをした。



『俺(委員長)と君(私)』 了

……ヘタレ委員長。けれど、私の趣味でむっつり属性です(笑)

お互いがお互いに気があるのに、どこかすれ違ってしまうもどかしい二人。

周囲は、そんな二人にやきもきしたり、暖かい目で見たりと、何気に大忙しなのでした(笑)

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