化かし、化かされ、化かしあう・1
キーワード。
実験・異世界トリップ・時々シリアスっぽいかも?
レッグフォード・アーノンド。
神官、本編の主人公。男性。
梠崎 梨衣香。
演劇をかじっていたこともあってか、そのときそのときによって口調が変わることもしばしば。
レムンルストのサーガ、晴れ。
明日、実験を行うことにした。
実験といっても、それはただの口実であって、所詮は暇つぶしにすぎないが。
~実験内容~
概要:召喚した人間の考察。
研究期間:約1ヶ月。
行う魔法:召喚魔法(異世界の人間を召喚するものとする)
召喚の頻度:1日1、2回出来れば上出来。
召喚する世界:地球(界渡りの安定期に入るため、空間を安全に繋ぐことが可能)
場所:日本。
対象年齢:15~20歳。
対象性別:男女。
設定:召喚された人間を神聖化し、役割を与える。
女→聖女。
男→勇者。
どちらも、「この世界を救って下さい」と頼むこと。
目的:混乱する状況の中、理不尽な要求を突きつけられたとき、どういった反応を起こすのか。それの考察。
……目的と、あえて表記してみたが、本来このような理由で実験を行うことはない。
気になったからやってみることにした。ただ、それだけのこと。ようするに、自分の知的好奇心を満たしたかっただけにすぎない。
備考:この茶番を成功させる為に王族、貴族、騎士の方々に演じて貰うこと、既に了承済み。
意外にノリ気だった彼らには呆れさせられるが、ようは皆、退屈なんだろう。
レムンルストのザフィア、曇り。
今日は、予てより準備していた実験を行った。
~結果~
召喚対象名:?
年齢:外見上11、12歳(設定に狂いはない筈なのだが……)
性別:女。
上記の結果から読み取れるように、召喚した人間のことは分からなかった。
まぁ、それもその筈か。いきなり召喚された挙句、国を救えと脅したようなものだったからな。
泣いても仕方がないと思ってはいたが、始終泣き喚くものだから、手を焼かされるはめになった。
何せ、周りの人間どもは、泣き喚く少女のことを楽しそうに眺めるだけだったのだからな。
……全く、神官という立場も厄介なものだ。腹立たしい。
ちなみに、少女には一切こちらの思惑を告げることなく、強制送還させてもらった。
……初日からこうでは、嫌気がさしそうだ。
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レムンルストのゾアラ、晴れ時々曇り。
あれから毎日のように実験を行った結果、今のところ初日の少女のように泣き喚くか、もしくはこれは夢なのだと、この世界そのものを否定するかのどちらかだ。
しかし、今日の召喚者は、嬉しいことにそのどちらでもなかった。が、色々と問題があるようだと気付かされる。
~結果~
召喚対象名:シュウ・オリベ。
年齢:外見上15歳に見えたが、17歳らしい(どうやら、日本人は総じて童顔が多い模様)
性別:男。
こちらの世界に召喚するなり、何やら興奮してよく分からないことを口走っていた。
「おぉ!RPGの世界みてぇ。すっげぇ……!」と、初めて聞く単語を連発した挙句、こちらの要求をあっさりと受け入れる。
ただの馬鹿なのか、それともお人よしなのか。
とりあえず、乗り気になったところで、敵である魔王自体存在しないのだから、興奮するこの少年には悪いが、お帰り願うことにした。
こうも、すぐに信用されると胡散臭く感じられるのは、俺が歳を取ったせいなのか……。はぁ、頭が痛い。
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ミファネストのアレージア、雨。
これで何回目の実験となるのか。
とりあえず、近頃は同じようなパターンが続き、陛下たちも些か退屈してきているようだった。
大まかなパターン。
・泣き喚く。
・夢であると思い込む。
・要求をあっさりと受け入れる。
大概はこういったところだ。しかし、今日召喚した人物は違っていた。
なんというか、強かで、面白い。
~結果~
召喚対象名:梠崎梨衣香(漢字は、リィに教えてもらった。だが、中々に書くのが難しい)
年齢:外見上16歳~18歳。だが、本人曰く22歳。(どうも、この年齢設定が曖昧すぎて困る)
性別:女。
とりあえず反応が面白かった。
こちらに召喚された当初は、きょろきょろと周囲を見渡し、動揺することなく「ここはどこですか?」と聞いてくる。
初めての反応に俺は勿論のこと、周りの人間も興味を示すのが分かった。
***回想シーン***
まず、召喚者本人である俺から、召喚した目的を話す。その間、少女が口を挟むことはなかった。
ただ、その漆黒の瞳がひたと、俺に向けられる。
その、純粋なまでの黒い瞳に一瞬、呑まれた。
まるで、俺たちの馬鹿な遊びを見透かされているような、そんな気がした。
なんとも居心地の悪い中、決まり文句となっていた「この世界を救って頂きたいのです」と言えば、少女はこう言った。
「何で?」と。
一言、そう返された。だから、俺も言い返す。「それは、貴方が聖女だからです」と。
だが、またもや「だから、何で?」と問い返される。
それからというもの、馬鹿の一つ覚えみたいに「何で?」と繰り返されるものだから、内心うんざりしてきた。
少し期待した自分が馬鹿だったか、と送還呪文を唱えようとしたとき、目の前の少女が溜息を吐く。
俺のほうが吐きたい気分なんだがなと、思ってしまったのは仕方ない。
そんな俺に、少女は「一体何なんですかこれ?いつまでこの茶番を続けるつもりなんですか?」と。
多分、このときの俺は相当間抜けな顔をしていたのだろう。少女の眉間に皺が寄るのが見て取れた。
「普通、こういった大事なことをお願いするとき、もうちょっと真面目に言ったらどうなんですか?
貴方を始め、周りにいる人たち皆して、私のことを観察しているようで。
……ほんと、何なんですか?何かの嫌がらせですか?」
……変わった少女だ、とそう思った。
彼女自身根拠はないようだったが、これが茶番劇だということには気付いたようだ。
しかも、俺たちの目を見て。中々鋭い洞察力だ。
だが、ここで終わらせるのは面白くない。もう少しだけ、俺たちに付き合って貰いたいという感情が生まれる。
多分、周りの人間たちもそうだったのだろう。こちらに視線を寄せているのが分かった。
「嫌がらせだなんて、とんでもない。……聖女様が一体何を仰りたいのか、私には分からないのですが」
「……あっ、そう」
白けた瞳で俺を見る少女。
「……いいよ、分かった。私も暇してたから、あんたらの茶番劇に付き合ってあげる」
少女には似つかわしくない、にやりとした笑みを浮かべた―――。
『化かし、化かされ、化かしあう・1』 了