誰がために君は泣く?後編
きっと、この場にいた誰もが驚いたんじゃないかなって思う。
だって、元の世界に帰りたいと望んでいた私のことだから、“帰りたい”って願うと思ってたんじゃないかな?
でも、残念。彼らが予想していたものとは違う願いを言い出した私に、まるで鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしている。
ドッキリをしかけて、成功したときのような達成感が私の心を占めた。
「お前!陛下の前で何を言っているんだ!?」
私の言葉から我に返った男が、鋭い声をあげた。彼の名は――ジスオール。勇者の仲間だった人。
メンバーの中でリーダー的な存在で、時には仲間たちを鼓舞し、時には優しく、頼れるお兄さんのような人だった。
……その優しさが私に向けられることは、ただの一度もなかったけれど。
そんな彼が発した言葉。私にだって分かっている。
ようやく訪れた平和な世界。陽気な人々。
穏やかな時間が流れようとしているこのときに、水を差すような真似をしちゃいけないってことぐらい。
空気を読まなければいけないことも、ちゃんと分かってる。
けれど、とも思う。私の命一つぐらいどうってことないんじゃないかって。
元々この世界に存在しない命。一つ失われようとも、彼らにとって痛くもかゆくもないだろうに。
実際、魔王と相討ちにでもなれば、万々歳だな!と噂されていたくらいだ。
死ねば、美談の一つにでもなるだろうと、笑っていたのは、この世界の人たちだ。
噂よりも少し遅れてしまったけれど、元々私の死を望んでいた彼らにとって私の願いは、願ったり叶ったりな状況なんじゃないかな?
それなのに、ざわめく民衆。顔を見合わせる要人たち。そして、困惑気味の国王。
いざ面と向かって言われると、動揺するしかないのかな?なんだか滑稽で面白いなと思いつつ、ジスオールに視線を向ける。
「何を言っているかなんて、私が一番分かってますよ?でも、時間がないんですよ。私に残された時間が」
口に出してみてひしひしと感じる、自分自身のタイムリミット。
元の世界がどれだけ先進医療の進んだ国だったとしても、助からない命。
今更戻ったところで、家族を悲しませるだけ。それが嫌だった。でも、本当は……。
「……時間がないって、どういうことだ?お前には、自己治癒が出来る筈だろう……?」
珍しいことがあるんだなって、そう思った。旅の始まりから終わるそのときまで、彼らが私のことを知ろうともしなかった。
だから、今になって詮索するような言葉を言われるなんて思いもしなかった。そのことに、ちょっぴり嬉しいと感じる自分にも。
「不思議と、思いませんでしたか?」
ジスオール以外の視線を感じて周りを見渡せば、多くの人たちが私たちのやり取りを見ていた。
遠くの場所にいる人たちにも聞こえるようにと、魔法が敷かれているせいなんだと思う。
しかも、この光景は各国でも見ることが出来ている。
まぁ、私の元いた世界でいうところの衛星放送と同じようなものなのかな?
そんなことを考えていたら、先を促すような雰囲気が漂い始める。
「私は、あなた方の召喚術により、別の世界から連れてこられた存在」
だからこそ、貴方たちは、私の命を軽く見ることが出来た。
所詮、違う存在だからと。
「私が元いた世界では、“魔法”なんてものは一切存在しませんでした。そんなの、夢物語で語れる空想の産物。
だからこそ、そんな世界から来た私には、魔力なんてものは初めからありませんでした」
でも、お前は……と、ジスオールの口元が動いた。
「そうですね。異常なまでの魔力がありましたよね?でも、そうならざるを得なかったんです。
だって、そう求められたから。“勇者”としての私を望まれてしまったから。
……この世界に来たときにはもう、私の身体は勝手に変化していました。そこに私の意思なんてなかった」
自然と俯く顔。
これがもし、私の望んだことだったら、少しは変わったのかな?
最初からこの世界を守りたいって思っていたら、彼らとこんな風にぎすぎすとした関係になることなんてなかったのかな?
でも、それこそただの妄想で。現実には、そうならなかった。
「勝手に作り変えられた身体は、貴方たちが知っているように莫大な魔力と自己治癒という能力を持っていました。でもそれは、魔力じゃなかったんです。私は、あるものと引き換えに魔法を使っていました。
それ、何だったと思います?」
一旦そこで一息つく。そして、必死に笑おうとして、失敗した。
「私の命、ですよ?」
「笑えますよね?あんなにも帰りたいと願って、必死に戦ってきたっていうのに、力を使えば使うほど自分の命が削られていくだなんて」
そこで、常に纏っていた純白の外套を脱ぎ落とす。これには、ちょっとした魔法がかけられていた。
外からも、内側からも決して汚れないように。血の臭いが漏れ出してしまわないように。
必死になって隠してきた秘密。
誰からも心配されない現実を見るのが怖くて。そんな風に卑屈になる自分が嫌いで、隠し通してきたこと。
でも、もうこの外套とはお別れ。
この外套がその役目を担うことは、二度とないから。
「ずっとずっと、嫌いだった。こんな世界なんて、大嫌いだった。私から全てのものを奪っておいて、救いを求める貴方たちが。
誰も、私を救ってはくれなかったのに」
力なく笑う私の身体は、治癒しきれなくなった傷痕のせいで、赤黒とした斑点が服に染みついていた。
これ以上自分の意思で治癒をしようものなら、私の魂の灯火は消える。だから、魔王戦の最中から治癒することはやめていた。
戦闘の後に治癒術士であるニーナに頼ることも出来なかった。出来る筈もなかった。
本来の治癒術士は、己を治癒することが出来ない。しかも、他人を治癒した場合、精神力が他の魔法を使うよりも多く削られる。
そんな彼女に頼れるわけがないし、自己治癒があるのなら、ニーナに頼るなというのが彼らの言い分だろう。
まさか私が、それで命を代償にしているとも知らずに。
彼らにそのことは言わなかった。だって、最初は私自身も知らなかったことだから。
最初は、ちょっとした違和感。身体が妙に重いと感じたり、たまに眩暈がしたりと。
特に治癒術を使ったときが一番身体に負担がかかるようで、魔王戦より少し前から吐血するようになっていた。
「こんな状態で帰れるわけ……ないじゃないですか」
何か言いたそうにしている国王や、かつての仲間たち。
感情のまま出た言葉は、どこか支離滅裂で。けれど、私がため込んできた想いでもあった。
「家族を悲しませるだけの私に、今更帰ることなんて出来ません。
だから、最期のお願いです。私をこの世界で死なせては貰えませんか?」
私が願いを口にしてから、どれだけの時間が経ったのだろう?
随分と長く感じたような気がする。
「そなたの願いは、分かった」
ようやく、国王がその重い口を開いた。
それは、言い淀み、覇気のない声。それには、迷いが隠れていた。
「しかし、知らなかったとはいえ、そなたには酷なことをした。すまない」
国の頂点に立つ人が、得体の知れない小娘に頭を下げる。その姿は、私には辛かった。
「……謝らないで下さい。余計、惨めになります」
まるで、憐れまれているようで。そんな、同情した目で見て欲しくなかった。
事実を知った上で、それでも尚、以前とは変わらない態度を望んでいたというのに。
そうだったら、嫌いなままでいられたのに。
「それに、結局その道を選んだのは私自身なんですから。……だから、謝らないで」
――そう、旅の途中で止めることも出来た筈。これを理由に。
逃げ出して、ひっそりとこの世界で生きることも一つの選択肢だった。
けれど、私は勇者として魔王を倒すことを選んだ。
例え、魔王に対して恨みが無くても。憎しみの度合いでいえば、もしかしたら目の前の人たちのほうが大きいかもしれない。
それでも、その道を選んだのは私だから、彼らに全ての非があるわけじゃない。少なからず私にも非はあった。
そうか、と私の意思を汲み取った国王が引き下がり、ほっと胸を撫で下ろす。
「しかし、我らはそなたに酷いことをした事実は変わらぬ。先程そなたが言ったように、そなたに嫌われても仕方のないことを我らはした。
それでも尚、そなたはこの世界で死に場所を求めるか?」
言外に、大嫌いな世界で死ねるのか?と聞いているのだろう。優しい人だなと、思った。
そんなことで心配する必要なんてないのに。
確かに私は、嫌いだった。こんな世界。でも……。
「……嫌いじゃないから、求めるんですよ」
ぽつりと、呟いた言葉が、果たして届いたのかは分からない。例え、届いてなくても構わない。
「ある少年が言ってくれたんです“まもってくれて、ありがとう”って。そのとき、嬉しいと思ったんです私。
それまでは、この世界の人たち全てから悪意を向けられていると思っていました。
私も私でそんな貴方たちを、この世界ごと拒絶して。
でも、たった一人。
私に無邪気に笑いかけてくれて、感謝してくれた存在が、何よりも嬉しかった。
その少年の一言から、拒絶ばかりしていたこの世界に向き合ってみようと思ったんです。
ちゃんと知って、それから自分で考えて行動しようって。
それから時間が経って、自分の魔法が自分の命を削っていると知ったとき。逃げ出そうと思いませんでした。逆に守りたいと。
あの少年が住む世界だから、って。少年が笑っているこの世界は、きっと綺麗な世界で、だから穢されたくなかった。
私、こう見えても結構幸せだったりするんですよ?この後はもう、死ぬだけの私ですけど。
それでも、あのときの少年を守ることが出来ましたし、その子との約束を果たせました。
実は、私。その子と約束をしていたんです。必ずこの“大好きな”世界を守るって。
そのときは、あの子にとっての大好きな世界でしたけど。
今では、好きだと言っていたあの子の気持ちが、ほんの少し分かるような気がします。
――本当にこの世界は、綺麗ですよね」
新緑の森が太陽の光を浴びて、きらきらとその葉を煌めかせ、真白な雲がゆったりと流れ行く青空。
レンガ造りの街並みには、思い思いの家具や観葉植物が飾られ、魔王という名の恐怖から解放された人々の笑顔が至るところで見ることが出来た。
それら全てが、なんだか美しいと思えた。
これを私が。――私たちの手で守った世界。
そんな世界で眠れるのなら、私はもう何も望んだりなんか……。
そう、思ったのだ。少年と交わした約束を果たしたときに。
でも、やっぱり嫌いだった事実は変わらないから、感情のままに彼らを責めてしまった。
そのことに後悔はないけれど、今後私のような人間が現れないよう。こんなことが繰り返されることがないよう。ちょっとした抑止力として働けばいいなとも思ったりする。
そんな打算的なことを考えている私に、豪奢な椅子に座っていた腰を持ち上げ、しっかりとした足取りで歩み寄る国王の姿。
何だろう?と、身長の高い国王を見上げたとき、今にも泣きそうな瞳と視線が交わったような気がした瞬間――。
抱き締められた。
あたたかな温もりを感じて、思考が吹き飛ぶ。一応、こちらが怪我人だということは覚えてくれていたようで、抱き締める力は弱々しく、どこか労りを感じる。
その優しさが何だか嬉しくて、もうちょっとと、望んでしまいそうな自分がいたけれど、このままだと国王の正装が汚れてしまう。
白地のそれは、治癒しきれていない傷のせいで、私の服を汚していく赤黒とした血が微かに移る。
「あ、あの、陛下!血が……!」
慌てる私に無言を貫く国王。抱きしめる力が、ほんの少し強くなったような気がした。
「……ありがとう」
「……っ、」
“すまない”の代わりの“ありがとう”
耳元で囁かれ、拘束が解かれた。驚く私に、柔らかな笑みを浮かべる国王。
それは、悲しみをほんのりと滲ませた微笑みだった。
「……お前の願い、受け入れよう」
少しだけ砕けた言い方。それが何だか嬉しかった。同情を引くようなことを言ったけれど。それでも変わらない態度を望んだりもしたけれど。
ちょっと優しくされると嬉しくなるみたいで、そんな自分が単純だなと思ってしまう。でも、そんな自分も嫌いじゃなかった。
初めて、私という存在をこの世界で受け入れて貰えたような気がしたから。
私も私で、ようやくこの世界と向き合えた気がする。
「ありがとうございます、陛下」
笑顔でお礼を言う。そして私は、そのままの足で、ある場所へと向かう。
その際、国王が一緒に旅をしてきた彼らに命令を下して、あの頃のように皆で行動する。
ただ、ちょっと違ったのは、私が先頭を切って歩いているということだけ。
式典会場から目的地までは近い。だから、まだこの身体は大丈夫。でも、もう時間がないことだけは確かだった。
黙々と歩く。私たちが旅をしていたときは、私を除いたメンバーでわいわいがやがやと賑やかだった。
それなのに今は、誰一人言葉を交わすことはなかった。
やっぱり、私のさっきの言葉が少なからず彼らにも衝撃を与えたのかもしれない……と、思ったところで、桃色の花弁が舞い踊る丘に到着した。
旅に出る前に私が見つけた最高の場所。
そこから見渡せるヘリオートの街並みが、実は好きだった。
そよそよと国花でもあるヘリオンの花が揺れ、まるでこの場所一体が切り取られたかのように、あのときと変わらない光景を映し出していた。
私は、桃色の中へと足を踏み入れ、適当な場所に腰を下ろした。
――ああ、これが私たちの守った証。
「ジスオール、ヴィシェド、スンク、ニーナ、ヘレン」
後ろに控えている彼らを見ることなく、ヘリオートの街並みを見下ろしながら、決して旅のときには呼ばせて貰えなかった彼らの名を呼ぶ。
「私一人じゃ何も出来なかった。この世界を救うことも。だから、一緒にこの世界を守らせてくれて、ありがとう」
振り返り、笑顔で言った瞬間。いつも自信に満ち溢れていた彼らの顔が歪んだような気がした。
気がしたというのも、ありがとうと、言い終えた途端に私の身体が傾いたから。
彼らの顔を最後まで見ることが出来なかった。
* * *
ぽふりと、音を立てながら、少女の身体がヘリオンの花の中へと埋もれる。
慌てた俺たちは、横たわるその小さな身体の元へと駆け寄った。
上体を起こし、今まさに息を引き取ろうとする少女に向かって声を張り上げる。
「おい!しっかりしろ!!……っ」
勇者であったこの少女の名を呼ぼうとしたとき、そういえば少女の名前を俺たちは知らないことに気付く。
別に知る必要もないと思っていた。知ったところで、呼ばないのは分かっていたからだ。
「……っ、目、開けろよ!俺たち、お前に言いたいこととか、聞きたいことがあるんだ。だから……!!」
ぺちぺちと、頬を叩く。閉ざされた瞼が、微かに揺れたような気がして、俺たちは呼び続けた。
こんなことをして都合が良すぎると自分でもそう思う。
年端のいかない、しかも別の世界からきた人間に全てを背負わせて、この少女が勇者として俺たちの世界を救ってくれると勘違いしていた。
だから、少女が俺たちの願いを断ったとき、裏切られたような気分を味わった。
それからというもの俺たちは、少女の全てを否定し続けた。今の今まで。
きっと辛かっただろう。苦しかっただろう。それでも、この少女は俺たちの世界を守ってくれた。
大嫌いな筈のこの世界に向き合おうとしてくれて。
それなのに、俺たちはどうだ?目の前の少女を追い込んだあげく、死ぬ間際になって気付かされるなんて。
きっとこれは、罰だ。
たった一人の少女を見殺しにした俺たちへの―――。
閉じられたままの瞼が、俺たちの罪を強く意識させる
何も言えないまま終わるのか?と、絶望を抱いたとき、その黒い瞳が微かに見えたような気がした。
* * *
「……ジス、オール……?」
「ああ、俺だ」
手を握り締められ、まだ生きているんだと実感した。
それにしても、これは一体どういう状況なんだろう?ジスオールの太腿に頭がのっている。
そんな私の顔を覗き込む皆。その表情は、一様に心配しているようだった。
「……お前に、言いたいこととか色々あるんだ」
「言いたい、こと?」
何だろう?彼らから聞く言葉は、いつも刺々しい物ばかりで。思わず顔が強張る。
それを感じ取ったジスオールが、すまないと、呟く。
「お前は、役立たずじゃない。お荷物なんかでもない」
「……っ」
旅が始まった頃。私は、今まで戦うこともなく平和に生きてきて。戦い方も知らない女子高生で。
だから、戦闘も旅の仕方もよく分かっていなくて、ただの足手まといだった。
そんな私に、彼らはよく私のことをお荷物だと言っていた。
まるで役に立たないと。面と向かって言われることもあれば、私のいないところで言っていることもあった。
そんなときは、聞いてないふりをして、その場から逃げることしか出来なかった。
「……ほん、と?……私、役に……立て、た?」
途切れ途切れに言葉を紡げば、ニーナとヘレンの啜り泣く声が聞こえた。
「ああ。俺たち以上の活躍だった」
最初の言葉は、役に立っていたということで、後の言葉は、ジスオールなりの気遣いだったのかもしれない。
それでも良かった。
「そ、っかぁ……よかった……」
優しさが込められた声に涙腺が緩む。
そんな私の頭を撫でる温かな手の感触に、強烈な眠気に襲われる。
重い瞼が閉ざされそうになったとき、
「なぁ、お前の名前を教えてくれないか?」
そう、不意に聞かれた。
「……花菜」
「カナ」
こくりと、小さく頷く。
「カナ。俺たちはお前に出会えて良かった。俺たちのほうこそ、ありがとな」
初めて向けられたジスオールたちの優しい笑み。
これら全てが自分の見せた都合のいい夢だったとしてもいい。
最期を迎える私への優しい嘘だったとしても構わない。
それほどに今の私は、歓喜に心が震えていた。
もう一度ありがとうと言いたくて言葉を紡ごうとしたけれど、それは声にはならなかった。
だから、とびきりの笑顔を彼らに向ける。
その瞬間。
一滴の涙が頬を伝い、私の世界は閉ざされた――。
* * *
少女の――カナの最期は、笑顔だった。
その顔はどこか満ち足りていた。
どうして笑っていられる?と、そう思う自分がいる。
俺たちは、あまりにも多くのことを求めすぎた。そうやって、お前のその柔らかな心を傷つけた。
けれど、カナはこんなにも穏やかな顔で眠っている。
まるで、全てを許すかのように。
この顔を見ていると、勘違いしてしまいそうになる。だが、ずっと傷つけられた心が、全て癒えているとは到底思えない。
――なぁ、カナ。
俺たちは、……俺は、お前のことを忘れない。
お前の命を代償に平和な世界を手に入れたことを。決して忘れない。
ずっとお前のことを覚えているから。だから今は、眠ってくれ。
その傷が癒えるそのときまで。
ぽたぽたと、静かに流れる涙が花菜の頬に落ち、やがて彼女自身が流した涙と一つになった―――。
「おやすみ、カナ」
そう呟くと、花菜の身体が淡い光となって徐々に消えていく。
まるで、初めからその存在がこの世界にいなかったかのように。
掌に収めた筈の光の粒子も消えていたが、ジスオールはその手を固く握りしめ、先程まで自分の傍にいた花菜の姿を求めて、ヘリオンの花が揺れるその場所を、ただただ見つめていた。
『誰がために君は泣く?後編』 了
一度は書いてみたかったんですよね。
異世界トリップした少女が、勇者となりその身を犠牲にするというものが。
本当なら、長編にして召喚→魔王討伐までの旅路→そして、報われない最期という流れにもっていきたかったのですが、文才がなさすぎて無理でした(爆)
なので、大分詰め込んだ感、満載ですがこのような形となりました。
これよりも前に書いたものが結構、花菜が偽善っぽいというか、いい子すぎたんですよね。
自分の身を犠牲にする程でもないんじゃないの?という印象を持たれそうなものだったので。
そういったこともありまして、全て書き直しました。
ええと、本編中でこの世界で死にたいと望む花菜の心情の変化が強引過ぎたような気がしたので、ここで整理しようと思います(爆)
(少年が大好きだと言った世界は綺麗だった。
元の世界に戻ることが出来ない今、彼が言ったこの綺麗な世界で眠らせて欲しいと。
また、少年以外の人は、どうしても好きになれなかったんじゃないかと思います。
もうちょっと時間があれば、和解することも出来たかもしれません。
そのあたりは、国王が花菜を抱きしめた部分や、ジスオールとのやり取りで少しでも救われてくれたらなと思い、詰め込んでみました)
ちなみに。元々書いてあった流れは、後始末を世界に求めるんですけど(嫌がらせという意味合いでも)
ぽつぽつと少年との出来事を話しているときに、嫌いじゃないとそのときに気付く。
で、命をかけて守ったこの世界で死にたかったと、いう流れでした。
ちょっと弄り過ぎたせいで、ぐだぐだ度が前のものとそう変わらなかったかもしれない現実に項垂れそうです。
あ、実は。この話の続きとして、救済要素を含むお話を3つ考えていたんですけど、やめました。
このまま終わった方がいいような気がして。
まぁ、随分と前に救済話を考えたので、3つ目のタイトルしか思い出せないのですが「誰がために君たちは笑う?」でした。
タイトルからして、救済する気満々ですよね。
最後に。ジスオールが言った「出会えて良かった」に対して、実は花菜はそれについて応えていません。
やっぱり、どれだけ最後が良くても今までのことを考えると、“私も”とは言えないんじゃないかと思まして。
それがあって、ジスオールの「傷が癒えるそのときまで」に繋がればいいなと。