誰がために君は泣く?中編
魔王が倒された今、この世界は各地でお祭り騒ぎだった。
恐怖から解放された人々の姿は、誰も彼もが喜びと幸せに心が満たされている。
その姿に思わず頬が緩みそうになって、気を引き締めた。
今、笑ってはいけない場所にいることを忘れていたからだ。
魔王を倒した私たち勇者一行は、私が召喚された国、ヘリオートで国王自らのお言葉を受けていた。
それは、一般市民たちにも見られるようにという配慮から、城下の広場にて式典は行われている。
更に言えば、この式典には各国の要人達も介していた。
粛々と式典は進み、私にとって待ちに待っていた時が訪れる。
それは、国王自らが私たちを労い、望みを聞き入れてくれるというもの。
私以外のメンバーが次々に国民たちへと紹介され、願いが国王に告げられる。
それを国王自らが了承していく。
そして、最後の5人目の願いを聞き入れたとき、次は私の番だった。
「勇者よ、ここへ」
上に立つもの特有の威厳に満ち溢れた声が、私を呼ぶ。
しかし、国王は私の名前を呼んではくれなかった。先程までは、メンバー全員の名前をフルネームで呼んでいたのに。
きっと、私が最初に断ったことが尾を引いているんじゃないかなと思う。
最期くらい、と思わないでもなかったけれど……まぁ、そんなの今更だ。
諦めにも似た感情を抱きながら、国王から少し離れた場所で歩みを止める。
私が歩みを止めた瞬間。
波が引くように陽気な市民達の歓喜の声が消え失せた。
代わりに、ひそひそと私を詰る言葉が拡がり、収拾がつかなくなる程に酷くなる。
見かねた国王が合図をしてそれら全てを鎮め、私に問う。
「勇者よ、望みはあるか?」
……何を分かりきったことをと、そう思った。
私が、ずっと帰りたいと願っていたのを知っているくせに。
けれど、私はここで彼らの考えを裏切ることになる。
「……場所を」
ぽつりと呟かれた言葉は、相手に届くこともなく、空気だけが振動する。
訝しげになる顔が、ちらほらと視界に入るのを感じながら、再度同じ言葉を紡ぐ。
「死に場所を一つ、私に頂けませんか?」
誰にも迷惑をかけず、静かに死ねる場所を――。
『誰がために君は泣く?中編』 了