誰がために君は泣く?前編
キーワード。
異世界トリップ・勇者・シリアス・王道・死ネタ
仲原花菜。
無理矢理召喚され、勇者に仕立て上げられる。
気が付いたら日本でも、地球上のどこでもない場所に私はいた。
私は、その世界で“勇者”と呼ばれる存在だった――――。
『誰がために君は泣く?前編』
――傷を負ってもすぐにその傷が癒える。
――異常すぎる程の膨大な魔力を有する。
それが、この世界にきて私に備わった力。
それまでは、そんな力の片鱗を感じさせないほどの、ごくごく平凡な高校生だった。
なのに、この世界――イブルスにきた途端。非現実的としか言いようのない特殊な力が私の身に宿っていた。
人々は、そんな私を持てはやす。
“勇者”
――そう呼んで。
けれど、私は勇者なんかじゃない。何の取り柄もない、非力な人間。
それなのに彼らは、私を必要としてこの世界に縛り付けようとする。情に訴え絆そうと。
でも、私は何も出来ない人間なのだ。戦う術すら何一つ知らない、ただの小娘。
そんな人間に彼らは、一体何を望むのだろう?
私に、捨て駒になれとでも言うのだろうか?
……そんなの、冗談じゃない。
勝手に呼び出して、勝手なことを言って、それが通るとでも本気で思っているんだろうかこの人たちは。
あまりにも理不尽すぎる彼らの言い分に、私の中で何かがぷつりと、切れたような気がした。
私は、聖人君主でも神でもない。
どうしてそんなことを私がやらなくてはいけないのか。
しかも、故郷でもない知らない世界を救うために、命を賭して戦わなくちゃいけないのか。
そして何故、そこまで盲目的に“勇者”という存在に縋るのか。自分達の力でどうにかすべきだったのではないのか。
怒りに身を染めた私は、彼らの願いを断った。
しかし、このとき断ったのがいけなかった。断ったとき、王族達はおろか要人達が居合わせていた。
非難の声は果てしなく、元の世界へと帰る手段を私は、自らの手で潰してしまったのだ。
――そう、私とこの世界を繋ぐゲートは閉ざされ、私がこの世界を救うかわりに、元の世界に返してやると言われてしまった。
なんて仕打ちなんだろうと思った。これでは、ただの脅しではないか。
帰る術を失った私は、強制的に魔王を倒す旅に出ることになる。
幸か不幸かわからないけど、5人の仲間を用意されていた。この日のために集められたメンバーは、なんとも豪華な面子。
顔良し、家柄良し、能力良し。非の打ち所のない男女5人。
私は、その中でずっと浮いた存在だった。
多分、あのとき断っていなかったら、少しは違ったのかもしれない。
彼らが私を見る目は、常に軽蔑を孕んでいた。決してこちらに歩み寄ろうとはしない彼ら。
この旅が終わっても、自分たちのテリトリーに“私”という存在を受け入れることはなかった。
それは、旅の先々で立ち寄った街でもそうだった。
私が“断った”という事実が、国内・国外にまで広まった結果ともいえる。
だから、私たちが街に立ち寄ったとき、他の仲間は歓迎されるけれど、私にはそうじゃなかった。
彼らの後ろを歩いていた私が顔を出した瞬間、先程まで向けられていた賞賛・賛辞の声は鳴りを潜め、代わりに暴言が飛び交う。
――人でなし。
――化け物。
前者は、私が断ったせい。後者は、多分私の異常な魔力と、治癒能力に起因していると思う。
本来この国では、治癒を専門とする治癒術士が存在しているけれど、彼らは自分たちにその力を使うことが出来ない。
だから、私のように自分の意思一つで、みるみる傷が癒える光景は“普通”からよっぽどかけ離れた存在。
人というのは、自分とは異なるものに恐怖し、畏怖する傾向にある。
だから、彼らは私を拒絶した。私がこの世界を拒絶したように。
仕方ないと頭では理解しているのに、感情の方が追い付いてくれない。
何度も傷ついて、泣いて。
けれど、そんな日常も今日でおしまい。
魔王を倒した今、全てのしがらみからやっと解放される。
『誰がために君は泣く?前編』 了
自分が初めて書いたちょっと長めのお話。
王道的なものが書きたかったんです。