ゲームオーバーの条件
キーワード。
異世界トリップ・ループ・死・残酷・絶望・暗い
私。
異世界トリップした後、幾度も殺される続けることになる。
奴。
私を自分の世界に閉じ込めた張本人。可愛いモノ程、壊したい。
言い訳なんて聞いてくれなかった。
そうして私は、死んだ。
……死んだと、そう思ってた。
けれど、ここからが本当の悪夢の始まりだった―――。
『ゲームオーバーの条件』
私は、ある日突然に異世界とやらに飛ばされていた。
初めてトリップしたときは、真っ暗な場所だったから視界が悪くて、誰かの部屋だとは知らなかったし、気付きもしなかった。
そんな私は、その部屋の主に殺された。その手に持った剣によって。
刺されたと思ったきには既に遅くて、口から溢れたのは声にならない音と、私自身の血だった。
あまりにも突然すぎて、ぽたぽたと流れる血が自分のものとは思えず、不思議と痛みが感じられなかった。
まるで、夢の中で殺されたような気分。
自由を失い、ぐらりと傾いた私の身体は床に倒れ、そのまま私は死んだ。
何も知らないまま。知らない人によって殺された。知らない場所で。
死んだと思った私が次に目を覚ました場所は、また同じ場所だった。何も見えない暗い場所。
再び暗闇の中で目覚めた私が思ったのは、恐怖と混乱。その二つしかなかった。
どうして?と聞ける相手もいない。なんで?と縋る相手もいない。
そんな中で私は、もう一度殺されることになる。
命が尽きる間際、終わったと、そう感じていた私は、再び絶望の中に突き落とされることになる。
だって、もう一度同じ場所で目を覚ますのだから。
さっきと同じように殺され、同じように私を殺した相手が、吐き捨てるように呟いた言葉までもが一緒で、部屋の中は暗かったから、顔なんてものは分からなかったけれど、その声はさっき聞いたものと同じだったから。
思わず、なんで?と小さく声が漏れた。それに対して、誰かが答えてくるわけでもないというのに。
でも、今の私は知っている。この後の私が何度も殺され続けることを。
私は何の力もない女で、相手に興味を持たれるような言葉も行動も示せない。
ただ殺されないよう必死にもがくだけ。
そうして、彼から逃げられるようになるまでに、どれだけ殺され続けたんだろう。
今では思い出せない程に殺され続けてしまった。
何度も殺され続けたことで、私の心の中では、心境の変化が起こっていた。
最初は殺されたくないと思っていたけれど、殺されることが当たり前になってしまって、最終的に諦めた。
殺され、死ぬという現実に。生への執着も未練も、その何もかもに。
死への恐怖心が薄れていくのと同時に、自分の心の中には暗い闇が広まるのを感じていた。
死ぬことは、もう怖くない。
ただ、生きていることのほうが怖くて、苦しくて、辛い。
何回、何十回死んでも終わらない私の生。
あと何回死ねば私は、この悪夢から解放されるんだろうか。
私にとって、知らない誰かに殺されることよりも、そのことの方が何よりも怖かった。
終わりの見えない物語のように思えて、絶望が心の中で広がったときに奴が現れた。
私をこの物語に引きずり込んだ元凶に。
奴は笑いながら私に言った。
ゲームをしよっかぁ?と。キミが、本来のキミに与えられた寿命に達したらボクのまけぇ~。
そのトキこそは、この世界からキミを解放してアゲルよん☆
け・ど・ね。途中でシんじゃったら、ゲームオーバー!
だからさぁ~、頑張って生き抜いてごらん?そして、ボクを楽しませて?
でないとぉ~、ボクはキミを一生、イかしてアゲルんだからねん♪
* * *
奴は言った。この終わりのない物語に思えた世界の終わらせ方を。
奴は言った。人には与えられた寿命というものがあって、私はそれまで生きなくちゃいけないことを。
それが、私という存在を終わらせる為の唯一の方法。
途中で死ねば、私は奴によって生かされる。しかも、時間を戻されるというオマケ付きで。
それを知った私は、初めて目を覚ました部屋の主であり、何度も私を殺し続けていた人から何とか逃げられるくらいにはなっていた。
そうなるまで本当に長い時間を生きて、そして死んでいった。
何度も繰り返される世界で、私以外の人が同じ動きを取ってくれていても、この鈍い身体が反応出来るようになるまでに相当な時間がかかってしまうのだ。
ようやく最初の人から逃げれたと思えば、次には扉の前で待機していた騎士によって殺されてしまう。
焼けるような痛みと絶望を味わいながら何度も死んでいき、そして生き返る。
ようやく城の中から逃げられたと思った後も安心は出来なかった。
奴は言った。ボクを楽しませろ、と。奴は、奴自身が愉しむ為だけに私を殺す為の人間たちを用意していたのだ。
けれど、私はそんな人たちと殺り合える程の力もないし、味方もいないこの世界で私は、何度も殺され続けた。
死ねば最初からやり直し。けれど、いつぐらいだろうか。
目を覚ましたときに、私を殺した彼がいないことが度々あるようになったのは。
そして、扉の前に待機している騎士の人数に変化が表れ始めるようになったのは。
私一人だけが変わって、それ以外の人の言動や行動は、変わらなかった筈なのに。
希望から絶望へと叩き落された瞬間だった。
この世界の住人達の行動に変化がないからこそ、攻略法が少しずつだけれども分かり始めたというときに、彼らもまた生きた人間で、この世界で生きているのだという現実を目の前に突き付けられた気がした。
奴は言った。私が本来の寿命を迎えたときこそ、この茶番劇から解放されると。
その言葉が私にとっての希望であり、縋るモノだった。
だからこそ何が何でも生き抜いて、終わらせるんだと躍起になっていた。
けれど、変化が始まったこの世界で私は何に希望を持てばいい?
いつになったらこの悪夢は終わる?
ゲームオーバーの条件はたった一つしかない筈なのに、私にとってはハードルが高すぎて、大きな絶望が私の心を蝕んでいく――――。
『ゲームオーバーの条件』 了
奴が私に飽きたら、この世界は終わる?
それともやっぱり生き抜かないと駄目?
もう、分からない。……もう、疲れたよ。
なんとなく、ゲームのリトライをイメージして書いてみました。
ただ、少女を主人公にしてしまったので、生き返っては死んでいくだけかな、と。
危険地帯に投げ出され、殺され続けるという何とも鬼畜プレイ仕様。
しかも味方がいない。武器を扱うことも出来ない。特殊な力も発生しない。
そんな中で少女は、何度も生かされ続ける。