秘匿の花・過去
「秘匿の花」
柳視点のお話になります。
3年前のことになる。オレの部屋に人が倒れていたのは。
当時のオレは、自分の容姿が好かれることや、病院の跡取りということもあって、それ目的で群がる奴らがいることを知っていた。
だからあのとき、倒れている奴を見てまず始めに思ったことといえば、とうとう寮室まで押しかけてきたか……だった。
学校の中で言い寄られることはあったが、寮内では不思議とそういうことはなかった。
多分、ここを管理している人が優秀なんだろうな。
そういった揉め事が起きる前に元凶を摘み取る。
全ての者に平穏な生活を保障いたします、という謳い文句は嘘ではなかったということかと、感心もしていた。
だが、この状況はなんだ!?
オレ以外の人間がここにいる。一人部屋であるこのオレの部屋に。
ここの管理者に絶大な信頼を寄せていたところでのこれは、ある意味オレに対しての裏切りのようにも思えた。
沸々と込み上げてくる怒りもそのままに、オレの部屋で寝そべったままのそいつを睨んでいたが、一向に起きる気配がない。
「……ちっ」
何なんだこいつは!?と歩み寄れば、すやすやと小さな寝息を立てるそいつに苛っときたのは、仕方のないことだ。
「おい、お前いい加減に……」
「ぅ……う゛うん……」
両肩に手をかけ揺すり起こそうとすれば、小さな子供がむずがるように体を捩じった瞬間。
襟ぐりが大きく開いている服の隙間から、“ブラジャー”が見えたような気がした。
「……っ!?」
まさか!?という思いでそいつの体を仰向けにし、服をまくりあげるとブラジャーに収まる微かな膨らみ。
無意識にごくりと生唾を飲み込んでいた。
だが、それは仕方のないことだ。オレたちの世界から“女”という存在が消え去ってから150年以上経っている。
オレの親世代のときには、完全にその存在は消えており、残された資料でしか知ることが出来ない。
しかも、オレたちの世代ともなると、消え失せた存在について学ぶ機会はない。
それどころか、かつてそういった存在がいたことすら忘れ去られてしまっているくらいだ。
だからこそ、ある意味“女”という存在は、この世界にとっての禁忌。
だが、オレのような病院関係者の流れを組む者には、その存在を親から伝えられるのだ。
いつか再びこの地上に現れる“女”という存在を守るために。
何もボディガードをするというわけじゃない。
病気から守るということだ。
親に聞いた話だと、女性特有の病気というものが存在するらしい。
だから、病院関係者……といっても、オレの家のような皇族から認められている病院ではないと駄目だが、そういった病院の家に生まれた子供は皆、女性が罹りやすい病気とその治療法について学び、オレの親のように自分の子にそれら全てを伝えていく義務がある。
それは、さっきも言ったが、いつの日か現れる“女”のためにだ。
その“女”がオレの目の前にいる。親から聞かされていた“女”という存在が。
数多く残された膨大な資料の中で、何度も見たことのある女の体。
だが、資料として見ていたときとは違うこの高揚感。
多くの画像やレントゲンを見てきたが、そのときは一人の医師としてどう治療するのが最善だろうか。という思いしかなく、興奮するとかしないとか、そういう話じゃなかった。
だが、いざ本物を目の前にしたときに浮かんだこの疼きはなんだ?
目の前にいるこれが患者ではなく、一人の女がオレの部屋にいることに興奮しているのか、それとも……。
「……っ、」
どくどくと早いリズムで鼓動を刻む心臓の音が痛い。
「……んっ」
熱を収めようとぐっと自分の掌に爪を立て矢先、眠る女の口から漏れた声に、必死に繋ぎ止めようとしていた理性が切れたような気がした。
呼吸するたびに揺れる胸。
導かれるままにブラジャーからはみ出ている肌に唇を落とせば、頭上から甘い音を滲ませた声が聞こえた。
「んんっ……」
くぐもった声に気をよくしたオレは、白い柔肌に舌を這わせ、ちゅう…と、柔らかな場所に吸い付き、所有の証をいくつも刻みつけた。
「ん、あ……、ぅん…っ」
「……っ、やべ。まじこれ、とまんねーわ」
はぁ、と漏れた溜息は熱を持ち、どれほど自分がこの状況に興奮しているのかが嫌と言う程思い知らされる。
オレの中で生まれた熱は留まることを知らず、それ以上の行為を望んでしまう。
だが、目を覚ました女に勘付かれるわけにもいかず、もっと多くの痕を残したいと思ったが、最低限の証だけを刻みつけた。
数としては不本意だったが、本音を言えば、それでも自分の心を満たすには十分なものだった。
そっと、女の頬を撫でる。
くすぐったそうに身を捩った女は、ころりと、その乱れた衣服のまま、オレに背を向けた。
ここまでしておいて言うのもなんだが、気持ち良さそうに眠っている女の姿を見ていると、なんだかなぁ……と脱力してしまう。
そのときにはもう、女に触れたときに感じた熱は鳴りを潜めていたが、女の衣服を直すときに再び触れたとき、微かに熱を帯びたような気がしたが、知らないふりをした。
次に触れるときは、女の意識があるときでありたいと、そう思ったからかもしれない。
『秘匿の花・過去』 了
ちょっとした設定。
①子供の生まれ方。
女の存在が消えてなくなる前に、多くの卵子を冷凍保存することに成功する。
一定の周期で、限られた数だけ提供された精子を使い体外受精させる。
その後、子を成すための器官が多数存在しているのだが、その人工的な機械の中で特殊な液体に浸けられ、目を覚ました者から、親のもとに帰ることになる。
ちなみに、提供される精子を持つ者は、国から親として相応しい人物であるかどうか、厳しい審査が行われる。
その難関を見事突破した者にのみ国から子を持つ権利が与えられるのである。
また、保存してある卵子と全く相性が合わなかった場合、その権利は無くなってしまう。
②この世界は、ほとんど地球と変わらない街並み。
科学が発展し、魔法の類は一切ない。
だが、女という存在がなくなり、一部の人間たちを除いてはその存在すら時代の流れによって風化される。
ここらが、本当のあとがき。
世界で唯一の女の子なのに、周囲がそれに全く気付かない。これってどゆこと!?をテーマに書いてみました。
設定やら時代背景やら色々と突けば埃が出てきそうなほど杜撰なのは、もうこのさい気にしないです←
これ、デフォルトになるんだと思います。ごめんなさい(爆)
実は、ナツの独白で終わるはずだったのですが、何故か柳が出張るというね。
自サイトのときは、もうちょっと生々しい感じ(?)だったんですけど、頑張って修正してみました。
が、ちゃんと話が繋がっているかどうか怪しいところではあります(苦笑)