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秘匿の花

キーワード。

異世界トリップ?・生物学上♀・貴重/異質・手は早いのです。


ナツ。

異世界トリップしちゃった女の子。口調が男の子っぽいというか、さばさばしている感じ。


神宮寺柳じんぐうじ りゅう

ナツのルームメイト。病院の跡取り息子。



ときに君たち。

君たちは“異世界トリップ”という言葉を聞いたことはあるか?

昨今のネット小説では、その手のものを題材にした読み物が多数存在し、その認知度は高まってきていると私は思っているのだが……。


まぁ、その言葉を知っているにしろ、知らないにしろ、これだけは言わせて欲しい。

どうやら私は、“異世界トリップ”とやらをしてしまったようだ。



『秘匿の花』



私が日本という国にいて、家族と生活を共にしていたのは今から3年前。

当時の私は、花も恥らうピチピチ(死語)の可愛らしい女子高生だった。


……言っておくが、冗談だぞこれは。本気じゃないからな?

で、だ。自分で言ったことに一人弁解している場合ではなかったな。

ある日のことだった。登校中に私は異世界とやらにいたのが事の始まり。

いや~あのとき程ビックリしたことはないな。

何せ、気付いたときには知らない場所だったのだから。

だから、何故私が突然トリップしてしまったのかは聞かないでくれよ?

私にもよく分からない分それに対しての答えを私自身が持ち合わせていないものでな。

寧ろ、私がその答えを知りたいところだ。


さて、まぁ。私がきてしまった世界のことに触れようか。

この世界は、私が元いた世界とは違い“女”が存在しないところだった。

周囲を見渡しても視界に入るのは“男”だけ。

なんともまぁ、むさ苦しい世界だったのだよここは。

とはいえ、女と見紛う程可愛らしい容姿を持ち、尚且つ華奢な体躯の美人さんたちもわんさかいるがな。

ほんと、美女と言っても差しつかえない位に女性的な人たちもいれば、精悍で男性的な美を持つ人も多く正直な話、目の保養だったのは確かだ。

思わず涎が出てしまうくらいには。


……本当に出たわけじゃないからな。断じて、じゅるりと垂れ流したわけではないからな?

せいぜい、ほう……と、感嘆の溜息が漏れたくらいだ。勘違いするな。

で、だ。話を戻すとして、目の保養になっているのは確かだ。正直、眼福レベルでもある。

だがな、流石に“男”という存在が女のようにキャーキャー甲高い声を発したり、昼ドラを彷彿とさせるようなあのドロドロとした修羅場などを実際に目の当たりするとな……こう、目からしょっぱい雨が出てくるのだが……。

分かってくれるか?

今ではもう、そういった光景にも慣れて……正直なところ慣れて良かったのかどうか分からないが、最初の頃は呆気にとられたものだ。

だが、そういった光景も含めてそれがこの世界の常識。

まぁ、そもそも“女”という存在がないわけだから、しょうがないことなのかもしれないが。

とまぁ、かなり端折った説明ではあったが、少しだけこの世界とやらを知ってもらえただろうか?


さて、ここからが本題なのだが、一応私は生物学上女に該当する。

喋り方は女の子らしくないが、これでもれっきとした女である。

だからこそ、この世界にとって私という存在は異端であると同時に奇跡と呼んでもいいモノではないかと勝手に思い上がっている。

なにせ、この世界で唯一の女なのだからな。

こう、崇拝されてもおかしくないと思うのだよ。

若しくはイイ男たちがいたいけな私は求め、逆ハー展開を巻き起こすことになったとしても何ら不思議でないはず。

私という存在が忌避されるべきものでなければの話だが。

……まぁ、その点についてはさておき、逆ハー展開とかは冗談だ。

小説とかだと面白いと思うが、実際そんなことになってしまえば面倒この上ないだろう。


で、だ。話を戻すとして、現実というのはいつも無常なものだ。

結果だけを言えば、何も起こらなかった。

冗談で言った逆ハー展開は勿論のこと、自分たちとは違う体という点で騒がれることもなく平凡に生きている。

……っ、何故なんだ!?

これでも私も女の端くれ。男とは身体構造上まるで違うというのに、何故周りの奴らはそのことに気付かない!

普通違和感を抱くだろう?平……ではないが、微かな膨らみだってある。断じてまな板ではない!

きちんとそれが私を女であると主張している。

しかも、男の象徴もなく、子供を作る器官だってある。

なのに!なのにだ……っ!!

何故か今の今までばれたことがないとはどういうことだ!?

お前たちにはない膨らみがあるだろうがっ!!見て分からんのか!!??

何故だ?何故なんだ!?

私は生まれてこの方、女を捨てたこともないというのに……っ!!!


部屋の中で項垂れる私に、怒りもあらわにした低い声が頭上から降ってくる。

「ナツっ!何お前一人で帰ってんだよ!?どうせ帰る場所は一緒なんだ。オレも誘えっての」

「……あ、すまない柳」


私の目の前にいる彼は、神宮寺柳。

この世界にきてしまった私を拾ってくれた人……というか、気付いたら今通っている学校の寮にいて、これまた気付いたら柳のルームメイトなんぞになっていた。

はて?と思いつつ首を傾げる私をよそに彼は、ある意味強引にもこの寮室で一緒に過ごせるよう手配していた。

元々ここが一人部屋にも関わらずにだ。

その点も含め、いきなりの展開についていけない私は、色々と彼に聞いた。

それによって知ったことといえば、何やら私は奨学金でこの学校に通う特待生という立場を得たらしい。

というか、その設定どこから持ってきた?という話ではあったがな。

寧ろ柳は、私をルームメイトにするのではなく、明らか不法侵入なのだから通報するのが当然だと思うのだが。

おねーさん、青年のこの無防備さが心配だよ。変な人に引っかからないことを切に祈るしかない。


で、だ。ルームメイト設定が組みあがったところで、私の両親は既に他界していることになった。

何せ私が柳に問われたときに口を濁したせいだろうこれは。

有耶無耶にしたいような雰囲気=実は……的な感じになってしまったのだろう。

柳の中で私は一人ぼっちで、親戚もいないということになったって、おま……っ。

私の親や親戚一同を勝手に殺すな!とだけは言っておこう。


ああ、それと。何かよく分からないのだが、柳は大きな病院の息子さんらしく、私をタダで精密検査を受けさせてくれた。

いや、まぁそれには訳がある。

あまりにもこの世界に対して知識のない私に、柳の中で私は記憶を一部失っているという認識が芽生え、一度脳に異常がないか調べることになったのだ。

まぁ、知らないのは当然のことなので、病気とか発見されなかったわけだが、正直言わせて欲しい。

検査のときに何故誰も私の体つきに違和感を抱かったのか。それを問いたい。


『秘匿の花』 了

「秘匿の花・過去」に続きます。

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