目隠し鬼・肆
私があれを水揚げすると言ったとき。
その言葉に驚き、取り澄ましたような表情を微かに揺らした夕霧は、今でも面白かったと覚えている。
だが、それ以上に記憶に残っているのは、あれの感触だろうか。
『目隠し鬼・肆』
金に物を言わせて、あれを手に入れた。
……まぁ、正確に言えば地位と金で、だが。
「失礼致します」
すす、と音もなく部屋に入ってきた少女に、先程まで考えていた思考を追いやった。
夕霧から聴いてはいたが、今日がこの少女にとっての突出しとなる。
願ってもないことだ。
誰にも穢されたことのないものだからこそ、自らの手で穢すことに意味がある。
「……名は?」
「……あやめ、と申します」
未だ頭を下げている少女に、面を上げるよう促す。
そうすれば、結い上げられた髪が剥き出しとなっていた華奢な肩にさらり、と流れる。
その光景に酷くそそられた。
この日のために施されたであろう白粉。
紅が少女を女へと変える。
しかし……、
「……邪魔だな」
「え……?」
きょとんとした顔に思わず笑みが零れる。
このような、色事において赤子同然な少女に、些か不似合いな化粧も香も、邪魔でしかなかった。
これでは、堪能出来そうにない。
「今すぐ落として来い」
何を、とまでは言わなかった。
だが、一瞬視線を巡らせたあやめは、徐に立ち上がり退出する。
再び舞い戻ったあやめに、化粧も、酷い匂いとしか思えなかった香も全て掻き消えていた―――。
『目隠し鬼・肆』 了