委員長と私
キーワード。
青春(?)・ほのぼの
私。
委員長のことが好きな少女。
少々独特な雰囲気が漂っているらしい。
委員長。
私がいるクラスの委員長。
基本、ヘタレ属性らしい。
今日は、委員長と日直の日です。
私と委員長は、誰もいない教室の中で一つの机を挟み、向かい合わせで椅子に座っています。
机の上には、中心を陣取るように置かれた日誌。
それに視線を落として、空欄を黙々と埋めて行く委員長の姿。
私はただその光景を眺めるだけで、カリカリとシャーペンが紙の上を滑る音だけが、教室内を満たして行きます。
「……」
「……」
委員長との日直は、まだ数える程しかしていませんが、私たちの間に会話が成立したことはありません。
必要最低限の言葉だけで、雑談らしいものも一切ありません。
だから私は、今回も眉間に皺を寄せている委員長に視線を向けたままです。
……それにしても、眉間に皺が寄っていてもお美しいですね委員長は。
手触り良さそうなサラサラの髪。伏せられた瞳を覆う長い睫。
誰に聞いても素敵だと言われる整った顔立ちは、どこか中性的な美しさがあり、ついつい見惚れてしまいます。
それに最近は、日が沈むのが早くなったせいでしょうか。
夕日の柔らかな色合いをした光が、委員長の髪を、輪郭を照らし出し、何とも言えない神秘的な雰囲気が漂い、今、目の前にいる委員長に触れようものなら、一瞬にして消え失せてしまいそうな儚さが、そこにはあります。
思わず感嘆の溜め息が零れてしまいそうです。
一度ゆっくりと息を吸い込み、心を落ち着かせるように息を吐き出すと、うっとりとした心境のまま、夕焼け空が広がる外へと視線を向けました。
目を閉じれば聞こえてくる運動部の威勢のいい掛け声。帰宅する生徒たちの楽しそうなお喋り。
それがまた心地の良いもので、ついつい頬が緩んでしまいます。
「……おい」
ふいに委員長の声が耳に入ってきました。
男の人だと分かる、低く、耳に馴染むその声。
ゆるりとどこか緩慢な動作で視線を向ければ、更に眉間に皺を寄せた委員長の姿。
……私は、どうやら委員長を怒らせるのが上手いようです。
初めて一緒に日直をすることになってから6回目の今日ですが、今回もまた委員長の気に障るようなことをしてしまったようです。
そのことに申し訳ない気持ちになっていれば、小さく溜め息を吐いた委員長から日誌を渡されました。
「……後は、君の分だ」
委員長に言われた言葉に一つ頷くと、空欄を……といっても、ほとんど埋められた日誌。
私は残りの部分を埋めるために、シャーペンを持つ手を動かしました。
―――結局。あの後、家まで送ってくれた委員長と何も話すことなく、今回の日直も終わってしまいました。
出来れば、次こそは会話が出来たらいいなと、日直を終えるたびにそう思ってしまう自分は、進歩がないのでしょう。
自ら近寄るのが恐いから、委員長の方から歩み寄ってくれたらと、小さな期待に縋ってしまう私は、やっぱり馬鹿なのでしょうね。
『委員長と私』 了