覚えられるか馬鹿!④
家庭教師・僕。
フィオナの家庭教師。滅茶苦茶怖い。
『家庭教師の愉しみ』
貴族共の家庭教師。それが僕の選んだ職業。
けれど、中にはこの見てくれに騙されて、勉強ではなく恋に現を抜かす馬鹿女共が多くて虫唾が走る。
ああ、なんで僕はこんな職業を選んでしまったのか。
後悔しても尽きぬときに、エバンシーナ伯爵からの声がかかった。
どうせここの奴らも……と思ったのが最初の頃。
いざ会ってみると、言葉もたどたどしい子供だった。
そう、ある程度は言葉を操ってもいい年だろうというのに、その子供は全くと言っていいほど喋れない子だった。
にしても、あの頃のお嬢さんは、それはそれはクソ生意気な子供だった。
顔は雄弁に語るとはこのことで、言葉は喋れないくせに表情で語る。
それはそれで楽しかったものだ。からかいがいのある。
しかも、飲み込みもそう悪くなかったからね。
覚えようという必死さが、たまに引いてしまうくらいではあったけどそれ以外別段問題はなかった。
けど、言葉を覚えた途端、水を得た魚のようにあの手この手と言い訳三昧。
なんなんだろうねあのお嬢さんは。僕に噛みついてきてさ。
しかも、どこからともなく引き連れてきたお嬢さんの子飼いの手下共。
あれ、絶対“狂戦士”たちだよね?
少し前に起きた戦争で駆り出された際に行方知らずになってしまってたあの……。
全く、どこで手負いの彼らを見つけて部下にしちゃったんだろうねぇ。
リーダー格の男なんて、うっとりとした目でお嬢さんのこと見てるしね。
彼だけだよね。お嬢さんの横に常に寄り添って。あとの人間は、影に隠れているのかな?
おっと。見たのがばれちゃったかな?
にたりと嗤う顔が、うっかり赤面しちゃうくらい艶やかでさー。
同じ男なのか?って問いたいくらいだ。
そんな男たちに気に入られている自分の教え子。
この子がこの先どういう道を歩んでいくのか。
僕は愉しみで仕方ないよ。ね、お嬢さん?
『家庭教師の愉しみ』 了