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紅い枷

キーワード。

異世界トリップ・絶対的強者・ヤンデレ?・歪んだ世界


女。

異世界へとトリップしてしまった不運な女性。


男。

女を召喚した。


彼ら。

男と共に女を召喚した


女はただ異世界に無理矢理連れて来られただけだった。

女の意思も何もかも無視された形で強引に。

だから女は、被害者の立場と言ってもいい存在。

そして、女を自らの世界に引きずり込んだ彼らは、加害者となる。

そのことだけは、せめて君たちだけでも覚えていてもらいたい。

何せ、そんな事実ごと唾棄されるだけなのだ。この世界では。



『紅い枷』



女が異世界へと渡った先で彼らに出会う。

女にとって憎み、怒りを覚えるべき存在に。

彼らは、彼らの術によって召喚された女に懇願という名の脅迫をした。


―――我々の世界を救うため、その力をお貸しください、と。

そして、――我々を脅かす“魔”を殲滅して頂きたいと、力も何もない女に縋った。

あたかも自分たちの方が弱者であるのだと、言外にそう匂わせて。


だが、実際は違う。

女の帰る道を断ち、女を自分たちの争いに巻き込もうとしているのだ。

そこに正義などない。

初めからあるのは、剥き出しの悪意のみ。

女に我々を救うしかないのだと、遠回しにそう告げる。

全てが終われば元の世界に戻すと嘘を混ぜ、女に微かな希望をちらつかせて。

だが女は、彼らの言葉に怒りを覚えるわけでも、ましてや泣き喚いたり、すぐさま承諾することもなかった。

かといって、現状に流されるだけでもなく、淡々と事実を口にした。


女が生きていた世界にも争いはあれど、その争いに巻き込まれることなく平和に生きてきたこと。

故に戦う術を最初から持ち合わせていないことも。

何もかも洗いざらい吐き出していた。

ここにいても役に立つどころか足手まといになることは確実であり、異世界で自分の人生を狂わされ、生き急ぎたくはないのだと。

女は取り乱すことなく現状を受け入れ、受け入れた上で元の世界への帰還を要求した。

その姿は、正に異常と言えよう。

普通であるなら、もう少し感情を表に出してもおかしくはないというのに、女はそうならなかった。

感情をどこかに落としてきたかのような無表情さで言葉を紡ぐ様は、ある意味恐怖すら感じる程に。

しかし、女の態度はおかしなものではあったが、女が口にしたことは正論であった。

だが、正論とは時として、自分に牙を向け害となす。

所詮この世界において、女を守るモノは何一つないのだ。

そんな中で正論を口にしたところで意味などない。

女ではなく彼らに全てが委ねられているこの現状では、何の役にも立たない。

だからこそ女は、自ら口を開いてはいけなかったのだ。


*   *   *


女が彼らの“頼み”を断った瞬間に、一人の男が無感情な声で女に告げる。


「じゃあ、いらないや」

「……え?」


そのときになって初めて女の表情に変化が訪れた。

それは、驚き。

女は、男の言葉の真意を取り損ねたのだ。


「君が何を勘違いしているのか分からないけど……。初めから君に発言権なんてないんだ。

“はい、そうですか”と言って君を帰してあげるつもりもない。

そもそも僕たちの“お願い”を断る君にそこまでしてやる理由なんてないだろ?

だから、君の世界に君を帰すつもりはない。

それに、救うことが出来ないって言うのなら、ここで処分するだけの話だ。

理解、してくれた?」

男が先程の女を真似したかのような淡々とした口調で喋れば喋るほど、それに比例するかのように女の顔が青褪めていく。

自分の犯した失態と訪れる未来に。


「ははっ、いい表情かお。いいね、その絶望に染まっていく様は。

……君はさ、嘘でも“はい”と、ただ頷いていれば良かったんだ。

そうすれば、もう少しだけ長生き出来たかもしれない。まぁ、少しだけなんだろうけど。

それじゃあ、さようなら」

口元を歪め、妖艶な表情をその顔に刻みつけた男は、最期の言葉を女へと贈った。


「―――ッ!?―――ひ、ぅ――…ッ!」

自分の首へと伸ばされる男の手に女の恐怖が限界点を突破した瞬間。女の体が崩れ落ちる。

「おっと」

女の体を抱きとめた男は、そのまま顔を近づけると、鼻で髪をかきわけ耳の裏に口付けた。

微かにだが男の行為にぴくりと体を震わせた女に気を良くした男は、首筋に顔を埋めると女の香りを堪能するように深く息を吸った。

「……いい匂い」

吐息交じりの声が女の体へと落ちる。


この辺りで誰もが気付いたように、男はそもそも女を殺すつもりなどなかった。

そして、この世界のために女を差し出すつもりもなかった。


だから、今この場に生きているのは、男と女の二人だけ。それ以外は存在していたが、……存在していない。

女を召喚するために駆り出された彼らは、一人の男によってその存在ごと消されたのだ。

その言葉のとおり、男がその身で飼っている“闇”によって喰われた。“闇”の糧として。だからだろう。

男と女しかいないはずの場で、ぐちゃ、ずりゅずりゅ……と、何かをかみ砕き、貪り、咀嚼する音。

“闇”と呼ばれるそれが、柔らかな肉塊を味わい、温かな臓物を啜る。

やがてその音が鳴りやむ頃には、男もまた女の首筋に埋めていた顔を上げ、己の腕の中で意識を失っている女の顔に視線を落とす。

そして、男は思う。

この女は、自分とは違う意味で異常であると。

女は、現状にただ流されることなく、冷静に対処しようとしていた。

その姿勢は理想ではあるが、女が取る行動としては正しくない。

男たちに勝る程の力があるわけでもないというのに、相手のことを何一つ知らない状態であるにも関わらず、対等な立場として向き合うことはある意味博打に近い。

何せ、女の命運は最初から彼らに握られていたのだから。

気分を損ねることは、最早自殺行為に近い。

だが、女の愚行は男にとってしてみれば、中々に興味を引くものであった。


一度芽生えた興味は、この短時間で独占欲へと変わる。

その感情の変化に男は、自分のことながら愉快なものであると、そう思った。同時に悪くないとも思う。

そう思った男は、次に自分がなすべきことに考えを巡らせた。

「……ここの奴らにコレをくれてやるつもりはない」

さて、ここから手間取るなと、一人ごちた男の言葉は面倒そうなものではあったが、その実、男の口調は始終愉しげなものであった。


適当に死体を収集し、王族共には召喚の儀は成功したものの自分一人を残して他の者らは、対価の代償としてその肢体は引き千切られ、絶命していったと、そう告げればいい。

幸いにも男が飼いならしている“闇”が存分に動いてくれたおかげで、所々赤黒い斑点が目立つこの血濡れた床の説明もこれで済む。

そして、彼らの犠牲の下召喚された者は、王族に仇なす存在であったため自らの手で始末したことを報告するだけで事足りる。

その報告で本当に済んでしまうというからおかしなものだった。

本来であれば、第三者が調査に出てもおかしくはない。

寧ろ、男一人だけが残ったという不自然な結果に疑問を抱くべきだ。

だが、男が言うように、男の言葉が全て通ってしまう現実。疑われることはまずない。

要するに、そうなってしまうだけの権利と地位を得ていることに他ならない。


また、それは“魔”と呼ばれる存在たちにも同じことが言えてしまう。

何せ“魔”にとって“闇”そのものをその身に宿した男こそ至高の存在であり、尊ぶべきもの。

“魔”にとっての絶対的支配者である男が、何を思ったか気紛れで人間の世界に溶け込み生活をしていた。

だが、“闇”は人間にとって猛毒に等しい。男が長く居続けることで、運命の歯車は狂いだす。

やがて人々の心に闇を落とし、内部からじわじわと腐敗していく。

人々の心が穢れれば穢れる程、男への崇拝は絶大なものへと変わる。

しかし、それでは面白くはない。男にとってしてみれば。

穢すまでの過程は愉しめても、その後が“魔”と呼ばれる存在たちと同じような態度では、愉しみが半減してしまう。

そんなときに現れたのがあの女だったのだ。女と出逢ったことで男の生活が一変する。


この世界よりも楽しいおもちゃが手に入ったのだ。

これで遊ばないで何とする?

可愛がってやるも良し。泣かせて、恐怖で引き攣る顔を見るのも良し。

色々な感情や表情を引き出してやりたい。それら全てを自分だけが見たい。

他の奴らに見せるわけがない。

それどころか、女には男だけを見て、男だけを愛し、男なしには生きられないようにしてやりたいと思うくらいに、男の心は目の前で眠る女に囚われていた。

そのことに男が自分自身を嗤う。

何故、この女なのか。どうしてこの女ではないと駄目なのか。

いつだってどうでもいい奴らから好意を向けられてきたというのに。


「ははっ、愉しいな。君で良かったよ、君で。君が召喚に応じてくれて本当に良かった。

……さぁ、君には僕から逃げられないように素敵な枷をくれてやる。

眼を覚ました君が泣いて喜ぶようなとびきりの、な」



『紅い枷』 了

自分、好きなんですよ異世界トリップ最初のシーンがというか、この分岐点が。

だって、この最初の対応で色々なルートが派生するかと思うと楽しくて。


今回は、ええと。冷静な態度を取って見たけど、結局駄目だったよパターン。

個人的に冷静な態度を取る人物は見ていて好きなのですが(非現実寄りで)

やっぱりどこか異常のようにも見えるよね。

でもやっぱそこが面白い。とは思うものの、対等な立場を望もうにも相手のほうが立場が上だったら冷静な態度というか、正論かますのは怖いよね?とふと思ったので突発的に書いてみました。

あ、ちなみに。男側が毎回ヤンデレっぽいのは自分の趣味です(爆)

こう、歪んだ感じとか好き過ぎて、毎回こういう感じの流れに持っていきたくなるんですよ私。


そして、衝動的に書いたこともあっていつも以上に設定とかてきとーです。

魔とか、闇とか、色々と。

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