愛している、逃がさない、この先……ずっと
キーワード。
ヤンデレ・弱肉強食・異世界・暴力・説明口調
斎臥春陽。
逢ヶ埼の学び舎にて、絶対的な存在。
彼の下には、彼を慕う者たちで構成されたグループが存在する。
主要人物たちは、皆その容姿が美しい。男女共に。
朝陽のことを生まれたときから愛しているし、逃がすつもりもない。
旦椋朝陽。
春陽の幼馴染。
春陽のことを愛しているが、とある出来事以来恐怖心を抱くようになる。
そんな朝陽の姿すらも春陽は、愛して止まないのである。
設定なんぞを。
10歳と15歳の夏ごろに受験が開始。秋には合格発表。
冬の半ばに年が変わるため、そのときに外部の生徒が編入してくる。
基本的にクラスは学年ごとに1クラス。
5歳のときには、全体で15人。
10歳、15歳のときに最高でも10人の生徒が合格するようになっている。
「初めまして。俺の名前は******。お前の主人になる者の名だ。覚えておけ」
「***?わたちの、ごしゅじんしゃま?」
「ああ、そうだ。そして、お前は俺のモノだ。***」
『愛している、逃がさない、この先……ずっと』
逢ヶ埼の学び舎。
ここは、6歳~20歳までの子供たちが学び、暮らす学校。
5歳の子供たちが受験をし、選ばれた者たちだけが入学を許されている。
しかし、10歳と15歳の子供は、この学び舎に外部から受験することが出来るような制度が設けられている。
そのため、この国に存在する学び舎の中でも群を抜いて名門と称されるこの学び舎には、毎年多くの子供たちが受験しに来る。
そうして、多くの子供たちの中から、ほんの一握りの子たちが編入を許されるのだ。
名門と呼ばれる学び舎。
学び舎の外の世界で知られているかどうかは分からないが、この学び舎に君臨する絶対的な存在がいる。
それが、今年16歳となる斎臥春陽。彼を主人として仰ぐ者たちは、彼に忠誠を誓っているという。
彼を頂きとしたそのグループは、有名であった。
ただの不良グループという枠に納まらないのは、彼を始めとする主要人物たちが美形揃いにあることが挙げられる。
それこそ、テレビ画面の向こうで見るアイドルよりも。
確かに末端にもなれば、平凡な顔の者たちがいるのも確かではある。
それすら相殺してしまう程に彼の周りを囲む人間たちの容貌は、美しく華やかである。
そのため、彼らに憧れない男子は少ない。女子たちも彼らの存在に熱を上げている。
例え、彼らが非道な行動を取ろうともそれは変わらない。
自分がされていないから簡単に目を瞑ることが出来る。それは、現実を見ない者たちの罪そのものだろう。
だからこそ、彼らは咎められない。咎める立場の人間が存在しないからである。
学び舎もまた、彼らを咎めることはない。
教えるのは知識のみ。それが、学び舎と呼ばれる全ての学校における本質。
強い者が生き残り、弱い者が淘汰されるこの世界。
その中で春陽という人間は、この学び舎において崇拝される存在に等しかった。
思考回路・言動・行動、それら全てにおいて。
そんな彼には、生まれたときから愛して止まない存在がいた。
それが、幼馴染の旦椋朝陽という少女である。
生まれた時から春陽は、朝陽にだけ固執していた。それこそ異常な程に。
それを周囲の人間は喜んだ。
自我の芽生えが早ければ早いほど良い。
それが、一人の存在を自分のモノとすべく動くことに繋がるのなら尚更のこと。
所詮この世は、弱肉強食。強き者が弱き者を喰うのが当たり前の世界で、春陽の行動は周囲の人間を喜ばせた。
春陽という毒牙に晒されていることにも気付かず少女は、すくすくと育つ。
じわじわと真綿で包み込むように朝陽を自分のモノとした春陽。
気付けば、この学び舎の全てを掌握していた。
これから編入してくる生徒たちを除いては―――。
* * *
朝陽にとって、春陽という存在は手の届かない、眩しい存在だった。
生まれた日も同じ。幼馴染として傍にいられることが何よりも嬉しかった。
けれど、周囲の大人は朝陽にとって優しくなかった。
この世界において弱者は排除される。
頭が悪く、顔も平凡。自分の意思が弱い朝陽は、実の親でさえも溜息を吐いてしまう程の弱者だった。
そんな朝陽に優しくしてくれる存在が春陽であり、彼女は春陽に傾倒していくことになる。
5歳のとき。
春陽は当然のように逢ヶ埼の学び舎に受験することになる。
朝陽は、記念受験のようなものだった。
しかし、奇跡が起き、目出度く合格を果たした朝陽は、春陽と共に逢ヶ埼の学び舎に通うこととなるが、実際のところ朝陽の点数では入学出来るものではなかった。
だが、春陽の行動により入学することになる。
この行動が決定打となり、周囲の人間は勿論のこと、学び舎の教師たちに自分の存在と自分の所有物の存在を印象付けることに成功する。
11歳のとき。
去年、外部受験してきた生徒たちが編入してくる季節がやって来た。
彼らは、既にまとまっていた持ち上がり組の存在に緊張しながらも春陽とその周囲に圧倒され、その空気に徐々に馴染み始める。
このとき異性に対して興味を持つ者がいた。
あろうことか、春陽のモノである朝陽に目を付けたのである。
春陽に朝陽の存在は似合わないと。そのやっかみはすぐさま鎮火することとなる。
これを機に絶対的な存在であった春陽に、朝陽は恐怖心を抱くことになる。
それすら春陽は、予想していた。だが、だからといってどうだというんだろうか。今更逃がす筈もない。
寧ろ、恐怖しながらそれでも尚、春陽の傍を離れない浅ましい朝陽の姿に酔いしれる。
愚かで、可愛くて、愛おしい朝陽。春陽にとって朝陽は、何をしても許される存在だった。
ただし、逃げることだけは決して許されなかった―――。
* * *
16歳を迎える年は、ある意味怖いことを思い出させる年でもあると朝陽は身に染みて知っていた。
過去、起きた出来事。
それが引き金となり、今まで絶対的な存在として自分の心の中にいた春陽という存在が怖いものであると思い知らされたのである。
それを怖いと思うこと自体、この世界ではありえないことだった。
朝陽のような弱者は、春陽という強者によって踏み躙られる。
それが世界の真理。自然の摂理。揺るぎのない掟だった。
本来淘汰され、唾棄される存在の自分が怯えることは許されていない。
その権利が、弱者にはないのだ。
春陽は、そういう世界であっても朝陽の全てを受け入れている。
春陽の言動、行動で喜んだり、嬉しがったり、恥らい照れるその姿も。
不安に思ったり、悲しむことも、そして……怯える朝陽の全てを許してた。
でも、それは春陽自身が与えるからこそ許されている。
春陽ではない存在が朝陽に接することを、春陽は許していない。
朝陽の喜びも、悲しみも、憎しみも、恐怖も全て春陽が与えたものではないといけない。
春陽にとって朝陽が全てのように、朝陽の中でも春陽が全てでなければいけなかった。
それを邪魔する者がいれば、排除する。どんなことをしてでも。
それを知っているのは、今年から編入してくる人間以外の学び舎に在籍する全ての者だった。
このことがどういう意味を持つのか。想像に難くないだろう。
15歳のときに受験し、16歳になる年に新しい仲間たちが加わる。
その中に、春陽に目を付けるものが多かった。
だが、春陽の傍には目障りな弱者がいる。
外部生にとって春陽は羨望の象徴であったが、横にいる朝陽のことが気に食わなかった。
それと同じくらいに、朝陽の存在を容認している持ち上がり組にも憤りを感じていた。
だが、持ち上がり組、特に春陽の周りに存在する者たちは能力が高い。
歯向かえない人たちという現実が、心の中を燻らせていた。
そんな人たちに守られるように生きている朝陽という存在。
彼女は弱者だ。搾取される側の人間。そんな奴が強者の傍に侍ることは許されるのか?それは、否だ。
しかし、外部から編入してきた男子の中にも納得出来ない者たちはいたが、敵意を向けることはなかった。
春陽を筆頭にその周囲の人間が朝陽という存在を容認しているということ。それがどういう意味を持つのか。
考えなくても察することは出来るだろう。朝陽に手を出すということがどういう意味なのかということを。
冷静な判断で周囲の状況を把握した外部生の男子とは違い、女子は朝陽に対して悪感情を抱いていた。
その感情に突き動かされ、少女たちは間違った行動に出る。
それは、昼食時のこと。
クラスで昼食をとる朝陽は、重箱に自分と春陽の分を詰め込んだお弁当を毎日作っていた。
それを二人で仲良く食べるのである。その二人から少しばかり距離を開けたところに、春陽と比較的仲の良い者たちが取り囲み、仲睦まじい二人の姿を肴に思い思い休憩を取っていた。
その光景すら気に食わなかった外部生の女子たちが、わざと聞こえるように「どうして、あんな子が……」という言葉を皮切りに、朝陽の悪口を並べる。
女子たちの嫉妬からくる言葉に朝陽は、びくりと肩を揺らして震え出す。
何も、女子生徒たちの悪口に怯えているわけではない。
怯えているのは……。
―――傍にいる男に対してだけ。
これから起こる現実に朝陽は怯えていた。
そんな朝陽の頬をそっと撫でた春陽は、
「そんなに怯えるな。……少し、黙らせて来るだけだから」
穏やかな声で、恐ろしい言葉を残して席を立った。
向かうのは、朝陽を馬鹿にした存在のもとへ。
どんな人間だろうと、朝陽に何かをするのも、言うのも我慢ならなかった。
何故なら、それを与えるのが春陽一人でいい筈だったから。
女子たちの前に立った春陽は、「面白いことを喋っているな」と、微笑みながら言った。その瞳は笑っていなかったが。
そんな春陽の存在に顔を赤らめるどころか、逆に血の気が引いたように真っ青になる少女たちを一瞥すると、机に乗っているお弁当の存在も無視して蹴り飛ばした。
派手な音を立てて倒れる机。飛び散るお弁当の中身。そして、悲鳴。
けれど、少女たちを庇う声は上がらなかった。寧ろ、囃し立てる。
その間、朝陽の傍には彼女を守るようにグループの女の子たちがいた。
春陽が朝陽の傍を離れたときには、常にグループの誰かが守るように傍にいることが決まっている。
朝陽は、女の子たちに囲まれた場所から見ていた。
女だとか、そんなこと一切関係なく、少女たちに暴行を加える春陽を。
穏やかな笑みを浮かべながら殴る彼の姿を黙って見ていることしか出来なかった。
朝陽が気付いたときには、少女たちの歯や肋骨の何本かが折れ、口から折れた歯と血が混じって床に落ちている光景が目の前に広がっていた。
彼女たちが泣いて許しを請うても、春陽は止まらない。
彼の行動を止められるのは、たった一人……。
「……はる、ひ……」
―――朝陽だけ。
彼女の声一つで、嬲っていた少女たちに興味を失った春陽は、朝陽のもとに向かう。
それを見た女の子たちは、朝陽の傍を離れた。
いつもと変わらない笑みを浮かべた春陽が近づいて来る。
それが怖かった。――その笑顔が好きだった筈なのに。
それでも、さっきの光景や倒れたまま放置されている少女たちの姿を見ると、春陽の恐ろしさを実感してしまう。
自分がされたわけじゃないのに。それでも怖いと思ってしまう。
だって、春陽は朝陽のために動いたから。
厳密に言うと、朝陽のためであって、春陽のためでもあるのだが。
そういった考えに行きつかない朝陽は、春陽にしてみれば馬鹿で、愚かで、愛おしかった。
色々な感情を見せてくれる朝陽の存在が、春陽にとって大切なもの。
俺から朝陽を奪おうとする奴には、制裁を―――。
それだけ春陽にとって朝陽という存在は、かけがえのないものであり、代えのきかない存在。
だからこそ、こんなことで朝陽を手放すつもりはなかった。
それどころかこの現状すら利用して、逃げ出す意思さえ奪って行く。
愛しているから。
逃がすつもりもないから。
この先、ずっと……。
『愛している、逃がさない、この先……ずっと』 了
永遠に―――。
ただ単にヤンデレが書きたかった(爆)
なんていうか、クラスの中で性別関係なく、ご執心の女の子のために暴力振るって、そんな彼の姿にビクビクしている女子って可愛くね?と思ったんだけど、だらだらと設定を詰め込み過ぎて、一番書きたかったシーンがあっさりしてしまった気がしないでもない。