逆転・シンデレラ
キーワード。
性転換(シンデレラは、男)・異世界・あの子の姉・ヤンデレ予備軍・女装男子・病弱・転生
私・少女・お姉様。
前世の記憶を持って生まれた少女。病弱である。
シンデレラ・あの子。
私の妹。美少女。(じゃなくて、美男子)
姉。
私の姉。シンデレラの美しさに嫉妬して苛めてしまう。“私”のことには甘く、優しい。
母・継母。
私の母。
姉と同様、“私”には甘く優しい。姉と一緒になってシンデレラを苛める。
優しく、美しい娘。
意地悪な継母や、姉たちからの酷い仕打ちに耐える健気な姿。
魔法使いにより本来の美しさを取り戻した少女は、王子様と運命的な出逢いを果たす。
急速に惹かれあう二人に、やがて訪れる別れ。
十二時の鐘が鳴り響くときが、少女にかけられた魔法の解ける合図。
残されたガラスの靴に導かれ、王子様は美しき少女と再会する。
こうして二人は結ばれ、幸せに暮らしました。
『逆転・シンデレラ』
童話、“シンデレラ”。
初めて読んだときは、幼心にもときめいたものです。
暫くして精神的にも成熟してくると、シンデレラと王子様が一目見て惹かれあう姿に、「ただの面食いじゃないですか」と、可愛くないことを思った時期もありました。
そして、今。
私は、何がどうしてそうなったのか分かりませんが、シンデレラを苛める姉の一人として転生してしまったようです。
私がそのことに気付いたのは、母が私と姉を連れてシンデレラが住んでいるお屋敷に移ったときでした。
前世と同じように今回も体の弱かった私は、慣れないお屋敷生活に耐えきれず、早々にベッドの住人となりました。
というよりは、お屋敷に越してきた当初から既にベッドの住人のようなものでしたが。
それはさておき、ダウンしてしまった私は疲労と慣れない環境に高熱が出てしまい、うなされる中でふと、前世の記憶が溢れてきたのです。
前世の私は、とにもかくにも本を読むのが好きだったようで、“シンデレラ”も読んだ本の一冊でした。
そのときに私は、その物語の流れを知りました。私の立ち位置と共に。
けれど、病弱な私にシンデレラを苛めることは、出来そうにありませんでしたが。
とはいえ、例え健康的な体を持って生まれていたとしても、苛めたいとは思いませんけれど。
なので、苛めた先に待ち構えている凄惨な末路をむかえることは、ないと信じたいです。ええ、心の底から。
どうして私が、このようなことを信じているか、と話す前に、少しだけ前世のことについて話しましょうか。
……私は、小さな頃。
ああ、勿論今ではなく、前世の頃の話ですが。
シンデレラのような女の子に憧れ、シンデレラのような女の子になりたいとさえ思っていました。
けれど、私の知る素敵な女の子はいなかったのです。
グリム童話のシンデレラは魔女であり、他人を意のままに操れる邪眼を持った娘。
そうとは知らずに、シンデレラの美しさに同じ女として嫉妬でもしたのでしょうか。
殊更、シンデレラに辛く当たる継母とその娘たち。
いつか、このお屋敷を追い出されるのでは、と不安に駆られるシンデレラに追い打ちをかけてしまった継母の一言により、物語は終焉へと向かっていきます。
もし、あのときあんなことを言わなければ、継母に、娘たちの踵とつま先をナイフで切るよう仕向けることは、なかったのかもしれません。
そして、二人の姉たちに、お互いの眼球をくり抜き合わせることも。
そうであったなら私は、後ろの方で二人の悲鳴が聞こえても尚、一度も振り向かず、王子様と歩き続けた彼女の存在を一生知らずに済んだのかもしれません。
こうして私は、原作の存在を知ったとき、私の中での“シンデレラ”は砕け散り、ただの幻想だったと思い知らされました。
それでも、せめて王子様と愛し合っているならと、そう思っていたのですが。
それすら、夢でしかありませんでした。
王子様はシンデレラを愛していましたが、少女は好きでも嫌いでもなかったのです。
ただ、お屋敷を追い出される心配がなくなったことに酷く安堵しただけで、王子様のことを見ていなかったのです。
それが、私の知っている“シンデレラ”。
そして、この世界の真実。
けれど、私は信じたいのです。心の底から。
ここが、私の知っているあの“シンデレラ”ではないのだと。
前世の幼い私が読んだ、夢を詰め込んだ可愛らしい世界であると、そう思いたいのです。
そして、母がシンデレラをこのお屋敷から追い出すようなことを口にしないで欲しいと、そう願うことしか今の私には出来ません。
もしも、そんなことを口にしてしまったら、母と姉が悲惨な目に合ってしまいます。
それが、嫌なのです。
シンデレラには意地悪な二人ですが、私には優しく、嫌いにはなれない二人。
そんな二人が傷つく姿を私は、見たくないのです。
そして、あの綺麗な子に、そんなことをさせたくないのです。
綺麗ごとだと思われても構いません。
でも、今の私にはそう願うことしか出来ません。
何故なら、苛められているあの子を擁護しようものなら、更にその苛めはエスカレートすることを知っているからです。
その度に私の部屋に入ってきて、静かに泣くシンデレラ。
あの子を慰めることは出来ても、問題を解決することが出来ない無力な私。
そんな私に、あの子はどう思っているのでしょうか。
そう想像しただけでも怖くて仕方がありません。
私は、二人の苛めに加担していないといえ、何もしていないというのも一つの苛めだと理解しています。
何もしなかったわけではありませんが、結果的にあの子を救えなかったのは事実です。
そんな私は、あの子の目にどう映っているのか。そう考えただけで、身体が震えるのです。
まだ、あの子が私の知っている“シンデレラ”だと決まったわけじゃありませんが、それでも拭えない恐怖があるのです。
どれだけ、大切な人たちが傷つき、傷つけるのが嫌だと口にしようとも私は……。
死にたくないのです……っ!
原作で見たあの子の姉たちのように。
折角生まれ変われたと思ったのに、私はまだ死にたくないのです!
前世よりも、もっともっと生きていたい!!
少女は、時代背景に沿わない、ふかふかのベッドに身を横たえ、静かに涙を流した―――。
* * *
灯りが消された暗い部屋で、こつこつと誰かが足音を立てながら、ベッドの上で眠る少女の傍に立つと、
「……また、泣いているの、お姉様?」
少女の目尻に溜まった涙の雫を唇で掬う。
すると、ふるふると震える少女の睫毛に、部屋の中に入り込んだ者が微かに笑う。
「ふふ。お姉様、可愛い」
そう微笑んだ少女――シンデレラは、おもむろに腰まである豊かな金髪の鬘を取ると、さらさらと零れ落ちる銀糸の髪があらわれた。
それは、肩に付かない程の短さ。
女の子と思われてきたシンデレラだが、今の姿を見れば誰もが男性だと判断出来る美貌だった。
「ねぇ、お姉様。お姉様だけは、生かしてあげる。
だって、僕に優しかったもの。この先ずっと……。ずっと、ここに2人でいよう?」
眠る少女の髪を優しい手つきで梳きながら、恍惚とした笑みを浮かべる。
その笑みは、どことなく昏く、歪んでいた。
「そのためにも、あの2人は邪魔だよね。……早く、なんとかしないと」
少女は、知らない。
少女の現状が変わったことで、この世界は少女の知る“物語”と異なり始めていることを。
そして、少女は気付かない。
少女に悲しい現実が忍び寄っていることを。
少女は、まだ知らない―――。
『逆転・シンデレラ』 了
私がベッドの上で過ごしている内に、皆は舞踏会に行くのです。
そこで王子様とあの子は運命的な出逢いを果たし、私の大好きな物語になるのです。
小さな頃に憧れた、ハッピーエンドに向かって。
そう、ですよね?
とあるラノベを読んだときに「シンデレラ」のことを知りました。
それまでは、可愛らしいお話だと本気で思ってましたねー自分。
ああ、そういえば。
私の中で記憶に新しいのは、小鳥が抉ったシーンですね。やっぱり。
でも、記憶が曖昧だったので、もう一度調べ直したら、原作だとシンデレラが魔女で、その力によって自分の手は汚さず、自滅し合うようにしてしまうという。
恐ろしいですね。ほんと。
これのせいで、シンデレラストーリーって何なんだろう……と思うようになってしまいました。
え?ヒロイン、悪女?みたいな(笑)
ああ、それと。
シンデレラの性別を逆転させたのは、……ぶっちゃけ私の趣味です(爆)
ヤンデレ女装男子×病弱姉とかよくない?と思ったもので。
まぁ、女の子のままでも良かったんですけど、この後ヤンデレを思う存分発揮するなら、男のほうが何かと美味しいかなって。