チートな兄とその恋人。そして、凡庸な私。
キーワード。
(巻き込まれ)異世界トリップ・溺愛・嗜虐心・チート・泣き虫
私。
勇者として召喚された兄のおまけとして、一緒に異世界にトリップしてしまった可哀想な妹。
兄。
私の兄。勇者として召喚されてしまう。恋人の桜と妹を愛している。
恋人・桜さん。
兄の恋人。一人だけ名前がついている。恋人の兄と、その妹を愛している。
姫巫女。
兄を召喚した張本人。気が強い。
護衛たち。
姫巫女の護衛兵。とあることがきっかけで、有能なものたちが職を辞し、勇者の妹にちょっかいをかけるようになる。(ちなみに、姫巫女専属から妹専属に変わっただけです。護衛に間違いない)
勉強が出来て、スポーツ万能。それに加えて整った容姿を持って生まれた兄。
そんな兄に引けを取らない、美人で優しくて聡明な兄の恋人。
そして、そんな二人から可愛がられているのが、妹である私。
『チートな兄とその恋人。そして、凡庸な私。』
何がどうしてこうなったのか。
私の足りない頭じゃ分からなかったけれど、どうやら私の兄は“勇者”として、なんだか神殿っぽいこの場所に召喚されてしまったらしい。
しかも、私と兄の恋人である桜さんをおまけとして。
まぁ、所詮おまけっぽいからね。特に私なんかは。ああ、けど。桜さんは間違ってもおまけじゃないよ?
おまけにしてはオーラが半端ないから。寧ろ主役級。兄が勇者なら、桜さんは“聖女様”って感じだから!って、今は如何に桜さんが素晴らしい人かってことを語っているときじゃないよね。ごめんなさい。反省します。
ええと、気を取り直して。
私たちを召喚したらしい目の前の少女が、護衛である男の人たちを後ろに従えて一歩前に出ると、兄だけを見つめている。
これは、あれだね。私と桜さんの存在を黙殺して、兄しか眼中にないって感じ。なんとも分かりやすい子だ。
まぁ、確かにこう言っちゃブラコンだろお前?とか言われそうだけど、実際私の兄はかっこいい。
中身は色々と残念なところがあるけれど、それをカバーするくらいにはかっこいい外面を持っている。
だから、自分のことを姫巫女と名乗った少女が頬を赤く染めて、兄に色目を使うのは分からないでもないけれど、兄には桜さんという素敵な恋人がいるんだから、早々に諦めて欲しいね。というか、身を引いて欲しい。
なんていうのかな?桜さんには劣るけど、この子もかなり可愛い顔していて目の保養と言えばそうなんだけど……。
なんかね、うん。性格悪そうなんだよねこの子。特に醸し出している雰囲気が。
絶対に相性悪いと思う。私と彼女。といっても、直感だからなんとも言えないんだけどね、とつらつらと考えていたら、なんでそうなったのか分からないけれど、兄に触れようと近づく姫巫女の姿が視界に入ってきた。
あ、それは止めたほうがいい……と思った時には既に手遅れで、
「女っ!!そこから一歩でも近づいてみろ?……殺すぞ」
私の視界だと兄の背中しか見えていないからあれだけど、ドスの聞いた声は兄がブチ切れている証拠で、この状態になると、手が付けられない。
唯一諌められる人がいるんだとすれば、それは恋人である桜さんぐらいだろうけど、桜さん自身もお怒りモードっぽいから、やっぱり誰も止められそうにないかな、これは。
そのせいで今、もの凄くカオス状態。
姫巫女を守るためにいるんだろう男の人たちも一部を除いて兄の気迫に怯んでいるみたいだし、兄に触れようとしたある意味勇者な少女は顔面蒼白……って、これは流石にやばいよね?!
慌てて兄の前に出た私は、
「あ、あの!うちの兄がすみません!いきなり怒鳴ったりなんかして。ええと、その。兄は、桜さん……あーっと。
恋人をそれはもう、これでもかっていうくらい愛してて、だからその。
他の女性に触れられることを極端に嫌っている節がありまして、……だから、んと。
そういった理由から、例え貴女のような可愛らしい人でも兄にとっては、……その、……ええと」
……やばい。つい勢いで前に出てきたものの、今自分が何を言っているのか、何が言いたかったのか分からなくなってきて、頭の中がぐちゃぐちゃというか。頭の中が真っ白というか。
焦りが余計に私の混乱を促し、取り返しのつかないことになってそう……!と、羞恥で心臓がバクバク鳴っているのを聞きながら、尚も言葉を続けようとしたとき、顔を俯かせていた少女から微かな声が聞こえた。
「……さい」
「……え?」
「うるさいと言ったのが聞こえなかったのかしら?その耳は、飾り?」
「……っ」
「何故わたくしよりも容姿の劣る貴女なんかにわたくしが慰められなくてはいけませんの?
馬鹿にしないで頂けます?」
「…ぇ、……ぁ、その……」
そんなつもりじゃなかった。馬鹿にしているつもり、なかった。ただ、フォローしたかっただけで。
怒鳴られて怖い思いをした彼女を少しでもその心を軽くさせる何かが言いたかっただけで、結果的には相手を馬鹿にし、不用意に傷つけてしまった。
……あ、やばい。涙、出そう。
どうにもこうにも私は、私自身に向けられる明らかな敵意とそれに順ずる悪意がたまらなく怖い。
それは、小さな頃から兄や家族、兄の恋人である桜さんに護られてきたが故の弊害。
私は、どうしても他人から与えられるその感情に耐性がなく、ちょっとしたことでも限界を迎えてしまうようになってしまった。
「……ごめ、なさ……」
体の震えが止まらない。か細い声が漏れた瞬間。
後ろにいた兄と桜さんがキれたのが分かったけれど、今の私にはどうすることも出来なかった。
自分のことで精一杯すぎて、止められるわけがなかった。
ぽろぽろと溢れる涙を手で拭いながら、べそべそと泣く私。
そんな私に、姫巫女の後ろに控えていた男たちの嗜虐心を大いに煽り、邪な火を灯らせていたとも知らずに私は泣き続けていた。
そのせいで、この国の男たち―――特に、兄の視線すら物ともしなかった姫巫女の護衛だった彼らに追い詰められていくのは、ほんの少し先のお話。
『チートな兄とその恋人。そして、凡庸な私。』了
なんか、突発的に書きたくなった代物。一応設定としては、三人がトリップした世界では、女性のほとんど気が強い人たちばかり。そんな中、ちょっとしたことで泣く子が現れてみなされ。めちゃんこ可愛くないですか?
嗜虐心煽られません?泣かせてやりてーという気持ちになりませんか?爆