導き出した答えが招く先は
キーワード。
異世界トリップ・救世主・善意・恐怖
私・律。
不運にも召喚されてしまった少女。
葉三柴 花蓮。
律が通う学校のマドンナ的存在。律と一緒に異世界に召喚される。
男の人・ゲイル。
二人を召喚した張本人。
エイダ。
二人に世界を救って欲しいと声をかけた人らしい。職業は神官らしい。
知らない場所。
知らない人たち。
知らない世界。
何もかもが知らないもので埋め尽くされたこの世界で、私たちは懇願された。
この世界を救って欲しいのだと―――。
『導き出した答えが招く先は』
私は、あの日あのとき家にいた。
いた筈だったのに気付いたときには、知らない場所にいた。
あまりにも突然なことに思考が停止する中で、私に懇願する人々。
色とりどりの瞳と髪を併せ持つ人たちに縋る目を向けられたことで私の心が悲鳴をあげたような気がした。
―――分からない!意味が分からない!!何これ?何なの一体!?
そんな私の状態にも気付かない彼らは、救って欲しいと言ってきた。
曰くこの世界には、魔族と呼ばれる化け物たちが跋扈し、無力で脆弱な人間が苦しめられているのだと。
だからこそ、力ある者を召喚しこの世界を救ってもらいたいのだと。
……一体これは、何の悪夢なんだろうか。
夢なら早く覚めて欲しいと、そう思ったときだった。
顔を歪ませる私のすぐ傍で、可愛らしい声が響いたのは。
「任せて下さい!私なんかで良ければ是非皆さんのお役に立ちたいわ」
――彼女の名前は、葉三柴 花蓮。
私が通う学校でマドンナ的立場を確立している人。
ちなみに葉三柴さんと私の接点はない。
だから、彼女のことはよく分からない。
けれど、このとき怖がるわけでもなく、使命感に燃える瞳を宿し、きっぱりと目の前の人たち、――ひいてはこの世界を救いたいと言い切った彼女が、とても恐ろしいものに見えて仕方がなかった。
「……」
一歩、葉三柴さんから身を引いた私を誰一人として見ていない。
先程の発言は勿論のこと、人目を引く彼女の容貌に彼らはまるで聖女を前にしたかのような表情を一様に浮かべている。
なんで、葉三柴さんは彼らを救うなんて即答が出来たんだろう。
彼らの言っていることが真実だというのなら、私たちは彼らに無理矢理召喚されたということ。
同意も何もなく強引に。そんなことをしておいて救えだなんて、そんなのないと思う。
救うって、どうやって?それって戦えってこと?
平和な世界で暮らしている私たちにそれが出来る?何の力もないのに?
それなのに、なんで葉三柴さんは……。
なんで?どうして?
根拠もないのに彼らの言葉を受け入れたの?
私だったら無理だ。
目の前にいる彼らにさえ私なんかが敵うわけないから。
非力な子供で、女である私がどうして成人男性に勝てるというのだろうか?
まともに戦って勝てるわけがない。
何か習っていれば少しは現状が変わっていたかもしれないけれど、所詮それは推測の域でしかない。
今の私は、彼らにとって赤子の手を捻るくらい簡単なこと。
その腰から下げられた剣によって斬り捨てられる。逃げきる前に。
何度想像してみても彼らに斬られ、殺される自分の姿しか頭に浮かんでこない。
そうだというのに魔族というのは、そんな彼らでさえ恐怖し手こずる存在。
しかも話を聞いた限りその数は多いらしい。
そんな現状を聞かされたというのに葉三柴さんはなんで……。
なんで、救うと言ったの?
敵いっこないのに。なのに、なんで……?っ、どうして……!
貴女は死にたいの?それとも本気で救えるって思っているの?
―――こわい。
恐くて堪らない。
この世界を救えと強要してくる彼らもそうだけど、悩むことなく救うことを選んだ葉三柴さんの存在がおそろしてく。
こわくて……。
……っ、いやだ!!
いやだ、こんなところ!
こんなところ、いたくない!
怖い、こわいこわいこわいよ、お母さん……っ!!!!
こみ上げてくる嘔吐感を抑えることが出来なかった私は手で口を押え、葉三柴さんに視線を向けたまま
「……気持ち悪い」
そう、呟いていた。
「同感だな」
「っ!?」
いつの間にか私の横にいた男の存在に目を見開いて驚く私を一瞥した彼は、微かに口角を上げた。
「エイダ!そこの奴はいらん。還すからどけ!!」
男の人がそう言うと、それまで葉三柴さんの周りを囲んでいた人たちが一斉に彼女から離れ出した。
全員がある程度離れたとき、葉三柴さんの足下で淡く光り出した何か。
それが何なのか私には分からなかったけれど、綺麗な紋様が幾重にも張り巡らされ、大きな円の中に綺麗に収まっているそれが葉三柴さんの体を覆い尽くす。
葉三柴さんがこっちに視線を向け何か叫んでいるようだけれど、その声は聞こえなくて。
淡い光がひときわ輝きを放ったのと同時に光が霧散する。
その光景は、とても幻想的で美しかった。
あまりの美しさに見惚れていた私は、気付いていなかった。
光が消えたのと同時に葉三柴さんの存在がいなくなっていたことに。
未だ惚けている私の頤を掴まれ、強引に方向を曲げられた先に猛禽類のような視線と絡み合う。
「ようこそ俺たちの世界へ。歓迎するぜ俺の律」
にたりと嗤った男の人から向けられる鋭い眼光の中に垣間見えた愉しそうな気配。
恐怖で体が硬直した私に男の人は目を細め、まるで小動物を愛でるかのように、さらりと頤を掴んでいたその手で私の顔に触れていく。
皮膚と皮膚とが触れ合う感触に鳥肌が立ちそうだった。
「まぁ、そんな怖がるなや。……といっても無理か。そうだよな。怖いよな、律?」
知らない間に流れていた涙を柔らかい何かで拭われたとき、私の心は既に限界を迎えていて、男の人の前で意識を手放していた。
『導き出した答えが招く先は』 了
ここから先は、律が知りえない真実の扉。
・律を召喚した世界では召喚術を行った後、対象物を元の世界、元の場所に戻すことが可能である。
ただし、戻す戻さないを決めるのは、召喚した本人が決める。
大概は物なので還すことは少ない。
(盗んでいることに変わりないのだが、彼らに罪の意識はない。よって処罰されることはないのである)
・律たちを召喚した理由は、暇だったから。
救って欲しいというのは、でっち上げた嘘。
では、なぜそんな面倒なことをしたのか。
律たちを呼び寄せた国において絶対的な支配者であるゲイル。
(ゲイルは、厳密に言うと本名ではない。彼には真名があり、その真名が他人に知られるとその相手に自分の全てを縛られることになる。なので、人々には名前が二つ存在する)
ゲイルは一つだけ異世界から召喚することにした。だが、召喚されたのは二人。
二つだと条件から外れるため、一つは残してもう一つを還さなくてはいけない。
そうでないと、術は発動したままゲイルの体から魔力が流れ続けることになる。
だからこそ彼女たちが目を覚ます前に芝居を打つことにした。
どちらをこの世界に残すか決めるために。
そのため、同盟関係である魔族の話を振り、様子を見ることにした。
召喚された二人は、見るからに脆弱どころか魔力の気配すらない。
この世界の人々よりもはるかに劣る二人の内一人の人間はこう言った。
任せて下さいと。その瞬間、ゲイルの中で還す者が決まる。
何の力もないくせに救うとのたまったこの女は、馬鹿か。それとも善人か。
はたまた頭のイカレタ殺人狂か。
どちらにせよ、善人であり善人ではない女。そんな存在はいらない。
最悪、力でも持てば人々を救うという名目の下、多くの血を流すことすら厭わない人間の部類だろうとそう思った。
何せ、そこにあるのは善意だけだからだ。
そんな人間がこの世界に残ることのほうが厄介というもの。
そう自分の中で答えをはじき出したゲイルは、厄介だと思った方を元の世界に還す。
その結果、帰りたいと強く願っていた律がこの世界に留められることになった。
しかも、召喚術が無事行われたとき、召喚者に対象物の真名が分かるため、ゲイルに真名を知られてしまったことで、彼に逆らうことが出来なくなる。
それを知らされたときの泣きそうな表情で顔を歪ませた律が「なんで……?」と呟いた姿は、とても愛おしいものだったと後のゲイルは語る。
この段階では、ゲイルに律を想う心はなく、ただその姿に興味を抱いただけ。
その後、独占したいという欲求が膨らみ、やがてそれが妄執じみた恋へと変わるのはもう少し先の話。
異世界にきた瞬間、救って欲しいと懇願する人々。
その内容にすぐ承諾した存在に気持ち悪いと言わせたかっただけです(爆)
付け加えると、そんな主人公に同意する召喚した側の人間というのが読んでみたいな~と思って。
いや、うん。だって怖くないですか?使命感に燃える前に自分死ぬんじゃね?って思いませんか。
力がないってことは自分がよく分かっている筈なのに、よいしょされて救えるような気分に陥る。
よくよく考えれば救えるだけの力も覚悟もないのにだ。
それなのに救います!って、ただの死にたがり?それとも殺したいだけ?
けど、自分が死ぬだなんてこれっぽっちも思っていなさそうだから、後者だと思われそう。
そんな存在は怖いとも思うし、異常者なんじゃないかとさえ思う。
もしここに力なんて物騒なモノが備わっていたら余計に怖い。
自分は正しい。これは、皆を救うためだと。
善意のようでいて善意ではないモノ。
それは、恐怖の対象になりそうかな?と思えたので、こういう話を書いてみることにしました。
けど、いいのにまとまりきれていないような。
自分の考えを文章でまとめようとするのは、本当に難しいですね。
伝えきれていないような気がして。