兄という男は。
キーワード。
近親相姦・変態・執着・下品
私・妹。
兄に変態的な意味合いで愛されている、ある意味可哀想な子。
兄。
妹が生まれた時から、妹のことが好き。
妹にしか欲情しないし、妹だけ“女”だと認識出来る。
私には、実の兄がいる。
美しい母によく似た、これまた綺麗な兄。
兄は、中学の頃はそこまで身長もなかったことに加えて、童顔だったこともあって、まるで天使のようだと周りから持て囃されていた。
その兄も成長期を迎え、美しい青年となった頃。
兄は進学した高校で、アイドルと化していた。
そんな兄の性格は、一言でいうと温和。
誰にでも優しく、尚且つ頭脳明晰。運動神経抜群。
非の打ちどころのない兄は、ある意味最強で、異性は勿論のこと同性からの人気も凄まじかった。
それが、兄という人物を客観的に捉えた全て。
実に、周りにその好青年っぷりを発揮していることがよく分かる。
けれど、実の妹である私の前では――――。
『兄という男は。』
綺麗な母と兄は、近所でも有名な存在だった。
年を感じさせない母は、兄の横を並ぶだけで、たちまちお似合いのカップルへと変わる。
本当に、娘の私から見てもこの二人は絵になるのだ。
その点、この美しい母から生まれた私は、母に似ることなく平凡な容姿をした父とよく似ていた。
……別に、父と似ていることが嫌だとかそういうことが言いたいわけじゃない。
所々母に通ずるところがあるから、大好きな二人の容姿を引き継いでいる自分の顔が何気に好きだったりする。
……って、ちょっと恥ずかしいかな、この台詞は。
けど、そう思うからこそ私は、兄のように美しい容姿で生まれてこなかったことに卑下したいとは思わない。
でも、周りの人間は違う。隠しようのない悪意を向けてくることがある。
そのせいで、小さい頃は傷つくこともあったけれど、他人がどうこう言おうが、私達が家族であることに変わりはない。
それに母も父も、兄と私を平等に愛してくれている。
そのことを私自身が分かっていれば、周りの声に耳を傾けることもない。
……あ、そうだ。平等に愛していると言ったけれど、多分私のほうが甘やかされているような気がする。
多分それは、私が女で、妹という立場がそうさせてくれているのかもしれない。
兄よりも甘やかされて育った私。
けど、兄はそのことについて不満を口にしたことはない。
それどころか、両親以上の愛を注いでくれる。……まぁ、ちょっと異常過ぎる程に。
兄の話が出てきたところで、もう少しこの人について掘り下げてみようと思う。
兄は、冒頭でも語ったように容姿端麗・頭脳明晰・スポーツ万能の、まるで神々に愛されるためだけに生まれてきたかのような寵児だと、周囲はそう騒ぐ。
まぁ、何をやらせても人並み以上の成果を叩き出すし、性格もいいとくれば、他人から悪感情が向けられることも少ない。
とはいえ、小説でもありがちだけど、この手の人間には何かしらの秘密があるのが王道だ。
兄の場合は、相当なシスコンだってこと。
妹の私がこういうのもあれだけど、妹である私に異常なまでに執着しているような気がする。
そのせいでまともに彼女が出来た試しがない。
大体は、セフレ以上恋人未満。
それもこれも兄が、変態的な意味合いで私を愛しているから。
といっても、そういった一面を見せるようになったのは、数年前からだったと思う。
それまでの兄は、私にそんな態度を一切見せることはなかった。
それどころか、優しく、私を甘やかしてくれる兄。そんな兄が本当に大好きだった。
私と兄の関係が大きく変わったのは、私がまだ中学二年生だった頃。
あの日は真夏日で、私は、キャミソールに短パンというなんとも女らしからぬ姿で、エアコンのきいた部屋のソファでまったりと寛いでいた。
ひじ掛けに顎をのせ、甘く冷たいアイスを堪能していたとき、私の前にニコニコと、世の娘さん方が一瞬にして惚れてしまいそうな甘い笑みが向けられていた。
言わずもがな。私の視線に合わせるようにしゃがみ込む兄の姿。
当時の私は、何故兄がこんなにも嬉しそうにしていたのか、全く分からなかった。
だから私は、兄の真意を探ろうともせずに話しかける。
“どうしたの、兄さん。兄さんもアイス、食べたかった?”
“ん?……そう、だね。俺もアイス食べたかったかな?だから、少しだけ俺にも頂戴?”
そう言いながら兄は、手に持っていた食べかけのアイスをその舌で舐めとり、口に含む。
私の返事を待たないで食べちゃうなんて、そんなに食べたかったのかなアイス……と、 そう思っていたら、みるみるうちにアイスはなくなっていき、最後には木の棒しか残らなくなってしまった。
一口だけだと思っていたのに、気付けば全部食べられてしまっていたアイス。
最後の一本だったのに……と恨みがましく兄を睨んでいたら、そっと、棒を掴んでいた手がゆっくりと兄の手によって外されて行く。
今思えば、あのときから何かがおかしかった。
まるで恋人を相手にするように、私の手を滑るように触れて行った兄の指。
不必要な触れ合い。
私の手から離れたアイスの棒は、兄の手によってごみ箱へと向かう。
ごみを捨てた兄が再び私の視線の前に戻ってきて、最初は私の髪を撫で、それからゆっくりと顔の輪郭をなぞる様に触れて行く。
“ふふっ。君は本当に可愛いね。君の顔を見ているだけで、俺。何回でもイっちゃえそうだよ”
親指が唇に触れ、下唇をなぞる。
“え?いっちゃうって……?”
……あのときの私は、保健体育の勉強で性への知識を表面的に知っていても、“イっちゃう”だとか、そういうことを言われてもピンとこないような、まだまだ清らかな人間だった。
――そう、もう一度言うようだけど、あの当時の私は、まだ純真だったのだ。
……私の問いに、更に甘ったるく、妖艶な笑みを深めた兄は、あろうことかカチャカチャと音を立てて、何かを始めようとしていた。
“兄さん?!ちょっ、……ちょっと、何やってんの!?”
“ん?何って……ナニ?“
何故か人の目の前でズボンを下ろそうとしている兄の奇行に戸惑いを隠せなかった私は、必死に兄の動く腕を止めることで精一杯だった。
あのときは、あれで止めてくれたけど……。
もうちょっと詳しく言うと、必死になって兄の行動を阻止していたら、「焦らしているの?」と、何故か頬を赤らめていた兄。あの後のことは、思い出したくない。
けど、今思えば、あの頃の兄はまだ可愛らしいものだった。
あれ以来兄の奇行は、年々悪化の一途を辿っている。
それに比例するように私の知識も増えていき、当時の兄の言っていた“イく”だとか、“ナニ”などの言葉の意味もちゃんと分かっている。
分かれば分かるほど、私の抵抗も大きくなっていくわけだけども、その状況ごと楽しんでしまっている兄は、行動・言動諸共エスカレートさせて行く。
私としても抵抗するからダメなのだと、一時は学習して実践してみたのだが、危うく自慰行為を見せつけられるどころか、手伝われそうなところ一歩手前までいってしまったことがあって、無視することも抵抗することも、結局兄を煽るだけでしかないと、そう悟った。
あれ以来、兄曰く性欲処理だけに使っていた女性との付き合いを全て切り、私だけに執着するようになった。
けれど、兄は巧妙に周りからその行動を隠し続けている。
だから、学校の友達からは「ああいう人がお兄ちゃんってだけで、嬉しいでしょ?」とか「羨ましいな、あんたのお兄さん。うちの兄貴と交換して欲しいくらいだよ」とか、色々と言われるけど、あくまでも兄は“妹の私が好きなシスコンっ気のある兄”程度の認識。誰も兄の本性を知らない。
本当に、妹にだけ欲情する兄とか、一体何なんだろうか。
兄の傍に居て心休まるどころか、貞操の危機を感じてしまうなんて、本当にあり得ない。
……あぁ、兄さん。貴方に早く恋人が出来ることを、心の底から願うよ。
『兄という男は。』了
何故、最初の話にこれを選んだのか……orz