199話 ツバウとロギス(前編)/200話 ツバウとロギス(後編)/201話 意外なヴァイト(タイトル改変)
戦いから4日後
キャニーの村では徐々に医療設備が整っていた。
当初は住民の反対も懸念されていたがジ.エンドとスペリアルを退けたチルドレン達は英雄扱いされ、多くの人々に歓迎された。
ヴィディ[意外じゃったな。第2のグラジュアリと化す可能性もあるだろうに]
ソル[希望なんですよチルドレンは。正確には意思の集めかたが上手いんじゃないですか? 私もこの口に乗った1人ですから]
ヴィディ[お主もよくやっとるよ。よく仕切っておる]
ソル[いえ....恐縮です]
全身に包帯を巻いたサイオウがブラックに寄りかかっていた。
サイオウ[すまんブラック.....ウィザを救ってやれなかった俺は]
ブラック(お前が気にやむ事はない。何も出来なかったのは俺の方だ)
ブラックは失明し、声帯が傷つき、グリコーゲン砲を撃てなくなっていた。
サイオウ(カーレント、俺一人ではもう無理だ.....突っぱねたいところだがな)
サイオウは寂しい目をし、寄りかかりながらしゃがんでいく。
ブラック(マレー.....もう私に出来ることは何もない。もう約たたずの爬虫類だよ私は)
ブラックは自身に軽蔑を向けた。
マレーはライライとミス.ヘラニーと話していた。
ライライ[多分ハフ化じゃろうな]
ミス.ヘラニー[私も同意見です]
マレー[....ハフ化?]
ライライ[現象としては説明がつくが、詳しい事は....]
ミス.ヘラニー[マレー様の肉体が元に戻ろうとしたのです。急激な変化についていけなかったのでしょう]
マレー[で、でも何故その様なことが]
ライライ[ウィザ君の念が何かしらの理由で暴走したと考えるのが妥当じゃが....]
マレー[!!]
ミス.ヘラニー[老師]
ライライ[す、すまんマレー君。あくまでも可能性としてだね....]
マレー[分かっています。逆に捉えればウィザが生きている可能性が高いという事でしょう? 必ず見つかりますよ....!]
マレーのキツイ目付きにライライは黙る。
マレー(そう、俺の心はまだ高揚している.....生きてるって、感じるんだ!!)
N.ジェイ達は設備の調整に勤しんでいた。
N.ジェイ[エミィ、それここ置いといて。先にあっち....]
サイオウが来る。
N.ジェイ[....あ、うん、それ]
N.ジェイは他の現場に回る。
サイオウ[.......エミィ、お]
エミィはサイオウに元気に振り向く。
エミィ[大丈夫サイオウ様! アイツの事だからきっとやることやっていったろうし]
サイオウ[.......エミィ!]
サイオウはエミィを抱き寄せる。
エミィ[あっ....]
サイオウ[ロストーレは俺の命の恩人だ。だからアイツのぶんまで俺は戦い続ける!]
エミィ[.....はい、サイオウ様]
陰でワーチが観ていた。
ワーチ(不器用なおっさんだなあ。もっと言い方ってもんが)
アロー[おいワーチ]
ワーチ[うあ!]
ワーチはアローの口を押さえしゃがみこむ。
ワーチ[お前には空気を読むというのが無いのか?]
アロー[?.....とにかくこんどこそ答えてもらうぞ、ツバウの事を]
ワーチ[あ、ああ、ツバウね....]
2人は広場に出る。
ワーチ[ツバウっていうのはね、ドラッキー博士の娘なんだ]
アロー[娘?]
ワーチ[戦争に巻き込まれて死んだらしいよ。それ以来博士は矛盾するような事を始めたんだ]
アロー[強力な軍備体制をとっての外交的解決ってやつか?]
ワーチ[面白い言い回ししなくていいよ。博士にとってはカレコシアだろうがミラだろうがアルフォリアだろうがどこの国が勝っても良かったのさ。むしろ色々な人種の人間を集めて完璧なる兵器の創造に傾倒していた。それで結成されたのがあたしらロギスなんだ]
アロー[お前ら、ロギスっていうのか?]
ワーチ[なんか昔のおとぎ話の中でそういう名前の樹が出てきたそうだけど、じいさんの考えることにしちゃあ洒落てるよね。まあそれは置いといて....博士には目的があったんだ。それがプロジェクト.フェニックス。ツバウ自身の脳を移植した機体を作り上げること]
アロー[何の為に?]
ワーチ[何の為にってあんた、自分の娘を復活させる為でしょ。決まってるじゃん]
アロー[ああ、だからフェニックス、か。確かに洒落てるな]
ワーチ[飛行能力も緊急退避システムも全てツバウの第2の人生を守る為に作られたんだろうね]
アロー[死んだ脳を移植っていうのも随分な挑戦だな]
ワーチの顔つきが変わった。
ワーチ[俺たちの手におえるものじゃなかった]
アロー[...........]
ワーチ[ツバウ自身で稼働するはずだったんだけど、失敗に終わった。それでパイロットの脳波でツバウの人工脳を補って稼働する形に留まったんだ]
アロー[デューティーシステムか。でも俺がグラヂュアリで気を失っている間随分派手に暴れたそうだが]
ワーチ[パイロットの気が失われた時、パイロットとツバウが逆になる。ツバウがあんたの脳を使って全権を握るんだ]
アロー[....その、なんだ、危険な事なんじゃないかそれは]
ワーチ[コードを内部、もしくは外部から入力しない限り発動しないから大丈夫。理論上は、ね]
アロー(いや、そうじゃなくてだな)
ワーチ[ブラッディーという兵器...というかシステムが積んであるの]
アロー[なんだそれは]
ワーチ[設計者じゃないし、私たちは途中から入った組だから詳しくは分からないけど、燃料に磁気分子を結合させて辺りに撒き散らすみたいね]
アロー[.....強力そうだな]
ワーチ[分解して調べたいくらいよ。戦艦一隻くらいなら簡単に沈められるでしょうね。ま、あんたが拝むことはないけどね]
アロー[そう思うんなら俺でも使えるようにしろよな。それとなワーチ、こいつに乗ってるときに俺は色々と不思議な....]
ソルが来る。
ワーチ[!!]
ソル[あ~....その....仲間の事、あんまり落ち込むなよ。俺でよければ相談にも乗るし....な]
ソルは立ち去る。
アロー[おい、それでな]
ワーチは顔を赤らめてソルの後をついていく。
アロー(.....すっかりズイーブの事は落ち着いたらしいな。まあ、良かったかな)
アローは笑みを浮かべる。
ナナンは小屋で1人思いふけっていた。
ヴァイト[よう]
ヴァイトが入ってくる。
ナナン[あ、お疲れ様です]
ナナンは立ち上がる。
ヴァイト[いいよ軍じゃあるまいし。座れよ]
2人は座る。
ナナン[...........]
ヴァイト[.....ウィークスを、知ってるんだってな]
ナナン[えっ]
ヴァイト[昔アルフォリアにいた頃、俺と同じ隊にいたんだ。新兵としてな]
ナナン[そ...そうだったんですか....]
ヴァイト[俺とウィークスを残して隊は全滅した。カレコシアにな]
ナナン[.......]
ヴァイト[おっと勘違いすんなよ? 別にそれはそれで、な.....戦争してたしな。だが当時は俺は精神を病んだんだ]
ナナン[ヴァイトさんがですか....あ、すいません!]
ヴァイト[全くさ、人殺しにかけちゃエキスパートの俺がね。だが結構苦しかったぜ。毎日毎日停止した頭と眠れねえ夜。今でもそれを思い出せてるのか自信がねえほどにな。でもよ]
ヴァイトの顔つきが変わる。
ヴァイト[ウィークスがリンゴを持ってきたんだよ。なにいってたかは覚えてねーが、皮を剥いて食べさせてくれたよ。今思い返せばだが....リンゴが僅かに光ってたのを覚えてる]
ナナン[.....N.ストリーム]
ヴァイト[もしくは優しさによる俺の錯覚だ。それから毎日リンゴを食べた。そしていつも思ったよ、ああ....もう少し生きてみよう、ってな。前線に復帰できたのは最近だ]
ナナン[.....そうですか。でも何故そんな話を私に?]
ヴァイト[第一に、俺はウィークスが死んだとは思ってねえ]
ナナン[!]
ヴァイト[パオライアンの事は残念だったが、ウィークスに関してはとても死んだ気がしねえーんだ。とてもな]
ナナン[.........]
ヴァイト[そして第二にお前は生きてるってことだ]
ナナンの額をつつく。
ナナン[は、はい...]
ヴァイト[かつての3つどもえの戦いから数えると死者は万を超えてる。誰からも愛されずに死んだものが万とな。それをよく]
ヴァイトは自分の胸を叩く。
ヴァイト[覚えておくんだ]
ナナン[....そうですね、了解しました]
ヴァイト[そして第三に]
ヴァイトはナナンの背中を叩く。
ヴァイト[次の指令は今日にでも降りるかもしれんっつーことだ。よくゆっくり休んどけよ]
ヴァイトは出ていく。
ナナン[了解...です(意外...だな)]
ナナンは少し暖かい気持ちになった。
アローの元へエックスが来る。
エックス[恩に着るアロー、こいつを運んでもらって]
エックスは手でエメラルドドライブを持っている。
アロー[チルドレンのように自由自在に着脱とはいかないか]
エックス[それを補っても余りあるシロモノだ。礼を言うよ]
アロー[ジ.アイとの約束だ。綺麗な花火も観れたしな....いや、まともな光の方だぜ? で....本物のご先祖と相対した感想は?]
エックス[...言いにくいが、戦うというレベルに至っていない。シールドにはなれるが刃が足りなすぎる。現状も、チルドレン....カーレントだったか、そいつも行方不明。サイオウも....そうだな。悪いがジ.アイに対しては有効な働きかけが出来んだろう。次にジ.アイが襲ってきたら、俺に出来るのは皆を逃がしてやるくらいだな]