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自衛隊 番外

極めて短い。そして間隔が遅い。

 敵う者か。彼女の手のひらの上で、俺は今でもダンスをしているんだ。彼女の思うがままに人形となって。

 自分の死まで目的達成のカードにするような彼女に。敵うはずが無いのだ。

 未だ甘ったれの俺には、彼女の糸はまだ見えない。



 昔から何を考えているのかよく分からない人だったと記憶している。いつもニコニコ笑っていて、その裏では何か企んでいる。陸自の幹部候補生に志願したのも、後方職で安定を享受しようとまるで自衛官らしからぬ考えだったのに、彼女のせいで普通科への才能を見出され普通科へ。その時、自分は幹部候補生学校の過程を難なくこなしてしまったという自分の不幸、いやそもそも自衛官になろうとした過ちを自覚せずにいられなかった。


 「甘ったれないで下さいね、貴方方には一人前の「人殺し」になって貰わないといけませんから」


 そう候補生の前で平然と言い放った彼女の言葉は、とんでもなく強烈だった。

 彼女の家系は祖父も父親も軍人。まるで軍人になることを義務付けられていた彼女と、安定した暮らしを求める自分との間では、そもそも見ている景色が違ったのだろう。


 候補生学校を卒業した自衛官は、まず普通科連隊に配属され教育を受け、そしてその後各職種の部隊に配属される。そして教育の過程内には「それ」との戦闘を模したシュミレーションが行われる。

 その理由は極めて簡単だ。「それ」の行動は年々パターンを増している。そして数年前、航空自衛隊の峰岡山のレーダーサイトが襲撃された。元々多くの被害を受けていた市街地や、戦闘によりそれなりの被害を受ける陸上自衛隊だけでなく、直接有効的な装備を持たない後方が脅かされ始めたのである。

 つまり、今後諜報に特化した「それ」の個体が出現した時、最悪の事態が起こりえることが容易に予想されたのだ。現代の軍隊は大抵そうだが、自衛隊の1個師団のうち戦闘を行う部隊は半分にも満たない。そしてそこに被害を受ければ?自衛隊の出動が事前に察知されれば?自衛隊は基本的に兵站部分において国内のみの展開、それも米軍との共同作戦を前提としており、決して優れているとは言えない。そして、自衛官といえど日本国民だ。被害が広がれば、自衛隊の機能に支障をきたすと共に、国民の不安、批判が高まりかねない。

 そうやって雁字搦めにされたところに一撃を受ければ、自衛隊は麻痺する。しかしだ。これ自体は前々から言われてきたのだ。少なくともそれに対処が必要だとする意見も以前から存在して居たと言う。

 だが、そこには当然予算の壁、国民の壁、未だ根強い平和団体や、「アジアの平和」と叫ぶ隣国の壁。 兵站部分が大規模に強化されれば、それはただ大規模な戦闘が可能になるというだけではなく、それの機動的な活用、つまり国外での運用ということも当然可能になっていく。これまで自衛隊が奇襲攻撃などを中心にやってきたのは、犠牲を少なくし、一回の戦闘で終結させ、兵站に負担を与えないという事情もあった。だがそれ故に部隊の運用には慎重な決定を必要としていた。この長い時間のせいで数度ではあるがこれを察知され反撃された例も存在する。

 積極的な運用が可能になればそれが解決し、早い対応、早い攻撃が可能になるのだ。

 といってもこれは全て計画内の話で、精々機密保全の強化と内閣情報調査室と防衛省情報本部間等との連携の強化が行われたに過ぎない。

 

 しかしどのように戦術、組織が進歩しようとも後方部隊が狙われる可能性というのは当然残っていて、それに最低限対応できるようにならなければいけないのだ。そして普通科部隊というと当然前線部隊。一番この能力が求められるというわけだ。

 そして普通科になろうとも彼女はついて来た。丁度教官の間でも異動があったようで、彼女と俺の異動先は同じだったのだ。

 そして、その先は熊本。自分の故郷だった。


 熊本などを管轄する第8師団は、地元出身者が多いことで有名だった。南西諸島に接し離島が非常に多いため、「それ」の対応よりも離島での有事での即応に重きを置いていた。

 「それ」は福岡等の大きな都市に集中しているようで、熊本や鹿児島への出現例は多くは無かった。

 そんな中、「それ」が出現したのは熊本に戻ってから1年が経とうとしていた頃だった。

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