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 子供のテレビ番組に出てきそうな存在、そんな風貌をしていた。黒々とした戦闘服らしきものを身に纏った人間らしき物たち。その中心にいるのは、動物のような頭をした異形。そうじゃないのもいるそうだが。

 俺が出会ってしまったそれらがテレビ等の報道機関で報道される事は無いのだ。理由は極めて簡単。それがあんまりにも多すぎて、日常と化しつつあるからだ。



 それとこそあど言葉で呼ばれる存在が出現し始めたのは、今から約35年前。黒いタイツを纏った戦闘員と呼ばれる種、何らかの動物、機械の形をした異形と呼ばれる種、それらを統括する首領と呼ばれる種。主にその三種で構成される謎の組織。それは人間から変化する。この場合、変身と言う方が正しいのではないかとも思えるが。


 少なくとも、それらの組織は滅ぼしても滅ぼしても新たに出現する。まるで台所のみならず部屋中を動き回る黒光りするGの如く。その戦闘力は、少なくとも警察の機動隊程度では相手にならない。

 正義の味方なんて便利な組織なんて現れる事は無い。それに対抗するのは、他でもない自衛隊だった。


 自衛隊等の運営に使用される国家予算の内の防衛費。太平洋戦争に敗戦し、憲法九条の元日本は国を守り抜くための牙を抜かれ、自衛隊と言うまやかしの軍隊だけが創設された。自衛隊はその凄惨な太平洋戦争の為、日陰者として扱われた。自衛隊員の子供が教師の中傷に遭ったり、それが元でいじめが発生したり。少なくとも、その立場は変わらないように見えた。あの時までは。


 1977年6月23日。東京都心、大阪に初めて出現したそれは、東京と大阪に大きな被害をもたらした。戦闘員や異形によって市民は文字通り虐殺され、爆発により建物は崩れ落ちる。警察は応戦する。しかしニューナンブは役に立たず、警察官もいつしか追われる側となっていた。ここで自衛隊が無断であっても出動しなければ、約3000人いた死者、その数倍の負傷者はどのくらい増えていたか想像もつかない。

 「6.23事変」と名づけられたそれは、テロ組織による犯行として政府は発表した。国内のみならず世界を震撼させたこの事件は、人々の記憶に大きく刻まれる事となる。同時に政府は水面下でテロを実行した組織について調査を進めた。その結果、政府は次の結論を出す事となる。「組織はかなりの軍事力、科学力を持ち、警察での対処はまず不可能。諜報チームの強化や、防衛庁を省に格上げし、対処チームを結成する」

 その結果、この年から防衛費は大幅に増額される。全ては国家を守るために。目標を定めた中央の官僚達の行動は実に早く、兵力増強、兵器の開発、交戦規定の大幅な緩和とそのための法の改正。この背景には脅威を増すソ連、中国への対処という側面もあった事は言うまでもない。


 長い間磨かれてきた自衛隊はその力を大きく発揮する。しかし調査が進むうちに驚愕の事実が発覚する。それは、悪の組織は複数存在するという事実。「6.23」を起こした組織は、その中の一つに過ぎないということ。終わり無い戦いを意味したそれ。しかし彼らは諦めるわけには行かなかった。彼らの双肩には両手両足ではとても数えられないような命が懸かっているからだ。


 その成果が現れたのは「6.23」の4年後。「6.23」を起こした組織等数個の組織の基地に仕掛けられた同時攻撃。出来るだけ殺害せず、捕獲する。それを基本とした作戦は成功を収めた。結果は、複数の組織の首領を殺害、または捕獲。それに使われていた技術の接収に成功。まさに大戦果であった。

 しかしそれで戦いが終わることは無い。一つ倒せばまた一つ現れる。まるでいたちごっこだった。その過程でソ連の崩壊、バブルとその崩壊に伴う不況、中国の発展があった。日本も憲法九条を改正し、自衛隊を強化していく。自衛隊、特に陸自は豊富な実戦経験により、市街地戦闘ではトップレベルの錬度を誇るようになる。諜報でその力を磨いてきた内閣情報調査室も強化され、その力は海外にも向けられるようになる。イラク戦争への派兵や、PKO活動が有名だろう。

 そして今でも自衛隊は、国家とそこに住まいし国民を守るために日夜戦っているのだ。



 「結局何が言いたいんだ」


 図書室、眼前には古くからの旧友がいる、この場合、付いて来たとも言えるが。腕に抱えるのは「自衛隊の全て」と書かれた本。彼女は疑問に思ったのか、そんな問いを返す。目がジトッとしている。そんな彼女に俺はこう返した。


 「いやさぁ、昨日「それ」に遭遇しちゃってさあ……んで、何と無く興味を持ったんだよね」


 あれは確か帰り道だったはずだ。部活で空が薄暗くなる頃、学校から少し距離が離れた家まで帰る途中に、俺は「それ」に遭遇した。

 ライオンの頭をした、気味の悪い異形と呼ばれる者。約十人程度の黒いタイツに包まれた戦闘員達。そしてそれに立ち向かう自衛隊の普通科の中隊を。


 「だから調べたと。全く、気になったものはすぐに調べると言うのはいいが、それを学習に生かせ」


 彼女はその答えに呆れた目をして、俺に痛烈な一撃をお見舞いした。確かに普段俺は定期考査で学業優秀なこいつのお世話になっていると言う事は否めないだろう。そこまで言うかなんて言えなかった。さもなければ俺は目前に控える彼女の助けを受けることができなくなる。


 「お前は自衛隊にでも入る気か?訓練は厳しいし、耐えられるのか?」


 彼女はこう続ける。古くから付き合ってきた、所謂幼馴染とも言える仲ではあるが、彼女は何故か俺に執着している様な気がする。昔中学で別の高校に進学すると俺が言った時、彼女は強引にそこより偏差値の高いこの高校に受験させた。いや、させられたと言うべきだ。


 「大丈夫だよ。お前の我侭よりはマシだから。」


 そう毒を吐いた。うんざりしていたのかも知れない。いつも自分に構ってくる彼女に。いつもそんなことを言っていたけれど、彼女はいつもより数割増で悲痛な顔をする。例えるならば、飼い主がいなくなるときの子犬の顔のような。


 「だから、入るのか?それとも……大学とか、行くのか?」


 いつの間にか彼女が泣きそうなことに気がついた。凛々しい顔が崩れて、目がうるうるしている。でも、そんな顔をされたとしても、自分の答えは決まっている。それを曲げるわけには行かない。


 「入るかもな。いつまでもお前に頼っちゃおけないし、一人になりたいし、何より……」


 「これ以上はいい!」


 ギュッと抱きしめられる。彼女が泣いている事に気がついた。泣き声が聞こえる。彼女は弱弱しく見えた。まるで普段の様子が嘘であるのかのように。

 昔、俺の両親は、「それ」に殺された。この国に巣食っている組織の中の一つに。目の前で。科学者だった父を狙ってのことだったらしい。だから。復讐がしたい。彼女とはその以前からの知り合いだった。けど、今のようにくっつく様になったのは、その時からだ。その理由を、まだ俺は訊けずにいた。


 二学期。生徒の進路もほぼ決まってきて、それに進んでいる頃。俺は、泣く幼馴染を残して、「それ」と戦う自衛官の道を選んだ。

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