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誕生

「ヴァンパイアは、世界を救うに違いない」 01話



「おっそ~~~いなぁ~~~もうっ」


夏休み前で静かすぎる大学食堂だった。愚痴を小声で言っても大声になる。


ショートカットの毛先をイジっている神野ジンノ瞳は、イスに座っていた。6ヵ所ある食堂の出入口をそれぞれ「まだか、まだかと」イスの上で体をくるくると回し続け、見回すしかなかった。


「待ちぼうけかい」

「えっ」どこからか近くで声はしたものの、瞳はイスから立ち上がって辺りを探しても誰もいない。

空耳か怪異か。


目の前にあるテーブルから、にゅっと突然顔が出てきた。

頬を釣り上げニヤついた顔をした太めの食堂のおばちゃんだった。

「わゎっ」

瞳は座っていたイスからすべって、地面に尻持ちをした。

「もうビックリするじゃない」

「ここの汚れガムかしら、取れないのよね片思いは」


 おばちゃんはテーブルに置いてある誰も食べないかけうどんに、ちらと目を向けた。瞳は片思いではありませんと返答もしたくもないので、ふくれっ面でイスに座り直した。

 瞳は腰を擦りながら、そのおばちゃんを睨みつけようとした。おばちゃんは、いらやしい目線だけを残してテーブルからそそくさと離れていった。瞳は考えたあげく、もう少し待つことにした。



 かけうどんの主は、瞳の彼。彼の名は美馬ミマ涼。

同じ学年同じ学科で、付き合って半年が経つ。


 美馬君がトイレに行くと言って作り笑顔じゃない微笑みを見せて食堂を出ていったのは、20分前の事。

それにしても瞳が何か不安気にしていると気遣いばかりしてくれる美馬君が、連絡して来ないっておかしい。

何か急な用事が出来たのか、壁にぶつかって気絶中、あるいは歩けない状況なのか。女性に告白されている最中、はたまた単純にトイレが長いだけかも知れない。便秘になってトイレから出られないというルートも考えられる。


 もちろん瞳は、彼に電話とメールをしたが返答はない。


もうしばらく待っていいのか、美馬君を探しに行くのか瞳は迷っていた。もう少ししたら彼が戻ってくるかも知れない。誰でも人が突然いなくなれば心配をするのが当たり前だが、瞳の場合は違っていた。


 人が離れるのは、人に裏切られた時。人に騙される材料になる時。嘘をつかれ疎遠になる。ほったらかされる。飽きられる。

 信用って言葉はこの世にはない。友達から明日はテストだよと言われても、もう1人誰かにテストの日を教えてもらいやっとそこで瞳は、言葉通りの確信を得るのだ。普通の人であれば1人誰かに聞けばそれで信じる。そんな性格だから表裏のない性格の人に魅力を感じる。そう美馬君がそうであったのだ。


 「あーぁ、フラれたのかな」呆れたため息をつきながらテーブルにあった唐辛子を、汁が見えなくなるまで隙間なく埋めていった。


 瞳は美馬君を探そうとイスから立ち上がった。その時彼が座るはずであるイスの脚元に、キラッと光る小さなものがあった。それはプラスチックの薬シートであった。まだ半分のこっていた。手に取ると側面に何か小さな文字が書いてある。美馬君の名前がローマ字で印字されていた。

「何か薬飲んでいるのかな、普通薬シートにはそんな名前って書いてないよね、変ね」

渡さないといけないと思って、ジーパンのポッケに入れる。

テーブルに唐辛子だらけになった、うどんをそのまま残して食堂を後にした。



 小走りで駆ける瞳は、数多くある講義教室で美馬の姿を探した。

「いない」「いない、どこ?」「いない」

あちこち走り回って、はぁはぁと息を切らす瞳。「どこ、どこなの、どこ行ったのよ」


 <え~っ、校内におられる生徒の呼び出しをします。

法学部2年の神野瞳さん、おられましたら研究棟B-102までお越しくださいとの伝言を預かっております。以上です>


 「えっ何、今の放送、誰からなの?」

何も悪い事はしていない瞳は、「これはイタズラなの」首をかしげた。美馬君を探す事で頭がいっぱいで、放送なんて考えている場合ではない。「どうしよう」いっそ何も考えたくない。あせりを感じ、瞳の額からはどっと汗が流れてきた。でも何も手がかりはない。


 瞳は美馬の友人に電話した。居場所を知らないと突き放された。「あぁもう」美馬君からの連絡はない。「あとは男子便所ぐらいか」便所の前で瞳は、チラチラと男性の顔を見ながら「違う、違う、いない、どこ」


 研究棟まで行ってみる価値はあるが、一人では不安だ。そこで瞳は友達に電話し、研究棟の前まで来てもらった。


 「ごめんねクルミ、こんな事付き合わせちゃって」

「私も協力するにゃ、このクルミに任せにゃ、でも変な放送ですにゃ、それは」


 背が低く見た目は幼い顔でツインテールしている仙堂クルミちゃん、フリフリの衣装を着飾っていつもコスプレ風でツインテールを結んでいるゴムはお気に入りのコウモリを型どったものである。


 瞳は自分の服を見て対照的だなクルミとは、平凡なTシャツの重ね着にジーパンとスニーカー。クルミはいざという時に役に立つ。なんてったって交流している人の多い事多い事、何か問題が起きればネットを介して解決するという探偵ばりの同じ学部の女子。唯一の友人。瞳は強力な助っ人に頼ろうと少し元気になった。


 やっとの事で探しだした目の前の古ぼけた建物は、あちこちの表面に亀裂が入っている。それが研究棟B棟であった。

瞳とクルミは、お互いの顔を見合わせて「いくよ」と建物への扉を開けた。

クルミは堂々としたもので、瞳の前をリズミカルに歌いながら大手を振って進んでいった。


 B―102部屋の前。何のためらいもせずに、クルミはドアをノックした。部屋に入った途端に薬品の匂いが体中にまとわりついた。瞳はこの匂いが嫌いである、病院を思い出す。いくら器具などを消毒するのに使用しているのは理解しているがどうも匂い的にもっとアロマ系に変えれないものだろうか。



 「どうぞ」と部屋の奥から声がしたので、2人はおそるおそる中へ入った。出迎えてくれたのは、背の高い細身でメガネをかけた白衣の男性であった。メガネの男性はウソくさいにこやかな顔をほころばせて迎えてくれた。瞳はちらと部屋の奥を覗くと、何人かの白衣を着た人達がいた。


 「お待ちしておりました神野さん、お連れの方はどなたですか?」

 「あぁ、友達です。連れて来て大丈夫でしたか?」


 「えぇ、あなたが構わないのなら」

最後の言葉だけ声のトーンが違ったように聞こえた。「えっ」何、構わないってどういう事、何の話と瞳はあたふたして大きな目を見開いた。


 「どうぞ、こちらへ」メガネの男性は部屋の隅にあるイスを指差し、2人を案内した。

どこかで見た顔だなと瞳はマジマジと男性の顔を覗きこんだ。一方クルミは話を避けてくれているのかスマホを取り出しゲームをし始めた。

「どうも、美馬の友人、小口です、久しぶりですね神野さん」

「あぁ、どうりで見たことがあると思った」前に2回程会った事のある美馬の幼馴染だった。

先程の冷たい言葉とは裏腹に、やさしい言葉を投げかけてくる小口。


「安心して下さい、美馬なら大丈夫です。ウチで保護しています。校庭で倒れていたので、連れて来たのですよ」

「そうだったのですか、てっきり」

「てっきり?」

「いえ、何でも」よかったフラれたのではなかったと瞳は安心した。美馬君が倒れたって貧血なのか。大学には保健室があればそこに連れていくのでは、それほどひどい状況ではないのかもと瞳の顔がほころんだ。


 「今から大事な話をします、落ち着いて聞いてくださいね。DEAD CLOCKってご存知ですか?」

 「ええ、知っています。全世界ストレス死による影響で、設置されたネット上の人類生存数の事ですよね。」


 何で今その話題をするのだろうか、この人は。そのぐらいしか知らない瞳は、それが真実の事なのか分からずじまいだった。


「そうそ、ヤバイにゃ。初めは誰かがイタズラに設置されたものだったと思われているにゃ。その発端はアメリカでストレスを抑制させる薬が効かなくなった所から始まったにゃ」

「そうなんだ、そこからストレスを持っている人は薬を頼れなくって、精神崩壊して多くの人が死んでいっているんだ」

 ゲームをしていたと思われたクルミは、さすがに色んな事に詳しく話に割り込んできた。


 「でも薬が効かないからって多量摂取すれば、体に影響してしまう。これが問題なんだ。効かない薬のかわりにドラッグを摂取したがる人も増えてしまって、ストレス死にはすぐにはならないがドラッグ中毒に大勢なってしまっているのが現状だ。」


 「何も解決出来ないのかな?」瞳は今の現状に身震いをした。


 「その薬は今までは効いていたのに、効かなくなるのに何か原因があるんじゃないかと探ってみたんだ。すると月から発せられる効力が弱くなってきた事が判明した。確かに地球と月との距離が離れていっている。それにより人間の治癒する力、つまり抑制する力も低下したのではないかという見解なんだ」

「すごいにゃ、月って生命とやっぱり関係あったんだにゃ」


 「月と血液も関係があるとも言われている。満月の時には出生率も高くて薬も効きやすいとも」

「月をどうする事も出来ないしにゃ」

「では人間の生命の源である血液をどうにかするしか方法はない。では血液を活性化させればいいのではないかという話も各国で研究している所なんだ。ウチでもその研究をしていて美馬君にも手伝ってもらっているんだ」


「えっ」

何も聞かされていない瞳は困惑していた。どうして何も話してくれなかったのだろうか。

「彼女の誕生日プレゼントを買いたいって喜んでバイトしてましたから、あっごめんいらない事言ってしまった、彼から黙っててって言われてたんだっけ。聞かなかった事にしてね」

「きゃっ愛されてますにゃ」




「キャーーー」

耳の奥まで音が残るほどの、どこからかの女性の声。


クルミは窓まで一目散に飛んでいった。

瞳はクルミが通り過ぎた風を頬に受けた。その後誰も通っていないのに、なぜか頬に風を感じた。


悲鳴があった女性の声元は大学の校庭。

どこからともなく全身黒ずくめの人らしきもの。背中には大きな翼を広げ威圧して、周りにいる大学生は散々に逃げた。その黒い人モドキはグンとスピードを上げ、ひとりの女性の手を掴んだ。


黒い人モドキは女性の首をめがけて噛み付きかけた、その時。

ぐへっ、その黒い人モドキの動きが止まった。背中から何かが刺さっている黒い人モドキの心臓あたりに棒のようなものが。女性から手を離し、黒い人モドキは血を口からも体中からもドロドロと地面に吐き出し崩れ落ちた。刺さったものは、木の枝であった。






隣の部屋からバンと強い音がして、ドアが開かれた。そこには美馬がいた。


人を睨みつける目つきで充血していた。

美馬はゆっくりと瞳に近づいてきた。瞳はこんな怖い表情をした美馬は今まで見た事がなかった。

「美馬くん?」

彼はすばやく瞳の腕を強く掴んで、引き寄せた。


「まずい」

小口は2人の間に入り込んだ。美馬から瞳の腕を力強く振りほどき、体を突き飛ばした。

「今は悪の力が働いているのだ。彼は今何をしでかすか分からん」

その言葉と同時に小口は、美馬からの裏拳をくらった。「ぐへっ」足への蹴りも入った。

小口はすかさず白衣のポケットから細長いものを取り出し、それを彼の腕に差した。

そうすると、俊敏に動いていた美馬の動きが止まった。

そして彼は人形が押されたかのように後ろの壁へ倒れた。


「鎮静剤さ、これで落ち着く半日は眠っているだろう」

「何なのこれ、本当に美馬くんなの?」




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