No,8
狭いコートで野球と同じくらいのサイズのボールを相手コートに撃ち込む。テニスを一言で言えばこうだ。一見、簡単に見えるスポーツだが、案外奥が深い。ラケットを振るうフォームをきちんとしないと上手く力が込められず、遥か彼方まで飛んでいってしまう。
そして、ドライブやスライスなどの回転のかけ方により、打ったボールの軌道が変わったりするのも醍醐味の一つだ。
こちらへ来たボールを打ち返す。俺の場合は、一度後方に下がり、ボールをしっかりと見て、前へ上がりながらドライブ(順回転する球)重視の打球を打つ。
「ナイスボール!!」
翔汰とラリーを続けながら、俺は考えていた。
アヤノの夢。
あれは何なのだろう。鮮明な夢らしく、妙に不気味だ。
一度考えたことは頭から離れないので、常に考えてしまう。なんだよこの体質。
登場するのは、アヤノと謎の男。それも、妙に聞き覚えのある声をした男だ。
二人は、《何か》を追いかけていた。それはとても素早く、簡単には捕まえることができないもの。
む。もしかすると、それは目では見えないものなのでは……? 例えば《言葉》、《行動》のような、実態のないものかもしれない。
だとすれば面倒なことだ。それはアヤノに訊かねばわからないことだ。
「何、考えてんだ…よっ!」
ラリーを続けていた翔太が、的確なコースを狙い、鋭い決め玉を放った。考え事をしていた俺は当然ながら反応に遅れ、取りそこねる。
「へへん。気を剃らしてるからだよ!」
チッ、何故か無性に腹がたつ。まぁ、こいつに構っても仕方がない。まあ朝練中に考え事をしていた俺が悪いのだが。
残り20分、俺は朝練に集中することにした。
「ええっと、それはね、地面を這ったり宙に浮いたりして逃げて、黒くなったり白くなったりするんだよ」
時刻は飛んで昼休み。俺はアヤノの夢をまだ知りきれていないのではと思い、アヤノに尋ねた。案の定、詳細に語ってくれと言うと、俺が知らなかった詳しい情報がいくつも出てきやがる。
これでは推理のしょうがない。俺が頼まれたのは、アヤノの夢の正体を突き止めること。
あいつはもう三度も同じ夢を見て、リアルな夢を見ているようで気持ちが悪いそうだ。状況の打破をするには、夢をアヤノ自身が理解することだ。
「じゃあ、男はどんなやつだ?」
「………何度考えても、霧がかかってるようで、上手く思い出せないよ」
チッ。
二度目の舌打ちだ。
今度は心の中で。
やはりそこはわからないか。案外簡単じゃないな。
まぁ、夢の正体なんてファンタジーじみた実態のないものを突き止めるなんて、一筋縄ではいくわけない。根拠となるものをアヤノに示さないと終わらないな。
「そんなメリットのないことをよくするよな~」
いつの間にか俺のとなりにいた翔太が言った。
って、おい……!?
「何でお前がいるんだ!?」
「何であんたがいるの?」
俺とアヤノの声が交わる。翔太は事情をしっているかもしれない。いや、絶対聞いていただろ。
「盗み聞きと言いたいのか? チッ、チッ。俺は初めからいたのさ。正々堂々と聞いていたのさ! 俺に罪はない!」
「関係ない」
俺は軽くゴッと翔太の頭に拳を当てる。
「いてっ!」
「開き直ってんじゃねぇよ」
「お前ら面白いことし過ぎだろ。俺を蚊帳の外にしやがって!」
笑いながら翔太が言った。こいつはいちいち何故か腹がたつ。まぁ、翔太とは付き合いは長いので、いい加減なれてきた。
「もういいから! 真剣なんだよぉ!」
確かに真剣な話を濁してくるこいつは外敵だ。アヤノの言っていることは正しい。だが俺は、違うことを思い付いた。
俺は意を決し、アヤノにそっと耳打ちする。
「こいつにも何か手伝わせたらどうだ? 事情は全部言わなくてもいい」
こうすれば俺の仕事が減る。何のメリットもないことをするだけに、協力者の存在はありがたい。
……ん?
そういえば、なぜ俺はこんなことをしているんだろう。
二日前だったかな。……だめだ、思い出せない。
「へぇー。で、俺はどうすればいいんだ?」
事情を少しだけ聞いた翔太が言った。
なぜか面倒くさそうにアヤノが返す。
「考えればいいんだよ」
「思いついたことを俺に報告してくれ。あとは俺が考える」
言ってはいないが、答えが見えてきた気がした。
あとはきっかけさえあれば……




