No,4
「翔太の観察」
ホコリまみれの箱を睨めつけている誠次を横目で見ながら、俺は楽しんでいた。テスト期間中とは言え勉強ばっかりではうんざりだ。……こういうことがあるので生徒会に入ってよかった。
「翔太、この棒はどこに運ぶんだ?」
不意に誠次が俺に訊いてきた。そう、俺の役職は「体育委員長」で、ほとんど体育倉庫であるこの大倉庫の整理を最初に頼まれたのはこの俺だ!!……補佐の柴崎がサッカー部に出ているので、この三人も呼んだ。
「体育祭の「棒引き」で使うから、そっちの端に並べておいてくれ」
「あいよ」
そう言いながら、誠次は棒を運んでいく。結構な重さがあるので、それなりに身長の高い誠次も一本ずつ運んで行っている。その姿を眼で追いながら、俺がボールのカゴを移動させようと手を掛けた時、一人の人影が誠次に近づいていくのが見えた。九条アヤノだ。
「あの話か?」
聞き耳を立てているわけじゃないけど、(実は若干たてているが)なんか変わった話をしているのはさっきからわかっていた。少なくとも仕事の話ではないだろう。「夢が……」とか言っていたのでますます気になった。────この学校生活において、夢の話を真剣にしているのなど見たことがなかった。
「しばらく一人で考えていたんだけど、どうもあれがだれで何をしていたのを解き明かさないと気分が悪いの。本気で協力してくれない?」
誠次は「は!?」というわかりやすい表情で硬直していた。俺はこみ上げてくる笑いを本気で抑えながら、今の状況を理解した。───つまりアヤノは「自分が気分悪いから一緒に考えて」と言っているのだ。自己中心的で、誠次には何の得もない。
「お前自分が何を言っているのかわかってるのか!?」
「え?」
だ、ダメだ、このままだと笑いが漏れてしまう。……どうやら本気でアヤノは自分が自己中発言をしたことに気づいてないらしい。誠次は呆れたと言わんばかりにアヤノの肩に手を置くと、
「適当に頑張らせてもらうよ」
俺はひとまず少し距離を置くことにした。笑いが漏れて変な空気になっても嫌だし、ずっと聞き耳を立てていては仕事がはかどらない。「何それ!?」と言っているアヤノを無視して通り過ぎていく誠次を見た後、俺は段ボールの山を見上げる結城のほうへ行くことにした。
「体育祭までにこの段ボールの中身を確認しないといけないんだよね?」
見上げていた結城は、俺の気配を感じたのか訊いてきた。段ボールの数はおよそ12箱と言ったところか。二列に壁にもたれかかせるように積み上げられている。
「よくぞ委員長に聞いてくれました!…そうです!確認して処分するものがないか確かめるんだ!」
威張るように言うと、結城は苦笑いだ。なんだよ、すべったみたいじゃん。……あ、すべったのか。軽く気を落としていると、大方向こうは片付いたのか、誠次が段ボールを降ろした。
「……思い切りすべったな」
ボソッとあいつは呟く。おい!聞こえてんぞ!
黙々とダンボールを床に並べ、結城と俺が開けていく。中には玉入れの玉、応援用具、メガホンセットなど先代が几帳面にまとめておいてくれたものがあった。
「全然まとまってるじゃん」
少し笑いながら河内が言った。他の箱も全て開けてみると、どれも体育祭で使う小物が几帳面に整理してまとめられており、処分のするものなど、全くなかった。先代の委員長に感謝していると、誠次が後ろを凝視していた。箱の周りにいない人物が何をしているのか見ていたのであった。俺と結城も誠次が見ているほうを見る。
────アヤノは壁に立てかけられているセーフティマットにけりを何度も叩き込んでいた。
そう、何度も。
かつてないほどの爆笑が込み上げてきているが、ここは誠次のツッコミに任せようと俺は抑え込む。隣では結城もこらえていた。
セーフティマットというのは、主に高跳びなどの着地地点に置く分厚いマットで、決して蹴りを放つためのマットではない。断じて!
「お前何してんの……?」
冷静に、誠次は友人のおかしな行動に突っ込んだ。そういわれた彼女は三人の視線に気づき、ほほを赤らめ言い訳をした。というより理由を説明した?
「……いやぁ、私に眠る格闘の血が……ね?」
「嘘をつけ。お前と格闘には縁もゆかりもないくせして。……今どき幼稚園児もそんなことしないぞ?」
止めを刺されたといわんばかりにアヤノはしゃがみ込むと、甘えた顔で河内を見た。察するに、「フォローしてよ。」の眼だ。しかし、三歳児以下の彼女の行動に結城はフォローしない。
「ま、もう仕事終わったから、好きに遊んでればどうですか?賢い賢い九条さん」
盛大な嫌味を込めて誠次は言った。性格が悪スギル。あいつはとても楽しそうに扉のほうへ歩いていく。その背中はなんとも〝してやった感〟に満ちていた。
「うぅ……」
と完敗だ。その時、俺はあることに気づいた。今にも誠次は大倉庫を出ようとしている。俺が言おうとした瞬間、結城に先を越された。
「え、須藤……仕事終わってないけど?」
その言葉を言い放った瞬間、二人の人間の立場が逆転した。両者ビクッと体を揺らし、こちらを振り向く。誠次はうつむき加減に、アヤノは勝機あり!と。
「ウソだろ…!?俺の………」
そう言いかけたところで彼は口を閉じた。言うに言えないのだ。おそらく、「俺のきまったのが台無しじゃないか……。」みたいな感じで言おうと思ったのだろう。そしてたたみかけるように、
「嫌味連発してた人はどこに行ったのかな~?仕事終わってないし~」
アヤノは復活した。先ほどの失態を忘れたかのように、誠次に反撃を開始した!
「お前が変なことしてるから勘違いしたんだろうがぁ!」
いや、人のせいにするのかよ!
「私は変なことなんかしてません~、稽古をしていたんですぅ~」
稽古って……格闘技してないだろ!
心の中で突っ込みまくっていると、一つの言葉が浮かんできた。
───ケンカするほど仲がいい。
あいつらを現すにはこの一言で十分だ。




