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No,1

   




「アヤノの夢。」


 十一月にしては寒すぎる風に目を覚ましたのか、少女、九条アヤノはベッドから降りた。起床時間までまだ三十分もある。アヤノは窓を覗き込んだ。窓の外では昇ったばかりの太陽が道を弱々しく照らしていた。

 まだ起きたばかりなので頭は冷めていなかったのにもかかわらず、アヤノは携帯を手に取った。無意識にメールが来ていないか確認したのである。


「やっぱり、きてないか……。」


 思わずため息を漏らしてしまう。携帯机の上に置き、しばらくボォーとしていると、目が覚めて冷静になったアヤノは思った。あれ?よく考えればあいつって、携帯持って無いじゃん、と。

 アヤノのこのような行動を指せたのは、ここ数日不思議な夢を見ていたからである。

─────ひどくリアルな、そして少し不気味な雰囲気を漂わさせる夢を。


 アヤノは、そこにいた。周囲一帯晴れ渡る青空。そして、その太陽の光を浴び煌びやかに輝く草花の中に。

アヤノはあるものを追いかけていた。───捕まえるために。

 動物的とも形容すべき地面を駆け回るものを追いかけていたのだ。しかし、アヤノはこの大自然の中一人で追いかけていたのではない。


「アヤノ、裏に回ってくれ!俺が追い込む!」


 透き通る特徴的な男の美声が草原に響き渡る。彼は《あれ》のほうへ目をやると、勢いよく駆け出していく。その背中に、アヤノは答えた。


「わかった!回り込む!」


 アヤノは、二人で追いかけていた。《あれ》が逃げたであろう方向に回り込むべくアヤノは急いで走った。現実なら、苦しく面倒くさいはずであるこの追いかけをアヤノは一度も面倒くさいとは思わず、全く苦にならなかった。それは、その男が妙に聞き覚えのある声をしていたことと、アヤノの心をなぜだか掻き立てることだったことが理由だった。

 しかし、回り込んだが《あれ》は捕まえられず、夢の中に夜が訪れてしまった。夢の中で夜が訪れること自体が、アヤノにとって初めての体験だった。そして、夜、彼はアヤノに一つの提案をした。


「ここからは、二手に分かれよう。俺は洞窟を抜けて追い込んでいくから。君は安全な道を探していってくれ。」


アヤノは、賛同することにした。

夢の中なので、流れに任せたほうが得策だと考えていた。

所詮夢の中。この時点でのアヤノはそう考えていた。

しかし、しばらくしてこの考えは変わることになる。たかが夢・・じゃない、と。

二手にわかれる直前に、彼はこう言い残していった。


「朝になったら、メールをしておく。目が覚めたら携帯を確認しておいてくれ。じゃあ、お互い無事であるように。」


 アヤノは体中携帯を探したが、全く見つからなかった。

アヤノはこのことを知らせようと話しかけたが、


「わたし今携帯持って・・・・・」


夢は、ここで途切れた。

 



 目が覚めると、男の顔だけが霧がかかったように思い出せず、その次の夜も同じ夢を見、また同じところで途切れた。何度も同じ夢を見ているうちに、アヤノは理解してきた。

 これはただの夢ではない、と。

 身支度を整えたアヤノはカーディガンの上からブレザーを着て、マフラーを首に巻いた。

 ここ数年、寒くなるのが早くなっている気がする。

 靴を履き、アヤノはドアノブに手を掛けた。

 後ろで母親が「いってらっしゃい」と言っているのが聞こえたがあえて無視する。

 家族との関係はあまり良好ではない。

 マンションのロビーを出ると、アヤノに厳しい寒さが押し寄せた。

 寒さに耐えながら、アヤノは夢のことを考えていた。

 夢の中に出てくる聞き覚えのある声を持った男。

 何度も思い浮かべても、霧がかかったように浮かばない。

 いったいあの男は誰なんだろう?

 それが気になり過ぎて、後ろから声を掛けられていることに気づけなかった。


「…アヤノ!聞こえてんの?おはよう。」


 後ろから声をかけてきたのは、小学校からの友達である、結城真紀であった。

 彼女も、アヤノと同じく「風宮中学校 生徒会」の一員であった。


「おはよう、真紀。ゴメン、考え事してたんだ」


 アヤノが真面目な顔でそういうと、真紀は少し笑った。


「アヤノが考え事?じゃあ今日は雨が降りそうだね」


 アヤノは聞き捨てならないといわんばかりに「どういう意味?」と聞き返したが、真紀は笑ってはぐらかした。そんなこんなしているうちに校門が見えてきた。





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