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天使の言い分  作者: ろく
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第八話

 理絵はおれの事を気にかけるみたいに、飯を食いながらたまにこっちをちらっと見てくる。

 や、ほんと気にしてないから。んな気に病まなくて良いから。まあ、全く気にしてないっつったら嘘になるけど。

「……美味しい。洋平くん料理上手だね」

「そりゃどうも」

 お気に召して頂けたなら何よりです。

つかこんな簡単すぎるもん褒められたら、何となく申し訳なくなるな。もっと良いもん作ってやりゃ良かった。

「あ」

 ふいに驚いた声を出す理絵に、おれは首を傾げた。理絵は机の下をごそごそ漁る。

「ピアス発見。洋平くんの……じゃ、ないね」

 机の下から拾い上げたピアスを片手に、理絵はおれの耳元を見た。おれは穴開けてない。

「一基くんも……開いてないよね」

 理絵は手のひらのピアスを眺めながら、気まずそうに言った。一基も穴開いてない。

「……これ、もしかして……」

「あー……、お察しの通りですよ」

 おれは理絵の手からピアスを取って、ピアスを蛍光灯の光にかざし見た。

 佳代のピアスだ。小さい、何かの鳥を模したシルバーピアス。いつからここに有ったのか知らないけど。そういやピアス無くしたって言ってたっけね。

「…………ごめん」

「や、良いって。わざとやってるんだったら怒るけど違うだろ」

 おれはピアスを脇に置いて、気まずい空気を誤魔化すみたいにチャーハンを口に運んだ。理絵はしょぼくれて小さくなってる。

 何か変なの。自分の事天使とか言って、見ず知らずの男の家転がり込んで、んで生活乱しまくりのくせに、そういう事は気にするんだ? 空気読むとこ間違ってね?

 と思ったら、ついつい吹き出してしまった。不思議そうな顔をする理絵に「何でも無い」と言って、手をはたはたさせる。

 最後の一口を飲み込んで、お茶で流し込む。やっぱ夏は麦茶に限るね。

 おっさんさながら一息ついたら、急に口寂しくなった。百均で買った灰皿を引き寄せる。

「煙草吸って良い?」

「あ、どうぞ」

 何か微妙に理絵が他人行儀っぽいのがおかしい。おれは笑いつつ煙草を咥え、ジッポで火をつけた。

 しかし何で食後は煙草が恋しくなるのかね。あと寝起き。ヘビースモーカーってわけでもないけど、食後と寝起きは吸わんと落ち着かない。

 煙を吐き出して、おれは無意味にジッポの蓋をカチカチさせた。

 実はこれ、佳代が誕生日にくれたやつなわけである。デザインは気に入ってるんだけど、別れたとなるといきなり手に馴染まない感じがする。

 やっぱ、これはもう使えないよな。物は大事にする性分なんで捨てるっていう選択肢は無いけどさ。お蔵入りにしちゃおうか。返すのも変な話だし。

 ピアスは……、どうしようかね。こっちは顔合わした時に返そうか。気に入ってたっぽいし。

 あー……でも顔会わしづらい……。でも会わんわけにもいかんしなあ……。

「バイト行きたくねー……」

「バイト?」

「そー……。おれ昼間は一基ん家でバイトしてんだけどさ、夜は居酒屋でバイトしてんの。で、そいつの持ち主もそこでバイトしてんの」

 そいつ、とピアスを指差してからピアスをポケットに仕舞った。

「んで、今日夕方からおれも佳代もシフト入ってんの……」

 付き合い始めは、バイト先一緒っての超テンション上がったんだけどね……。何だ、こう、すれ違い様にチラッと見合ったりしてウフフってなったりさ。

 でも別れたとなると、一気にテンションだだ下がりですよ。すれ違い様ギクシャクする事間違いなしだよ。

 けども休むとか辞めるとかは絶対無理だし。だってリーダーだし。『アルバイト先ではリーダーを任されております。責任感や、人を纏める事の難しさや大切さを学びました』的な事を就活で言っちゃうくらいだし。

 んでその後『じゃあ君はリーダーやってなかったら責任感は身につかなかったってわけだね』とか言われて、おっさん爆発しろって思うわけだ。おれの重箱の隅はそんなに美味しいですかー。

 つか、何か最近ほんとしんどい事多い気がする。内定出ないし(おれの所為だけど)フラれるし(おれの所為なんだろうけど)一基は隠し事してるっぽいし(おれの所為ではないと思いたい)自称天使は転がりこんでくるし(おれの所為ではないだろ)。

 良い子っぽいんだけどね、理絵。好みだし。

 けど厄介ってのには変わりない。どうすりゃ帰ってくれますか。一発やってハイおれもう幸せです、っつったら帰ってくれますか。

 いやいやそりゃダメでしょ。一瞬実行してやろうかと思った自分が嫌だ。

「ごちそうさまでした」

「いーえー」

 ぺち、と理絵が手を合わせる。おれは煙草の火を消し、皿を持って台所に移動した。洗った皿を拭いて棚に戻す。

 そしてドアに手をかけたおれを見て、理絵は驚いた顔で立ち上がった。

「え? どこ行くの?」

「久保家。昼からシフト入ってんもん」

「え、え、でもまだお昼まで時間あるよ」

「だってお前と一緒にいたら犯されそうな気がする」

「……そんな事しないもん」

「その間は何だ」

 どことなくばつの悪そうな顔をする理絵に手を振り、おれはドアを閉めた。

 次に家戻った時にはいなくなってますように、とか考えながら久保家を目指す。あー、でも多分いなくなってないだろうなあ。多分っつか絶対。勘だけど。

 ……あ、エロ本持って出てくんの忘れた。青少年の教育に相応しくない。ごめんなさいPTA。ん? 謝る先PTAで良いのか? 分からん。

 でもまあとにかく夜居酒屋に移動する前に回収するので許して下さい、どっかの偉い人。


 あーあ、憂鬱。

 寺内洋平は憂鬱です。



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