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天使の言い分  作者: ろく
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第七話

 さて、どうしようかね。どうやったらこの子は帰ってくれんだろ。

 昨日は疲れてすぐ寝ちゃったし、対策とか全く考えてない。起きてからも、ろくに考えてない。てか、考えるのを放棄してたっつーか。

 だって自分が天使とか言い出す相手に、何て言ったら効果的とか考えても無駄な気がする。帰らせる方法考える、と昨日一基に言ったは良いけどさ。

 とりあえず、おれは側にこちゃっと転がってるセーラー服の上に手を伸ばした。

 皺を伸ばし、畳んでやる。んー、スカートはどうすっかね。……まあ良いや、そこまで綺麗に綺麗に、って考える必要も無いっしょ。

 結局適当に畳んで、セーラーの上の上に重ねておいた。ついでにリボンと靴下も。

 うーん。携帯とか生徒手帳とか理絵の何かしらが分かるサムシングをもしかしたら持ってるかもって思ったんだけど、無し。

 残念、て思うのと同時に安心した。どっかに電話されて怖い人がいっぱい、っていう恐ろしい事にはならんでも良さそうだ。

 理絵が今現在持ってる、って事もないだろうしなあ。だって、ついさっきまでシャツ一枚で寝てたんだし。

「……意外」

「何が」

「家庭的ね」

「んー……。家庭的かどうかは知らんけど、まあ、家事はそこそこできるよ」

「ふうん……」

 昔っからほぼ一人暮らしだったしさ。何せ母さんはろくすっぽ家にいない人だったし、父さんは仕事忙しかったから。まあ父さんが必死で働いてくれてた(る)おかげで、大学(しかも私立。国公立いける頭は無い)までいけてるんだし今は恨んじゃいないよ。

 ……って、家の事考えたら何かHP吸い取られる。何でって、内定貰えてないからですよ。

「あっ、そうだ。ねえねえ」

 理絵はベッドの上から、おれの肩を掴んで揺すってきた。

「何」

「ご飯作ってほしいな。お腹すいちゃった」

「……お前ね」

 おれは振り返って、じっとりした視線を理絵に送る。

「おれを幸せにしてくれるんじゃないのかよ」

 そのくせこき使うってどういう事。

「だから、それは童貞捨てさせてあげるって」

「却下」

「何で? 私処女だよ?」

「……おー……、そうですか……」

 何、最近の十代ってこんなにあけすけっつーか、おっぴろげっつーかなの?

「男の人って処女が好きなんでしょ? もうやっちゃった子は中古っていうんでしょ?」

「……いやいや」

「そのくせ、未経験だとそれはそれで馬鹿にするのよね。不思議」

 と、理絵は人差指をぴんと立てて唇に添えた。仕草はあどけなくて可愛いのに、言ってる事がセクシャル(っつーかハラスメント)で何かちぐはぐ。

「話ずれちゃった。ねえ、何で却下?」

「何でっつわれてもね。まあ、理絵が何者かよく分からんしお前の事よく知らんし。あとは、……何だ、愛の無いセックスはお断りです。勃つけどさ」

「じゃあ、わたしの事は今からよく知ってくれれば良いし、今から愛を育めば良いよ」

「んな長いこと、ここ置いとくつもりはねえよ。できりゃ早く出てってくれるのが、おれは一番幸せになれるんだけど」

「……それは……」

 無理、と一転しょぼくれた声で理絵は呟いた。うおお……やめてくれ、そのしょんぼりモード。何かすげえ悪い事してる気分になる。

 まあとりあえずメシ作ってやるか。しょんぼりモードな理絵から遠ざかりたかったってのもあるけど、おれは立ち上がって冷蔵庫を漁った。

 どうすっかね。チャーハンとかで良いんだろうか。……うん、そうしよう。冷ご飯余ってるし。

 材料手にして、台所(って言うのもおこがましいような広さだけど)に向かう。途中何となく視界に入った洗面所には、新しい歯ブラシが並んでいた。理絵が出したんだろう。同棲みてえ、と思ったおれはとことんアホだ。

 卵といてご飯いれて、適当に味付けする。具は切るのめんどいから無しで良いや。文句は言わせん。作ってやるだけありがたいと思え。

「どれくらいで出来る?」

「すぐ出来るから大人しく待ってろよ」

「んー……」

 フライパンにマーガリン塗って飯粒を炒める。あ、良い匂い。おれも腹減ってきたや。

 何か理絵がごそごそしてる気配がするけど、まあ良いや。見られて困るもんは特に無い。パソコンにゃロックかけてるし。

「……『嫌だって? 嘘吐くなよ。さっきまでキツキツだったのに、もうこんなトロトロになってんだぜ? ほーら言ってみろよ、私のえろいメスマ

「らめえええええええ!!」

 有ったよ見られちゃ困るもん!

 おれはすっとんでいって理絵の手から漫画を奪った。おれの慌てっぷりに、理絵はそりゃもう楽しそうにきゃらきゃらと笑っている。

「あははっ、わたしにもそういう事して良いんだよ?」

「しません! 二次エロは二次元だからこそ良いのであって、三次元に二次的なエロスは求めていません!」

「火、つけっぱなしだよ」

 うお、やっべえ!

「……っ良いか、おれのベッドの下は聖域だ! 絶対漁んな!」

「ベタな場所だね」

「うっさい!」

 とりあえず火つけっぱだったらやばいので、台所まで戻る。もちろんエロ漫画は玄関口に持ってって理絵から遠ざけておいた。

 ちょっと焦げた飯粒をかきまぜつつ、おれはちらちらと理絵の様子を窺った。今のところは大人しくベッドでごろごろしている。

 ほんともう、何なんだろうこいつ。可能なら早く帰ってほしい。おれの平穏な日常を返してほしい。

 でも帰れっつったら、またしょんぼりされるんだろうな。それは避けたい。女の涙はあんま見たくありません。

「ねえねえ」

「……んだよ」

 今度は何だ。頼むから大人しくしてろ、いや、してて下さい。

「洋平くんってさ、実はやっぱり彼女いるの?」

「……いねえよ、別れたばっか。つか何で」

「香水、あるから。洋平くん自分じゃそういうの買わなさそうなのに」

 目ざといね、お前。つか何気に失礼な事言わなかった? まあ良いけど。

「ああ、それな。誕生日に一基がくれたんだよ」

「ふうん……」

 けどあんまし使ってない。ごめん一基。

 だってさあ、一基みたいな男前が香水使ってるとかだったらしっくりくるよ? けどおれみたいなのが香水とか、何か、こう、気恥ずかしいっつーか照れくさいっつーか。

 ほら、あれだ。本屋でおしゃれ雑誌買う時に店員に『何こいつ、こんなの着る気なの? これ着たらモテるとか思ってんの? 馬鹿なの?』とか思われてそうで何か怖い、みたいなそんな気分になるあの感じに似てるかもしれない。

 や、まあ被害妄想なんだろうけど。誰もそこまでおれの事気にしちゃいないって分かってんだけど、ついつい卑屈になっちまうもんなんですよ。

「……とりあえず、何ていうか、……ごめんね」

「何が」

「フラれたばっかりって、さっき」

「……ああ。別に、気にしてないよ」

 空気が一気に重苦しい。何か気の利いた感じに盛り上げられりゃ良いんだけど、咄嗟にそんなの思いつかない。

 どうしたもんかねとか考えてるうちにチャーハンは出来上がった。皿に盛って、机の上に置いてやる。ついでに冷蔵庫から茶も出して、コップと一緒に置いてやる。

「……いただきます」

「ん。どうぞ」

 そしてしばし無言。二人してただ黙々と食う。

 うおお空気重い……。



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