表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天使の言い分  作者: ろく
6/20

第六話


 で、次の日の朝。

 おれは自宅のドアの前に立ち尽くし、ドアノブに手をかけては離すを繰り返していた。

 や、だってさ、これでもし鍵がかかってたら部屋には理絵がいるって話じゃん? 女の子だし、もし居るならあの後ちゃんと鍵閉めてるでしょ。

 おれとしては、閉まっててくれてない方が良いってわけで。開いてて、なおかつ理絵がどっかいってる、ってのが理想なわけで。

 もっかいドアノブを握る。さて、どうしましょうかね。回すべきってのは分かってんだけど。

 …………。

 ええいどうにでもなれ!

「……閉まっとるし」

 はあっと溜息。おれは尻ポケットから鍵を取り出して、鍵穴に差し込んだ。

 そしてドアを開け、目にした光景に思わず叫ぶ。

「小悪魔どころの話じゃねえぞ!」

 この悪魔!

 何なのお前、何考えてんのお前マジで!

 理絵はおれのベッドで、シーツに包まってすやすやと眠っていた。

 ベッドの側にはセーラー服が脱ぎ散らかされている。上も、下も。あと靴下も。

 ちなみにおれの部屋には洗濯もんを干す用に、壁のところに縄が張ってある。そこに、 男一人暮らしじゃ縁の有るはずの無いものが干されていた。


 青のボーダーの、ブラとパンツ。


 ああ、うん、洗濯したんだな。うん。

 ……つーかお前、ちょ……!!

 天使ってそういう意味だったの!? 太陽のKomachi エンジェー的な意味だったの!? いやいや、やや乱れてYO セェエエイどころの話じゃねえよ! 超乱れてるよ!

 落ち着けおれ、この状況を整理しよう。いや、整理しなくても良い。導き出される答えは一つしか無いはずだ。


 ……なあ理絵、お前今全裸なの?


「お前なんか天使じゃねえ……!」

 堕天使だ……。

 おれはその場でがっくり膝をついた。背後でばたんとドアが閉まる。

「んー……?」

 ごそごそと理絵が寝返りを打つ。むやむや何か言いながら、体を起こした。


 当然、シーツはぱさっとなっちゃうわけで。


「ノット全裸!」

 バットおれのシャツ!

 紳士的に指の隙間から覗き窺った理絵は、おれのYシャツを着ていた。まあつまり彼シャツって状況なわけですな! これはこれで!

 わあわあわあ落ち着いておれ! 正直者すぎるから!

 理絵は目を擦りながら、ぼんやりした顔でおれを見た。

「…………あ、洋平くんだ……」

 そうです寺内洋平です! 朝っぱらからリビドー全開だよ!

「んー……おはよう……」

「そのまま! そのままで良い!」

 ベッドを出ようとする理絵を、慌てておれは止める。だってシャツ着てるにしたって結局はノーブラノーパンだろ!? このハレンチ娘! これだから昨今の女子は!!

 理絵は首を傾げ、自分の姿を見おろした。そして少し頬を染めて、唇を尖らしおれを睨んでくる。

「……えっち」

「理不尽!」

 勝手に脱いだのお前だろ!

 何だ、あんな気分だ。めっちゃスカート短い女子高生が階段で前歩いてて偶然パンツ見えてしかも目が合って『何こいつキモイんですけどー』とか言われた時のあの気分。

 キモイ言うならスカート伸ばせ! もしくはスカート押さえて階段あがれ! あとついでに世の男子を代表して言うがミニにすんならジャージは穿くな!

 理絵はシーツを体に巻きつけてから、片手で寝癖のついた髪を梳いた。

 とりあえずおれはサンダルを脱いで、部屋に上がった。

 安アパートは狭く、どこにいてたって理絵の姿は視界に入る。おれは仕方なしに、ベッドに背をもたせかけて腰を下ろす事にした。これなら後ろ向いてるし大丈夫だろ。

「……何か、だから洋平くんって童貞なんだって感じね」

「あ?」

 理絵はくすくすと笑った。

 せっかくのおれの気遣いをお前という奴は。

 何やら背後でごそごそと音がする。気になるけど、振り返ったら負けな気がした。

 しばらくしたら音はやんだ。その代わりに、目の前をひらりと何かが舞った。


 ちょうどおれの膝の上に落ちてきたそれは、おれのYシャツ。


「…………去れおれのリビドオオオオ!!」

 シャツを床に叩きつけ、おれはタンスを漁った。慌しく高校の芋ジャ上下セットを取り出し、理絵に投げつける。

「着てなさい!」

「えー……。せっかくサービスしたのに」

「結構です!」

「追加料金とかいらないよ?」

「タダほど怖いものはねえ! 良いから着てろ!」

「えー……。でも、これ長袖じゃない。暑いから嫌」

「このワガママ娘が!」

 だって半袖だったら生地薄いし透けちゃうでしょうが! 乳首が! 倒置法だね!

「……もう。怒鳴らないでよ、怖い」

「怖いのはお前だ!」

 ……あ、おもっきし叫んだからか立ちくらみ。しんどい。

 隣人が壁を叩いてくる。すんません、朝からうるさくして。悪いのは理絵です。

 でっかい溜息吐きながら、おれはもう一度座った。ベッドの縁に背を預けて、げっそりと項垂れる。

 うん、でも芋ジャは着てくれるみたいで安心。後ろでごそごそ音がしてる。

 あーもー、あっつい。叫んだおかげで体温上昇ですよ。

 おれはクーラーをつけた。ほんとならあんましつけたくないんだけどね。電気代って結構馬鹿にならんからさ。

 でもまあ涼しくしときゃ、このワガママ娘も文句言わず長袖着といてくれるでしょ。

「洋平くんって真面目ね」

「チキンなだけだよ」

 素性のよく分からん十代に手ぇつけるとか、びびりの童貞にゃ到底無理。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ