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天使の言い分  作者: ろく
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第五話

 んん? 隠し事? ちょっと地味にショックなんですけど。

「俺の事は良い。今はあの子の事だろ」

 おお、強引な話題転換。でもまあ無理に聞くのもどうかと思うし、一基の言う事も最もだ。

「まあとりあえず、一基の案はごめんだけどおれ的に無理」

「そうか」

 頷いて、一基は腕を組んだ。おれも腕を組んで、代替案を考える。

「……理絵の理論じゃ、こっから出られないんだよなー……」

「そう言ってたな」

「んー……」

 理絵曰くおれを幸せにするまで帰れない、かつ、ここから動けない。

 おれとしては、理絵と一つ屋根の下ってのはちょっと困る。

「あ、そうだ」

 名案閃く。おれはぽんと手を打った。

「しばらく一基ん家泊まらしてもらうとか無理?」

「あの子を?」

「や、おれを。んで理絵をおれん家に泊まらせんの」

 おれ的に名案なんだけどな。どうだろ。

 だっておれん家にゃ盗られて困る物とかも特に無いし、別にあの子一人ここに置いておいたって困る事は特に思い当たらない。

「んでその間にどうにかこうにかして説得するなり、帰らせる方法考えるなりする。だめ?」

 ぺん、と手のひらを合わせてお願いポーズを取ってみる。

 でもどうだろ、自分で言っててすんげえあつかましい気がする。

 だって一基は実家住まいだしさ。家族ぐるみで良くしてもらってるけど、ちょっとどうかと思う。

 なので、

「んや、ごめん、やっぱ良いや。漫喫とか行く」

 撤回。甘えすぎ、いくない。甘えたお願いごと打ち消すように、おれは手をはたはたと振ってみせた。

 一基は顎に手をあてて悩んでるみたいな顔してたけど、しばらくしてから言った。

「俺は別に良いよ。しばらくって言ってもそんなに長いわけじゃないだろ?」

「お、おー……。早くあの子帰らせる気満々だし」

 まさかオッケー出るとは思わなかったから、ちょっとばかし声が上擦った。

「よし、じゃあ決定だな」

 と、一基は理絵のいる方を顎でしゃくる。あ、はい、言ってきます。

 おれはユニットバスから出て、部屋に戻った。理絵はさっきと変わらず床に座って、ぼんやりとしていた。

 その横顔が悲しげというか儚げというか、とにかくそんな感じだったもんで、声をかけるのにためらってしまう。

「……えっと」

 遠慮がちに声をかけると、理絵はこっちを見上げた。さらっと黒髪が揺れる。うん、やっぱ良いね天然黒髪。

 って、あほか。眠れおれのリビドー。

「えー……っと、まあとりあえずおれん家いて良いから」

「本当?」

「うん。好きにそこらのもん食って良いし、風呂もトイレも好きに使ってくれれば良い。じゃあまた様子見にくるんで」

 と、財布と携帯をポケットに突っ込むと、理絵は慌てた様子でおれの腕を掴んだ。

「待って、どういう事?」

「いや、だって、さ」

 その剣幕に及び腰になってしまう。『うあー』だとか『んやー』だとか意味の無い声を発しつつ、おれは助けを求めて背後の一基を振り返った。

 一基は『このヘタレ』とでも言いたげなしかめっ面で溜息を吐く。うお、ごめん見捨てんといて!

「と、とりあえずここにいて良いから!」

「ちゃんと説明して」

「う、や、ぇ……っと……、さ。んー……、だって理絵はここ動けないんだろ? じゃあこうするしか無いじゃん。おれは正直一つ屋根の下は困るし。な? おれを幸せにしたいんだったら頼むよ!」

 逃げるみたいに理絵の手を振り払って、おれは慌てて部屋を飛び出した。鍵をかけつつはっと気付いて、隣の一基を恐る恐る見上げる。

「……これって監禁とかにならんよな?」

「さあ……、どうだろうな」

「ちょ、ならんて言って! え、どうしよ、理絵が携帯持っててどっかに電話とかされて何か怖い人いっぱい来たりとか無いよな? そんなん困る!」

「落ち着けって」

 思わず地元の訛りがまざるおれの肩を、一基は軽く叩いて宥めた。

「……まあ、そうならない事を祈るよ」

「余計怖いし!」

「あ、鍵開けといたら良いんじゃないか?」

「あ、ああそっか! そしたら監禁にはならんよな! 空き巣とか入られても盗られるもん無いし!」

 うん、そうだ。それに開けといたら、出てってくれるかもしんないし。それをおれは望むばかりですよ、ほんと。

 うおおおお手震えてんだけど。どんだけびびりなのおれ。情けない。でも固まらなかっただけでもマシか。

 ほんと突発事態には弱いんだって。慌てると震えるしどもるし、どうすりゃ良いのか分からん時はピークになると固まっちゃう。昔っからそう。母さんに怒鳴られたりとかした時はほんと、がっちがちだったし。

 今も固まるのは治ってなくて、そのおかげで佳代のフォローも出来んかったしね! 今度顔合わした時とかどうすっかな! マジ気まずい! あーあ!

「……何なのほんともー……」

 何かいきなりどっと疲れが来た。久保家を目指す足取りは重い。道路でも良いからこのまま寝ちゃいたい気分だ。

 もうね、正直めっちゃやさぐれてます。

 だってさあ、彼女にはフラれるわ意味分からん女子高生(仮)が唐突に天使言い出して童貞捨てさせてやる言い出して、んでおれの部屋に居座るとか何それ意味分からん。

「……何かもう泣きたい」

「おー、泣け泣け」

 一基がぺそぺそと頭を叩いてくる。うう、マジ泣きそ。

 とりあえず、次にうち戻ったら天使さま(仮)が消えてくれてる事を神様にお願いするよ。

 あ、天使ってのは神様の使者なんだっけ? じゃあお願いしても駄目じゃん。

 って、この思考理絵に毒されてるね、もうね、やだやだ。

 しかし天使ってマジ何なのほんと意味分からん。


 泣きたい。



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