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天使の言い分  作者: ろく
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第四話

「洋平は風俗行かない派だ」

 あ、駄目だこいつまだ酔ってるわ。はやくまともないつもの一基に戻ってください。

「……そー。いかない派なの、おれ」

「何で? 職業差別?」

「いや、単に素人童貞呼ばわりされんのが嫌なだけ」

 ほんとね、女の子って意味分からんよ。童貞だっつったら馬鹿にするくせに、仮におれが風俗で捨てたとか風俗通いとかっつってもやっぱ馬鹿にするし、嫌がるんだろ?

 何なんだろねえ、あれ。それにセックス上手けりゃ上手いで今まで遊んできたの? とか何人付き合ってきたの? とか気にするんだろうし、下手なら下手で馬鹿にするんだろうし。どっちなんだよ、と、童貞が愚痴ってみます。

 それにさ、風俗ってやっぱ店の女の子としてはお仕事なわけじゃん。おれはそういう愛の無い感じは嫌なの。愛し愛されってのが良いんだよ。と、童貞が理想を述べてみます。

 話ずれた。

「まあ、風俗どうこうは良いんだって」

 あのさ、と理絵に投げかける。

「とりあえず家帰れって。間に合ってるから」

 ぶっちゃけめんどい。とは流石に口に出さないけどさ。

「……無理」

 と、理絵は弱々しく首を振る。

「何で」

「帰れないもん……」

 ……んー……、そんな涙声で言われたら、ちょっと罪悪感なんだけど……。

「だって……、もうターゲット洋平くんに決定したもん……。今から変更は無理なの。洋平くん幸せにするまで帰れない」

 …………おお、左様で……。

「いや、もうそういうウソ良いから……」

「ウソじゃないもん」

「や、ウソだろ。天使とかありえんし」

「ウソじゃないもん……!」

 ……泣ーくーなーよー。

 おれ今初めて『女は良いよな、泣いたら済むんだから』っていう外道台詞言いかけそうになったわ。言わんけど。

「よし、じゃあ仮にお前が……、理絵だっけ? 理絵が、天使だとしよう」

「仮にじゃないもん。ほんとだもん。否定できる要素はないでしょ? 今まで天使を見たことある?」

「や、無いけど。絵とかでしか」

「絵なんて、想像の産物でしかないよ。絵とわたしの姿が一致しないからといって、天使の存在を否定する理由にはならないわ。それに今まで天使を見たことが無いイコール、天使は居ないという証明にはならないよ」

「うあーもーめんどくさいんだけどー……、助けて一基ー……」

 何なのこの子、もー……。

「理絵ちゃん、だっけ?」

 お? 一基だいぶまともになった?

「……うん」

「名字は?」

「……無い。天使は名字を持たないの」

「そうか、分かった。それで、洋平を幸せにする必要がある、と」

「……うん」

「でも、今洋平は理絵ちゃんに困らされてる。それは、こいつを幸せにする事の正反対に位置しないか?」

 一基……!!

 ありがとう、まともに戻ってくれて……!!

「で、でも……帰れないんだもん……。無理なんだもん……」

 うおお……罪悪感……。頼むから泣かんでくれ……。

「それは何で」

 けど一基は別に気にした感じでなく、普通に聞く。すげえよお前。

「だ、だって……ターゲットの変更は無理だもん……。それに、ターゲットの家に入れてもらったら、そこから動くのも無理なんだもん……」

 ついにこぼれた涙を手の甲で拭って、理絵は洟をぐずらせる。

 おれは一基の腕を引っ張って立たせた。理絵にちょっと待っててと言い残し、ユニットバスに連れてって、ドアを閉める。

「どう思うよ……」

 ドア閉めたし多分聞こえないだろうけど。気分的に小声で聞いてみる。

「どうも何も、嘘だろ。家出とかじゃないのか?」

「だよなー……」

 とりあえず、一基の酔いが醒めたみたいで安心だ。

「……警察連れてく?」

「それが一番良いんだろうけどな。嫌がるだろうよ」

「だーよーなー……。で、行くまでに騒がれて逆にこっちが警察呼ばれかねんよな……」

 セーラー女子が『嫌ー助けてー』とか叫んで暴れてたりしたら、警察も来ちゃうよなー……。

「多分、県内の学校の子だ。制服見たことあるし」

「マジで?」

「ああ。どこの学校とかまでは、流石に特定できないけどな」

「うん。できない方が安心する……」

 制服見ただけですぐに学校特定できちゃうのって、何だかね。制服マニアなの? ってツッコミたくなる。

 こっちは学区制だし、学校もわんさか有る。おれの地元は学区無かったから、学校も少なめだったけど。それでも有名なところくらいしか制服知らない。

「しかし何で天使……、何で童貞……」

「あの子の理論じゃ、天使の否定はできないけどな。確かに一理あるって思ったし」

「やめてくれよ……」

 頭抱えたおれを見て、一基はちょっと笑った。

「天使も童貞も、とにかくお前の気を引きたかったんじゃないのか? それで宿を確保したかった、と」

「うあー……、どうしたもんかなー……」

「どうしたい?」

「ぶっちゃけさっさと帰ってほしい。めんどい」

 本音を告げると、一基は肩を揺らして笑った。くそぅ。

「……でも、泣いてる女の子ほっぽり出す度胸もねえし。だからっつって匿うっつーか養うっつーかの甲斐性もねえし」

 どうしたもんかねえ……。

 長い溜息ついてしゃがみ込んだら、だ。

「しばらく置いてやったらどうだ?」

 頭上から一基の男前ボイスが降ってきて、しかも何か恐ろしい事言っててびっくらこいた。

 はい?

 思わず立つよ。しゃがんだばっかだってのに。

「だって、たぶん何言っても聞かないだろうし。しばらくしたらあの子も頭が冷えるだろ」

「いや、まあそうかもしれんけど……。無理だって……」

「何で」

「いやあ、だってさあ……。うあー……」

 歯切れの悪いおれを、一基は不思議な顔して見ている。

 おれは一基から顔を逸らして、もそもそと言った。

「お前だっておれの好みの女の子知ってるだろー……? 理絵ばっちしおれの好みじゃん。んな子がさあ……、……。おれフラれたばっかだぜ? 一つ屋根の下だぜ? まずくね? 考えてみろよ。一基好みの奴が、言ってみりゃ『いつでもイイのよ』っつって自分ちでスタンバイしてんだぜ? でも別に自分に惚れてるってわけじゃない。あっちの言い分にゃ天使のお仕事的なアレ。どうよ」

「……まあ、言いたい事は分かる」

「だろ?」

 おれは唸りながら髪をわさわさする。

「おれそういう愛の無いのは嫌だしさー……」

「じゃあ惚れれば良い」

「お前はとんでもないこと言い出すね!」

 思わずでっかい声で言っちゃって、慌てておれは自分の口を押さえた。

「いやいや、明らかあの子高校生くらいじゃん。下手したら中学生かもじゃん。おいそれと手ぇ出せないって。何てこと言うんだよ一基のばかちんこ」

「新しいな、ばかちんこ」

「問題はそれじゃないからね。お前まだ酔ってんの?」

「素面だ」

「素面でお前の口からばかちんことか超希少価値なんですけど。つかあんなに酔うの珍しいな。おれ初めて見たかも」

「……悪い」

「いや、まあ良いけど。何かあった?」

「……それこそ、問題じゃない」

 と、一基は目を逸らした。



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