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第064話「凱旋報告!就職?斡旋?」


 所変わって迷宮都市メレンゲにある冒険者ギルド支部。


 時間は午後の一時。

 クエストの受注ラッシュが落ち着き、ギルド内にはのんびりとした空気が流れていた。


 受付カウンターの中では、看板娘のシンディが頬杖をつき、大きなため息をこぼしていた。


「……はぁ。

 あの子たち、大丈夫かしら」


 彼女の視線の先には、依頼掲示板がある。

 そこには数日前まで、F級冒険者パーティ『混沌の三女神』が受注した『パプリカ領での護衛依頼』の張り紙があった。


「シンディさん、ため息つくと幸せが逃げるっすよ?」


 隣で依頼書の整理をしていたトレハが、手を動かしながら明るく声をかける。


「だってトレハ。

 あの子たち、F級よ?

 いくら依頼主が貴族のお嬢様で、馬車での移動だと言っても……片道数日の旅路よ。

 盗賊に襲われてないか、野宿で風邪をひいてないか……心配で夜も8時間しか眠れないわ」


「十分寝てるっす、自分より睡眠時間長いっすよ……。

 ま、大丈夫っすよ。

 腐ってもグレースっちが鍛えた根性があるっすから」


 トレハは気楽に言うが、シンディの表情は晴れない。


「そうね……

 それに、依頼主のアスパルテーム伯爵家といえば、古くから続く由緒あるお家柄。

 まさか、か弱い新人冒険者を使い潰すようなブラックな真似はしない……はずよね?」


 シンディの脳裏に悪い想像がよぎる。


 『護衛』とは名ばかりの、過酷な肉体労働。

 あるいは、人身売買の囮。


 辺境の領主が、あぶれた冒険者を拉致して鉱山送りにする……なんて噂も、この業界では無くはない話だ。


「ああ、心配だわ。

 もしあの子たちに何かあったら、私……!」


 シンディが頭を抱えそうになった、その時だった。


 ザワッ……。


 ギルドの外、広場の方からどよめきが聞こえてきた。

 窓際の席にいた冒険者が、身を乗り出して叫ぶ。


「おい見ろよ!

 すげぇ馬車が来たぞ!」


「貴族か?

 こんなむさ苦しいギルドに何の用だ?」


 シンディとトレハが顔を見合わせる。

 二人はカウンターを出て、入り口の方へと向かった。


 ギルドの扉が開き、まばゆい午後の日差しと共に、場違いなほど立派な馬車が横付けされるのが見えた。

 漆塗りの車体に、金で縁取られた家紋。

 アスパルテーム伯爵家の紋章だ。


「!

 あの子たちを送っていった馬車だわ!」


 シンディが駆け寄ろうとする。

 きっと、依頼を終えて送り返されてきたのだ。

 やつれていないか、怪我はしていないか。


 御者が恭しく扉を開ける。

 固唾を呑んで見守る冒険者たちの前で、馬車から降りてきたのは――。


「う~ん、やっぱ馬車は快適だったわね~」


「……ん。

 揺れ、少なかった」


「私の工房……早く戻りたいです……」


 いつものポンコツ三人組だった。


 ボサボサ髪に装飾過多な剣を下げたスティナ。

 地味な薬師のソルティ。

 そして、清楚な顔でキョロキョロと周囲(主にカップル)を観察するピローネ。


 服装は出発前と変わらない、薄汚れた冒険者ルック。

 豪華な馬車とのギャップが凄まじい。


「……あ、あれ?」


 シンディが拍子抜けした声を出す。

 三人はのんびりとあくびを噛み殺しながら、ギルドの中へと入ってきた。


「ただいま戻りました」


 ピローネが、いつもの穏やかな口調で挨拶をする。


「お、おかえり……っす」


 カウンターに戻ったトレハが、引きつった笑みで出迎える。


「それにしても早かったっすね?

 もしかして追い返された……にしては馬車はおかしいっすよね?

 別のお使いっすか?」


 トレハの問いに、三人は「えっと~」と顔を見合わせ、ピローネが代表して懐から分厚い封筒を取り出した。


「いえ、依頼は完了しました。

 これ、完了証明書と……あと、諸々の書類です」


「えっと、まずは依頼の完了証明書っすね。

 本当にもう終わったんすか!

 早いっすね~了解っす。

 で、なになに……」


 トレハは手際よく書類を確認していく。

 依頼完了のサイン、報酬の受領印。

 見た感じでの不備はない。

 だが、その下に重ねられた、見慣れない紙の束を見た瞬間。


 トレハの手が止まった。


「……え?」


 彼女は目をしばたたかせ、書類と三人の顔を交互に見た。

 そして。


「ちょ……ちょっと待ってて欲しいっす!」


 言葉を途中で止め、書類を鷲掴みにして事務局の奥へと駆け込んだ。


「え?

 あ、はい?」


 残された三人は、きょとんとして顔を見合わせる。


     ◇


 事務局の奥、スタッフルーム。

 トレハは血相を変えて、休憩中だった経理担当の女性職員(本職スカウト)の元へ滑り込んだ。


「……先輩!

 ちょっとこれ見て欲しいっす!」


「なによトレハちゃん、血相変えて。

 計算間違いなら自分で直しなさいよ~」


 優雅に茶を啜っていた先輩職員が、面倒くさそうに書類を受け取る。

 そして、その内容を一読し――ブッ!と茶を吹き出した。


「え、うっそ!

 シンディ!

 ちょっと、これどうすればいいのよ~!」


「なによもう、汚いわね~ちゃんと机は拭いておきなさいよ?

 ほんと、忙しいんだから書類くらいちゃんと処理してよね~」


 騒ぎを聞きつけ、呆れ顔で奥から出てきたシンディ。

 少々お茶で濡れた書類を後ろからひょいと覗き込んだ。


「どれどれ……

 …

 って……マジ!?

 あの三人、貴族家に雇われることになってるじゃない!」


 そこにあったのは、『雇用契約証明書』と『冒険者登録・凍結申請書』だった。


「そうなんすよ!

 ちゃんとアスパルテーム家とグルコース家の証明印が入ってるっす。

 本物っす……偽造できるレベルの印章じゃないっす」


 トレハが震える声で告げる。

 シンディは書類を食い入るように見つめた。


 スティナ: アスパルテーム伯爵家・専属鍛冶師として雇用。

 ピローネ: アスパルテーム伯爵家・施設管理責任者として雇用。

 ソルティ: グルコース男爵家・研究開発員として雇用。


「……あの娘たち、一体何をやったのよ……」


 シンディが呻く。


 たった一度の護衛依頼。

 しかもF級の新人だ。


 それが、どういうわけか貴族家の専属としてヘッドハンティングされている。

 しかも別々の家に?


「これ、どういうことっすか?

 スティナとピローネはアスパルテーム家ってのはわかるんすけど……。

 ソルティだけ別っすよ?

 この『グルコース男爵家』ってどこっす?

 聞いたことない家名っすね」


 トレハが首を傾げると、シンディがああ、と思い出したように言った。


「ほら、アセスルファム公爵家のご令嬢の」


「あ、エリスリトール様っすか!

 なるほどっす。

 例の婚約破棄の後、叙爵して独立。

 男爵様になられたっていう……」


「そうよ。

 でも、独立したばかりの新興貴族家と、アスパルテーム家。

 どちらもパプリカ領に関係しているとはいえ、まさかこんな形で人材を引き抜くなんて……」


「とにかく、本人たちに聞くしかないわね。

 ……トレハ、会議室にあの娘達を呼んで頂戴。

 事情聴取よ!」


     ◇


 ギルドの会議室。

 シンディ、トレハ、経理の先輩の三人が、テーブルを挟んで三女神と対峙していた。


「……いい?

 怒らないから正直に言いなさい。

 あなたたち、向こうで何をしてきたの?」


 シンディが低い声で尋ねる。

 まさか、何か弱みを握られたり、怪しい契約を結ばされたりしていないか。

 心配性な保護者シンディの目が光る。


「何って……普通にお仕事に伺って、何ができるのか聞かれて、正直に答えてたらこうなってました」


 スティナがあっけらかんと答える。


「普通にって……。

 出来ることを答えたら、いきなり『就職』なんて話になる?

 騙されてない?

 ほら、契約書の小さい文字とか…ちゃんと読んだ?」


「大丈夫です!

 パルスイート様は、私たちの『才能』を見抜いてくださいましたから!」


「才能……」


 シンディは遠い目をした。

 彼女たちが持っていた才能…才能?

 F級よね?

 それがどうして貴族の専属になれるというのか。


「えっと、具体的にどういうこと?」


「私、パルスイートお嬢様に自分の作品を見せたんです!

 そしたら、『可愛い!』『需要がある!』って認めてくださって!」


 スティナが自慢げに腰の『フルール・エッジ』を撫でる。


「え!?

 その装備って、あなたが自分で作ってたの?

 ……てっきり親兄弟が、妹可愛がりで用意したのかと思ってたわ……」


 シンディが驚いて声を上げる。

 確かに、その装飾過多な剣は実用性こそ怪しいが、作り込みは一級品だ。

 マゴロークの娘だとは知っていたが、まさかここまでの腕があるとは。


「えっと、実は全部自分で設計して、製作も自分でやってたんです…

 これからは専用の工房で、思う存分『可愛い武具』を作らせて貰えるみたいで」


「……確かに、それが作れるなら雇用も考えるかもしれないわね……。

 デザインの好き嫌いはあるでしょうけど、技術は本物だもの」


 シンディは納得したように頷いた。

 技術職としての採用なら、あり得る話だ。


「じゃあピローネさんやソルティさんも、家業の腕を見込まれて?」


 シンディが視線を移すと、スティナは自慢げにうんうんと頷く。


「……ん。

 食事作るテスト、合格した」


 ソルティが無表情で親指を立てる。


「エリス……グルコース男爵様が、私のスープ、認めてくれた。

 『元気が出る』って。

 研究員として、新しい商品、開発する」


「食事のテスト?

 グルコース家ってことは……ああ、あそこは今、領地でお化粧品とか健康食品を売り出してるらしいわね。

 まあ、ソルティちゃんの薬師としての技術が開発部門で役立つ……のかもね」


 シンディは、ソルティが何を作るのかを深くは知らないが、ギリギリ納得したようだ。


「で、ピローネちゃんは?」


 最後に、ピローネが胸を張った。


「私は、パルスイート様が新しく建設される『新しい宿屋』の支配人を任されました」


「し、支配人!?

 いきなり!?

 あなた、まだ18歳よね?」


「ええ!

 ですが、私の『観察眼』と、お客様のニーズ(情事の気配)を先読みする気配りを高く評価していただきましたので」


 ピローネは自信たっぷりに微笑む。


「『宿屋の管理』と『情報収集』が私の任務です!」


「情報収集……?」


 シンディが眉をひそめる。


 宿屋で情報収集。

 聞こえは怪しいが、宿屋の娘としては番頭のような役割だろうか。

 客の顔を覚え、トラブルを未然に防ぐ。

 ピローネの『目ざとさ』はギルドでも有名だったため、適材適所と言えなくもない。


「……なるほどね。

 整理すると、三人とも、それぞれの『家業』と『特技』を活かした真っ当なヘッドハンティングだったってことね」


 シンディは深い溜息をつき、肩の力を抜いた。


「洗脳とか、怪しい詐欺じゃなくて安心したわ。

 ……パルスイート様って方、意外と見る目があるのかもしれないわね」


「はい!

 あのお方はきっと、契約を絶対に守る方ですわ!」


(そういうのが一番心配なんだけど……)


 シンディは一抹の不安を覚えつつも、書類に承認印を押そうとペンを取った。

 その時だった。


 ガチャリ。


 会議室のドアが開き、一人の少女が入ってきた。

 銀色のお団子ヘアの美少女。

 ギルド職員でありながらA級の実力を持つ冒険者、グレース(ロザリオ)だ。


「どうしたのって、スティナさんにピローネさん、ソルティさん?

 三人そろって任務失敗?」


 グレースは、いつもの調子で軽く手を挙げた。

 ダンジョンから戻ったばかりなのか、少し埃っぽい。


「それが違うのよ……。

 この書類。

 見て貰える?」


 シンディも苦笑しながら別の書類も渡す。

 どれどれ、と書類を覗き込んだグレースの目が、点になった。


「……あれ?

 エリスリトール・グルコース男爵様?

 アセスルファム公爵家のご令嬢じゃなかった?」


 グレースが素っ頓狂な声を上げる。

 彼女は、この世界の「裏事情」――前世のゲーム知識を持っている。

 エリスリトールといえば、悪役令嬢として有名な公爵令嬢のはずだ。


「あら、あなたも知らないの?

 例の婚約破棄の後、叙爵して独立なされたのよ?

 今は男爵様ね」


 シンディが説明する。

 その言葉を聞いて、グレースの脳内で情報が駆け巡った。


(ふーん、本編はあんまり知らないんだけど、確かKOFの初期コラボではアーリー、ロザリオ、エリスリトールだったんだよな~

 まさか、こんなところで名前を見かけるなんて……

 ロマンあるよな!)


 彼女(彼)は元々は格ゲーマーだ。

 乙女ゲームホーリースイート本編でのキャラ知識は薄いが、KOFコラボキャラとしての知識は豊富。

 エリスリトールは設置技を駆使するテクニカルな強キャラだった。


「あとは、パルスイート・アスパルテーム……え?」


 グレースの視線が、もう一枚の書類に釘付けになる。


(これぞまさかの『KOFコラボ 第二弾』の実装予定キャラじゃん!

 確かホリスイ2とのコラボで、この子とチクロって子が追加されるんだっけ?

 ま、俺その前に殺されちゃったから詳細しらないんだよな~

 ゲーセンで使ってみたかったな……)


 パルスイート・アスパルテーム。

 自分が死ぬ直前に発表された、追加DLCキャラクター。

 仲間だったか装備だったかの召喚と光属性の技を使うという噂の、未知のキャラだ。


「知ってるの?」


 シンディに聞かれ、グレースは慌てて誤魔化した。


「あ、うん……パルスイート・アスパルテーム伯爵令嬢のお名前だけは何故か。

 不思議ですね~」


「今回、この子たちがそのお貴族様の依頼を受けてお屋敷に行ったわけだけど、そこでスカウトされて雇用されることになったらしいのよ」


 シンディが先ほどまでの経緯をグレースに再度説明する。

 それを聞きながら、グレースの頭の中で、一つのアイデアが閃いた。


(……パルスイートにエリスリトール。

 KOFコラボキャラが二人もいる領地…って、そんなことより、貴族様が人手を欲しがっている?)


「なるほど……これはいい話かもしれないですよ?」


 グレースが顔を上げる。


「何が?

 どういうこと?」


「えっとね、これってお貴族様の領地で人員募集してるってことでしょ?

 だったら、冒険者向いてなさそうだけど労力として雇ってもらえそうな人を斡旋してあげたらどうかな~って」


 グレースの提案に、シンディがハッとする。


「!

 そっか!

 危ない冒険者への依頼より、安定した仕事が貰える領地でいい仕事につける可能性があるってことよね!」


 ギルドには、冒険者に憧れて登録したものの、実力が伴わずにくすぶっている若者が山ほどいる。

 彼らに無理に剣を持たせるより、開発中の領地で職人や労働者として働かせたほうが、本人にとってもギルドにとっても有益だ。


「そういうことかな。

 ギルドとしてお手紙書いて、提案してみたらどうかな?」


「そうよね、ちょっとあなた達、一筆書くから待ってて貰えない?

 アナタたちにアスパルテーム伯爵令嬢様と、グルコース男爵様へ手紙を届けてもらう依頼を出すわ。

 最後の冒険者依頼だと思って引き受けて貰えないかしら」


 シンディが三女神に提案する。

 それは、ただの報告ではなく、未来への架け橋となる依頼だ。


「もちろん、喜んで!」


 三人が声を揃えて答える。


 シンディは早速、上質な紙を取り出し、ギルドマスター印の公式書簡をしたため始めた。

 『人材斡旋のご提案』と書かれたその手紙は、パプリカ領の労働力不足を一気に解消する切り札となるだろう。


「よし、書けたわ。

 これをアスパルテーム様とグルコース様に渡してちょうだい」


「承りました!」


 スティナが手紙を受け取る。

 これで、全ての手続きは完了だ。


「じゃあ、行ってきます!

 みなさん、お元気で!」


「遊びに来てくださいね!」


 三人は笑顔で手を振り、部屋を出て行った。

 外で待つ豪華な馬車へと乗り込み、新たな職場――パプリカ領へと帰っていくのだろう。


 窓からその様子を見送りながら、グレースは小さく呟いた。


「パルスイート……か。

 いつか、会ってみたいな。

 ……強キャラだといいけど」


 彼女(彼)のゲーマー魂が、まだ見ぬコラボキャラへの期待に震える。

 その出会いが世界の運命を大きく変えることになるのだが――それはまだ、少し先のお話。


※2026/03/09

 体裁調整

※2026/03/13

 微修正

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