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第060話「戦力補充!代替?採用?」


 パプリカ領、ピメント。


 領主館の前の車寄せに、送迎に出した当家の馬車が戻ってきた。


「皆様、到着いたしました」


 雇われの御者が扉を開けると、そこから三人の少女たちが降りてくる。


 ボサボサ頭の剣士

 清楚なスカウト

 無口な薬師


 メレンゲのギルドからの紹介で雇い入れた、F級冒険者パーティ『混沌の三女神』だ。


「ようこそ、パプリカ領へ!

 遠路はるばるお疲れさま」


 玄関ホールで出迎えた私、パルスイート・アスパルテームは、扇子を広げて優雅に微笑んだ。


 この行動は備忘録だ。

 偶には悪役令嬢っぽさを醸しださなければ、自分が何者なのか忘れてしまいそうになる。


(悪役令嬢なのかって?

 そりゃ悪役令嬢はエリスのことだしね。

 どうせ私はグループのNo3よ)


 そして背後に控えるのは、執事のソルビトール。

 本日はいつも私の影のように付き従っている護衛サッカリン侍女サラヤの姿はない。


「お初にお目にかかります、領主代行様」


 代表してピローネが、宿屋仕込みの綺麗ななカーテシーで挨拶する。


 その視線が、一瞬だけ館の照明やカーペットの毛足を値踏みするように動いたのを、私は見逃さなかった。


「この度は、F級である私たちパーティを馬車で送迎いただき……身に余る好待遇に感謝いたします」


「ええ、本当に。

 まさか依頼主様の馬車でお迎えとは思いませんでした」


 スティナも緊張した面持ちで頭を下げる。

 腰に差した剣が、歩くたびにカチャリと独特の澄んだ音を立てる。


 彼女たちの疑問はもっともだ。

 通常、冒険者への依頼で、わざわざ馬車を回すことなどない。

 だが、今回は少々事情が違う。


「ふふ、感謝されるには及ばないわ。

 今回はこちらの都合で『急募』した案件だもの。

 それに……」


 私は肩をすくめて、苦笑いを浮かべた。


「今のうちは、ちょっと『人手不足』なのよ。

 特に、戦闘できる護衛担当がね」


 そう。

 本来なら私の護衛を務めるべき二人の主力が、現在、揃いも揃って「休暇中」なのだ。


 サッカリンは「隣のグルコース男爵領にオープンする『ワンワン・パラダイス』が、開店準備で人手が足りないそうです! ワンコ成分……いえ、手伝いに行かねば!」と熱弁を振るい休暇を申請した。

 サラヤは「情報の鮮度維持」という名目で、裏社会の人間との「飲み会」……もとい情報交換会へ旅立ってしまった。


 概ね三日の不在予定。


 たかが三日、されど三日。

 今の私は、丸腰同然の令嬢というわけだ。


(お土産くらいは期待してやるわ……)


「……先ほども言った通り、、うちは今、護衛の数が不足してる状態なのよ。

 それで、この機会にこうやって依頼を出して冒険者を雇うのことに慣れておこう、と言う訳よ。

 あなた達には、彼らが戻るまでの三日間……留守を預かる戦力として期待しているわ」


 私が説明すると、三人は顔を見合わせた。


「なるほど……。

 そういう事情でしたのね」


「……ん。

 これは、チャンス」


 薬師のソルティがボソリと呟く。彼女、さっきから出されたウェルカムドリンクの匂いをクンクン嗅いでるけど、何が気になるのかしら?

 やっぱり薬師だから成分分析かもしれないわね。


 とりあえず荷物を置かせ、夕食までの間、簡単な面接というか、顔合わせを行うことにした。


「さて。

 あなた達の経歴はギルドからの書類で見ているけど……

 実際、何ができるの?」


 私が問うと、ボサボサ髪の剣士、スティナが一歩前に出た。


「あの!

 私、一応剣士として登録してますけど……本職は鍛冶屋なんです!」


「鍛冶屋?

 へぇ、その細腕で?」


「えっと、はい!

 一応、身体強化魔法は使えますので、鍛冶の時は強化しながらやってます。

 もし屋敷の武器や農具の修理が必要なら、私にやらせて貰えませんか?

 炉や金床なんかの道具が揃った工房を貸していただければ、研ぎ直しでも打ち直しでも!」


 彼女は熱心に売り込んでくる。

 どうやら、戦闘よりも「作り手」としての自分を見て欲しいらしい。

 手を見ればわかる。指先は荒れ、タコができている。間違いなく、職人の手だ。


「でも……贅沢を言わせて頂けるなら…私が本当に作りたいのは、もっとこう……」


 スティナはもじもじと身をよじり、チラリと私を見た。


「あの、パルスイート様。

 私の……『作品』を見ていただけますか?

 ここで抜刀する許可をいただければ、ですが」


「作品?」


「はい! 私の自信作なんです!」


 スティナが腰の剣に手をかける。


 その瞬間。

 執事のソルビトールが自然な動作で、私とスティナの対角線上――万が一の時に即座に割って入れる位置へと移動する。


 その目は、スティナの手元を油断なく見据えていた。


 私はソルビトールの配置を確認し、安心を得た状態で答える。


「いいわよ。

 是非見せてちょうだい」


 許可を得たスティナが、ショートソードを抜き放つ。


 シャラァン……


 澄んだ金属音と共に現れたのは、この無骨な辺境には場違いなほどに美しい剣だった。


 「……あら」


 私は思わず感嘆の声を漏らした。


 刀身には、繊細なエッチングでレースのような模様が彫り込まれている。

 グリップには上質なクリーム色の革が巻かれ、鍔の形状は天使の羽を模した優美な曲線を描いていた。


 一見すれば『儀礼剣』のようにも見え、『貴族のお遊び道具』のようなイメージを受ける。

 だが彼女はそれを実用品として腰に穿いている。


 綺麗だけど、残念ながら武器としての善し悪しなんて、私にはさっぱりわからない。


 私は目線の先の執事に訪ねる。


「ソルビトール。

 あなた、たしか剣を使うわよね?

 どう? これ」


「はい、剣にはそれなりの覚えがございます。

 スティナ様、そちらの剣、少しお預かりしても?」


「はい!

 喜んで」


 そう言うとスティナは剣を下げ、柄側をソルビトールへと向けて差し出した。


 ソルビトールは無表情のまま一歩前へ出ると、スティナから恭しく剣を受け取る。

 切っ先を見つめ、指で刃を弾き、軽く空気を斬る。

 その所作は、ただの執事とは思えないほど手慣れていた。


「……ほう」


 ソルビトールの眉が、わずかに動いた。


「で、どうなのかしら。

 何か感想を聞かせてくれない?」


 実際のところどうなのか、かなり気になるので回答を急かす。


「驚きました。見た目の装飾に目を奪われがちですが……中身は剣として一級の品です。

 重心のバランスがしっかりと調整されており、女性の筋力でも遠心力を乗せやすいようになっております。

 それに、この刀身の彫刻……ただの飾りかと思いましたが、剣に魔力を乗せるための溝として機能しておりますな。

 この模様がある事で魔力が剣に停滞する構造です。

 まぁ攻撃魔法を使える人間が剣を使うことは少ないですが、魔法剣士という使い方なら、非常に使い勝手は良いでしょう」


「へぇ……

 つまり、使えるってこと?」


「はい。

 魔法剣としての利用者は限られてきますが、通常の剣としても実用性と芸術性を、信じられないほど高いレベルで両立させています。

 ただ……」


 ソルビトールは少し言いよどみ、剣をスティナに返した。


「戦場に持ち込むには、あまりにも意匠が『可愛らしい』かと。

 無骨な男性冒険者には敬遠されるでしょうな」


「そ、そうなんです!」


 スティナが食い気味に叫んだ。


「実家の兄たちもそう言って……!

 『実用性がない』って!

 でも、私は可愛さこそが正義だと……!

 自分が持ちたい武器の方が、モチベーションが違います!」


 なるほど。

 ソルビトールが太鼓判を押すなら、武器としての品質は間違いない。


 問題は「需要」がないこと…か?


 私はスティナの着ている革鎧にも目を向けた。

 フリルやリボンがあしらわれているが、身体のラインにフィットし、動きやすそうだ。


「その鎧も、貴女が?」


「はい!

 型紙から自分で起こして作りました!

 自分が着たい『カワイイ防具』が売ってなかったから、自分で作るしかなかったんです!」


「型紙が起こせる……ふーん…」


 私の商売人としての勘が、ピピッと反応した。


「ソルビトール

 あの革鎧はどう思う?」


 その質問にスッと目を細め、スティナの革鎧を見つめる。


「スティナ様、断りなく婦女子の体を見つめましたことをお詫び申し上げます。

 重ねて失礼ではございますが、貴方様は裁縫の方はあまりお得意ではないとお見受けしました。

 いかがですかな?」


 スティナの目が若干泳ぐ。


「鎧を見られてたんですよね!

 大丈夫です!

 ただ…えっと…実はその通りで、この革鎧も型紙や切り出しまでは問題なかったんですけど…

 やっぱ縫う部分は結構苦戦してて、見る人が見るとわかっちゃうんですね。

 あはは~、ちょっと恥ずかしいな…」


「別に皆がソルビトールみたいな認識でみちゃいないわよ

 私から見たら随分立派な革鎧よ?

 可愛いし」


「ありがとうございます!

 私、この鎧気に入ってて、凄くうれしいです!」


 大袈裟すぎる程に喜ぶスティナを見る限り、本当に自分の作品を褒めて貰うことが少なかったのかも知れない。


 剣の品質はソルビトールのお墨付き。

 革鎧も含め、デザインセンスは独特だが、ターゲット層(女性冒険者や貴族令嬢)を絞れば化ける。

 さらに、革細工の設計まででき、何より「ないなら作る」という情熱。

 縫う部分は外注で済ますとしても…


(……こいつ、使えるわ!)


 私は扇子で口元を隠し、見えないようにニヤリと笑う。


 こんな人材を、たかがF級冒険者として使い潰すのは資源の無駄だ。

 護衛として雇ったが、これは別の使い道の方が有益だ。


「そうねぇ……

 アナタ、冒険者にしとくのはもったいないわね」


「え?」


「スティナさんだっけ?

 良かったら、うちの領地で働かない?

 鍛冶師としてなら…だけど。

 私が思うに、アナタは冒険者として魔物と戦うより、その鍛冶の技術を活かしたほうが稼げそうなのよね。

 やるなら工房は貸してあげる。

 材料も、うちには『鉄甲イノシシ』の素材が山ほどあるから、それで良ければ使い放題よ」


 私は畳み掛けた。


「本職の護衛任務から帰ってきてからでいいから、考えてみて。

 まぁ、どうしても冒険者やりたいならあきらめ……」


「やります!」


 スティナが食い気味に叫んだ。

 もはや距離感ゼロだ。


「えっ?

 早っ」


「すぐにでもやります!

 私、自分のセンスを認めてくれる場所を探して冒険者になったんです!

 『カワイイ』をわかってくれる領主様の下で働けるなら、冒険者なんて今日で引退します!」


 彼女の目は本気だった。

 どうやら、よほど実家や世間で理解されずに飢えていたらしい。


「あ、そう?

 ……ま、即決してくれるなら話は早いわね」


 私はパンと手を叩いた。


「じゃ、細かい条件や待遇については、後で話を詰めましょっか。

 ちょうど夕食の準備ができてる頃よ。

 夜にご飯食べながら、じっくり話しましょ

 あとのお二人のお話も、その時にゆっくり聞かせて頂戴」


「はいっ!

 よろしくお願いします、パルスイート様!」


 スティナが目を輝かせて頭を下げる。

 よし、一人目ゲットだ。


 私は残りの二人――清楚なスカウトと、無口な薬師にも視線を向けた。


 スカウトの子は、さっきから執事のソルビトールの所作を舐めるように観察してるし、薬師の子は観葉植物の土の成分を指で確認してる。

 別に全員に何かを期待してないんだけど、この子たちも一癖ありそうなのよね。


「さあ、入って。

 今日のディナーは、ピメント自慢の『イノシシ肉フルコース』よ」


 私は期待に胸を膨らませながら、彼女たちを館の奥へと案内した。

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