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第005話「猪肉生成!無限?資源?」

ピメントでの生活初日。

私は早朝から、館のサロンで優雅に紅茶(出がらし)を飲んでいた。


「……ねえ、ソルビトール」

「なんでしょう」


「イノシシ、来ないわね」


窓の外は平和そのもの。

昨日、ナト達があれほど恐れていた「鉄甲イノシシ」の影も形もない。


「この辺には出ないの?」


私が聞くと、ソルビトールは涼しい顔で答えた。


「はて、存じませんな。

 そもそも、ここピメント周辺の不作は魔獣のせいではなく、単なる地力ちりょく不足と塩害による土壌の問題ですので」


「……は?」


私はカップを取り落としそうになった。

別問題かよ!


「じゃあ何?

 ナト達が言ってた『イノシシ被害』って……」


「彼らの村は、ここから山を一つ越えた盆地にありますからな。

 こことは環境が違うのでしょう」


なるほど。


ゲーム的に言えば、エリアが違うってことか。

モンスターにはポップと行動に範囲テリトリーがある。

ピメントは鉄甲イノシシのポップ地点から離れていて、行動可能範囲外なのだろう。


「ちっ……面倒ね。

 向こうから来ないなら、こっちから行くしかないじゃない」


私は立ち上がった。

ピメントの土壌改良も大事だが、まずはナト達との「契約(イノシシ退治)」を果たして、彼らを完全に心服させなきゃならない。

それに、あの硬い皮(ドロップ品)は高く売れた筈だ。


「サッカリン、サラヤ!

 ナトを呼んで、村に案内させなさい!

 出張よ!

 例のイノシシ、狩りに行くわよ!」


   ◇


ナト達の案内で、山を越えた例の村へ到着した。

そこは確かに、酷い有様だった。

畑は掘り返され、家屋は破壊され、まさに魔獣の嵐が過ぎ去った後。


村の入り口に到着すると、この惨状で一体どこに隠れていたのか、生き残っていた村人たちがナト達の元へ駆け寄ってきた。


「あんた!無事だったのね!」

「お前こそ…」


まぁとりあえず感動の再会とかはどうでもいいので割愛するわ…


え?割愛よ!割愛!

ほ、ほ、本当は大事なことなんだとは思ってるんだからね。


★『割愛』とは★

仏教用語で「愛着の気持ちを断ち切る」って意味なの。

つまり、本当は私もこの感動的なシーンを余すことなく描写したいのよ?

面…断腸の思いで、涙を呑んでカットする……そういう高度でセンチメンタルな決断というわけ。

みんなも割愛の使いどころ、間違えないように。

適当に割愛してると呆れられちゃうぞ。(トオイメ)

★★★★★★★★


……よし。


というわけで、村の破損状況は酷いが、幸いなことに死者等はいないようだ。

これでオッサン以外の労働力も増えるわね。


一時的にピメントへ移住させることでの衣食住を約束し、村人たちから盛大な感謝を受けていたその時。


「出やがった!

 イノシシだぁぁぁ!」


突如、巨大な黒い影が突進してきた。

戦車のような巨体に、鉄色の皮膚。鉄甲イノシシだ。


「よし、作戦通りにいくわよ!

 サッカリン!

 いったん追い払うわよ!

 サラヤ!

 農民たちに穴を掘らせて!」


「いつも簡単に言ってくれる」

「お手当、期待していますね」


叫ぶ私に、いつもの調子で二人が応える。


数時間後、ナト達の掘る穴が十分な深さになった。


サッカリンが囮になって引きつけ、私が魔力全開の『超高輝度フラッシュ(目潰し)』を浴びせる。

視界を奪われ、パニックになって暴走したイノシシは、そのまま事前に掘っておいた落とし穴へ――ズドン!


「今よ! 上から岩を落としなさい!」


ドカッ! グシャッ!

哀れイノシシは、一度もその自慢の突進を当てることなく圧死した。

私の「物理的光魔法」と「落とし穴戦法」の勝利だ。


「す、すげぇ……!」

「あんなに苦しめられた化け物が、あっさりと……!」


ナト達が歓声を上げる。

私たちはその日のうちに、村周辺にいた5匹すべてを処理した。

肉は宴会のメインディッシュになり、皮は剥ぎ取って素材にした。


「これで平和になる……!」

「ありがとうございます、お嬢様!」


村人たちの感謝を背に、私はホクホク顔で眠りについた。

あの馬鹿みたいに硬い皮だけで金貨数枚にはなるわね。


チョロいもんよ。


――だが。

翌朝、その幻想は打ち砕かれた。


「お、お嬢様ぁぁぁぁっ!

 大変です!

 イノシシです!

 またイノシシが!」


ナト達の誰かの悲鳴で叩き起こされた。

もそもそと、簡単に修繕した仮設住居代わりの小屋から頭を出す。


目を凝らして外をみると、昨日倒したはずのイノシシがまた5匹。

なんとも元気に畑を耕(破壊)しているではないか!


「なっ……!?」


私は目を疑った。

生き返った?

アンデッド…

いや、違う。個体が違うのよ!

だって昨日のは解体して鍋にしたもの。


美味しかったし!


つまり――。


「リポップ(再出現)ね……!」


そう、ここはもともとがゲームの世界。

あのゲームのフィールドモンスターは、倒しても一定時間で「湧く」のだ。

魔法があるゲームベースの世界とはいえ、実際にはある程度の物理法則や質量保存が適用されている現実世界。

理由や理屈が存在するはずだ。


「ああ、なんてことだ……」

「これじゃあ、いくら倒してもキリがねぇ……」

「やっぱり俺たちは、ここを捨てるしかねぇんだ……」


村人たちが絶望に膝をつく。

終わりのない戦い。毎朝繰り返される破壊。

それは彼らにとって、呪い以外の何物でもないだろう。


しかし。

私の脳裏には違う観点での思考が過る。


(……え

 もしかしてこれ…無限湧き?)


私は震えた。

恐怖ではない。


『歓喜』で、だ。


(狩っても狩っても、翌日には在庫が補充されるってこと!?

 ……『無限資源』ってことじゃない!!)


私の目には、暴れまわるイノシシが「歩く金塊」に見えていた。

倒せば鉄甲つきで皮が手に入る。

肉が手に入る。

牙も角も売れる。


それが、タダで、毎日、無限に供給される?

どんなボーナスステージよ!


「サラヤ! サッカリン!」


私は叫んだ。


「ポップ地点(発生源)を特定しなさい!

 必ず法則があるはずよ!」


「御意」

「へいへい」


二人のプロフェッショナルが動いた。

サッカリンがイノシシのヘイトを買って引きつけている間に、元・暗部のサラヤが気配を辿って森の奥へ消える。


数時間後、深夜0時を過ぎてしばらくした頃。

サラヤが戻ってきた。


「お嬢様。森の奥に、奇妙な巨大ストーンサークルを発見しました。

 魔力の溜まり場になっています。

 深夜0時にストーンサークル中央部に魔法陣が出現し、そこから魔獣が現れるのを確認しました。

 おそらく、同じ時間帯に発生するものかと思われます」


「やっぱりね!」


「どうしますか?

 サークルを破壊すれば、湧きは止まると思われますが」


ナト達が期待の眼差しを向ける。

諸悪の根源を断てば、村は救われる。

だが、私は即答した。


「馬鹿ね。

 壊すわけないでしょ」


「えっ?」


「いい?

 あれは『自動金塊製造機』よ。

 壊すなんてとんでもない!

 むしろ、管理して効率化するのよ!」


私は持っていた地図(サラヤ作成)に、バツ印を書き込んだ。


「ナト、いるわね? 連中を全員呼んできなさい!

 サッカリン、今から大仕事よ!

 その巨大ストーンサークルの下ってどうなってるの?

 魔法陣とかある?」


私の質問にサラヤがフルフルと首を振る。


「特に何もありませんでした。

 ただ、サークル側の石には文字のようなものが書かれています」


動作原理としてはそっちがキーか。


「悪くないわね。

 じゃあそのストーンサークルの真ん中に、巨大な縦穴を掘るわよ」


「は?」


「さらに、その穴の底から、村の加工場まで直結する地下トンネルと、トロッコのレールを敷くのよ」


全員がポカンとした。

何を言っているのか理解できないという顔だ。

私は懇切丁寧に説明してあげた。


「つまりね。

 イノシシが『ポンッ』と湧いた瞬間に、足元の穴に落下する。

 数十メートルの落下ダメージで即死。

 死体はそのままトロッコに乗せられて、自動的に解体所へ運ばれる。

 ――名付けて全自動イノシシ収穫システム『イノシシコロコロ』よ!」


「「「…………」」」


沈黙。

そして、サッカリンが頭を抱えた。


「お嬢……あんた、悪魔か?」


「効率化と言いなさい。

 これなら危険な狩りをする必要もないし、毎日寝てても素材が手に入るわ」


「いや、言いたいことは分かるが……大工事だぞ?

 穴掘ってトンネル通すなんて、今の人数じゃどれだけかかるか……」


「やるのよ。

 今日から昼夜交代、24時間体制で掘り進めるわよ!

 毎晩、新規落下分の処理から始めるから、サッカリンとサラヤは夜勤だからね」


二人がじっと、無言で見つめ返してくる。

無言の圧力が痛い。


「手当は出るわよ。

 この穴掘りが終わった暁には、ハイキングでもバカンスでも自由自在よ!」


「こんなド田舎の山村でバカンスはねぇわ……お嬢。

 俺はとにかく、新しい家をだな……」


そうだった、サッカリンは引っ越したばかりでこっちに来たんだったわね。


「わかったわ!

 じゃあ5階建ての家を用意するわ。

 5部屋じゃなくて5軒分よ!

 キッチンもトイレも、そうねお風呂も全部5つ!」


「キッチンも風呂もそんな数いらねぇよ!

 俺は一人暮らしだっての。

 頼むから普通のまともなとこ用意してくれ……」


「ちっ、贅沢な男ね。

 任せときなさいって!

 えっと、言うまでもなくサラヤはボーナスよね」


「はい。

 かなり期待しております」


「鉄甲イノシシ一週間分でいい?

 35頭、現物ママよ」


「現金でお願いします」


サラヤは懐から羊皮紙とペンを取り出した。

食い気味だ。


「換金後で構いませんので、こちらの証文にサインを」


「え~、売掛か~。

 じゃあそれでいいわ」


   ◇


それから、地獄の突貫工事が始まった。

昼の部と夜の部で二交代って、なかなかのブラック工事だ。

特に夜、猪処分後の作業はというと……。


「……ふわぁ」


私は大あくびを噛み殺しながら、現場に立っていた。

右手を高く掲げ、魔力を放出する。


「ビカーッ……」


私の「光魔法(物理)」が、深夜の工事現場を昼間のように明るく照らし出していた。

そう、照明係だ。

松明たいまつの光じゃ暗くて作業効率が落ちるし、酸欠の危険もある。

LED並みの光量と、排気ガスを出さないクリーンな私の魔法こそが、地下工事には最適なのだ。


「お、お嬢様……」


土まみれの作業員が、涙目で私を見上げてきた。


「もう休んでください……!

 こんな夜更けまで、俺たちのために……!」


「……んー?

 いいから掘りなさいよ……完成が遅れるじゃない……」


私は眠い目をこすりながら答えた。

正直、帰って寝たい。腕も疲れた。

だが、ここで私が光を消したら工事が止まる。

工事が遅れれば、それだけ「不労所得システム」の完成が遠のくのだ。

1日遅れれば、金貨数枚の損失。

そう思えば、眠気ごとき耐えられる。


「くっ……!

 お嬢様があんなに無理をして、俺たちを照らしてくださっているんだ!」

「貴族のお嬢様が、泥だらけの現場に立ち続けて……!」

「俺たちの村のために、あんなに……!」

「やろうぜ! お嬢様の光に応えるんだ!」


「おーっ!!」


なぜか作業員たちの士気が爆上がりしていた。

ツルハシを振るう速度が倍になっている。

サッカリンも「やれやれ、ブラックな現場だぜ」と言いつつ、大剣で岩盤を豆腐のように切り崩している。


(……ふふ、いいペースね)


眩しい光の中で、私は目を細め、口元をふわりと緩めた。


その表情は、村人たちの目には「労働の苦労を労う、慈愛に満ちた聖女の微笑み」として映ったらしい。

だが実際は、単に限界まであくびを噛み殺して、顔がひきつっていただけなのは秘密だ。

ゆるふわ美人はこういう時に便利なのよね。


とにかく、勘違いだろうとなんだろうと構わない。

早く完成させて、私は楽をして儲けるのだ。


煌々と輝くその姿は、村人たちの目には「闇を照らす希望の女神」そのもの。

だが、その女神の中身が「早く終わらせて布団に入りたいだけの守銭奴」であることを、彼らはまだ知らない。

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